釣り

 身内に釣りを趣味としている人がいないため、あまり経験が無いのだが、それでも二三回釣竿を手にしたことがある。全て海釣りだ。小学生の頃に友人に遊びに誘われ、家に行ってみると友人とその父、さらにもう一人別の友人がいて、なにやら釣竿を部屋中に広げていた。私はその頃、全くもって釣りに興味がなく、どころか帰ろうとすら思ったのだが、盛り上がっているところに水を差すのも悪いので、同行することにしたのだ。私の人生において、最初に空気を読んだのは多分この瞬間である。

 どこの海だったか覚えていないが、すぐ近くに魚市場があったのは覚えている。私たち四人の他にも何人かの釣り人がいた。私ともう一人の友人は、友人親子の手ほどきを受けて釣りを開始したのだが、これがもう恐ろしいぐらい釣れない。まあ、初めてなのでこんなものだろうと気長に構えていたが、友人父と知らない釣り人が、「子供はすぐ釣れると思っていますからね」などと談笑していて、生意気盛りの私はひどく憤慨したのを覚えている。

 結局、日が落ちるまで釣り糸を垂らし、釣れたのは名も知らぬ、というか食用に適しているのかも分からない雑魚が二匹程であった。釣ったのは私ではない。何度か引っ張っているような感触はあったのだが、手際が悪いのか、向こうが上手なのか捕獲には至らなかった。

 私たちはその後魚市場に行き、友人父にいくつかお土産に刺身を買ってもらった。「親には釣った魚だと言え」とのことだったが、マグロなんか釣れるわけないだろうと思わないでもなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る