エッセイ

東京の桜

 東武スカイツリーラインを牛田で降り、隅田川に向かって歩くと汐入公園に辿り着く。この時期になると桜がすっかり咲きそろっており、右手には桜、左手には隅田川という、ちょっと見事な景観となる。去年までは雨が降っていたのか、はたまた単に気が乗らなかったのか定かではないが特に記憶に残ることは無かった。

 東京の桜は白い。桜色と聞くと私は真っ先に濃桃色の緋寒桜を思い浮かべるのだが、東京の桜、殊にソメイヨシノは白地に僅かに朱を差したような淡い色合いをしていて、何だか不気味である。死体が埋まっているというのも頷ける。

 汐入公園の桜を愛でながら歩くと、自然に山谷へと足が向く様になっている。今でこそ何てことのない住宅街だが、すれ違う人がみな年寄であったり、朝から酒を呷る集団がいたりと何か雰囲気が違っているので、そうなると白鬚橋を渡って浅草へと歩を進めることにしている。

 一週間して、また汐入へ赴くとすっかり葉桜になっており、ヨウコウのみが少し花を残すばかりであった。桜の期限は短い。隅田川に目をやると散ってしまった桜の花びらが名残惜しそうに流れており、対岸では首都高速をトラックが轟々と走っている。時の移ろいを此処まで実感できる機会は日常においてそうあるものではない。

 来年は恐らく、故郷の桜を見ることになる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る