第16話 新生魔王の制裁魔法



 ――人はなぜ、快楽を求めるのだろう。

 ――人はなぜ、快楽を求め続けるのだろう。


「ふぅ……」


 転移魔法によってマカイノ村に帰還するまでの間、俺はそんな自問を繰り返していた。

 あれだけ射精したのだ。

 やたらと哲学的な思考に耽りたくなるのも止むなしである。


 頭の中を通り過ぎていく自問に、俺は一人、自答する。


「ただ、愛ゆえに……か」


 魔空間がじんわりと歪み、工房の中庭――懐かしい景色と同化していく。

 帰ってきたのだ。マカイノ村に。


 スタンッ! と小気味よい音を立て、芝生に着地。

 空を見上げれば、歪な裂け目は跡形もなく消滅している。

 柔らかな日差し。のどかな風。そして、森の香り。


「うむ。これぞ我が故郷なり……」


 俺がしみじみと口にしたとき。


「ジュノー!」


 少し離れたところから、耳慣れた声が聞こえてきた。


 声は一つではない。


「ジュノ様!」

「ダンナ様!」

「ご主人様!」

「魔王様!」


 様々な形で俺を呼ぶ少女たちが、こちらに駆けてくるのである。


「ジュノー!!」


 先頭はもちろんスピカ。ロングの金髪をなびかせ、満面の笑みだ。


 ――が。


「ひゃあぁぁ!?」


 彼女は俺に飛びつかんとする直前で、急制動をかけた。

 後続のアルテミスたちも、同じく。


 理由は明白。


「あひぃぃぃ……。あへぇぇぇぇ……」


 俺の足もとに、一人の少女が横たわっているからだ。

 愛にあふれたイキ地獄を味わったばかりの、女神王ヴィーナスが。


「あぁぁっ、あぁ……。き、きもひぃぃ……」


 華奢な身体を不規則に痙攣させ、女神王は絶頂の余韻に浸りきっている。

 今も彼女は全裸だが、大量の精※は拭き取り済みだ。


 その身体に、もはや聖性は感じられない。

 あれだけ強大だった魔力も、今や一切錬れなくなっている。


 ここにいるのは、ただのイキ疲れた少女だ。

 女神王がまとっていたローブが、にごり汁をよく吸い取るタイプの生地だったことが功を奏したのである。


『…………』


 スピカたちは、ただたた顔を引きつらせている。

 女神王の様子を見て、どれだけ激しい絶頂を経験したか察したのだろう。


「す、すごいイキ顔ね……」

「わたくし、そんなになるまでイキ続けられる自信がありません……」

「あら、お尻は無傷のようですね? お尻を使わずここまでイかせ倒すとは……さ、さすがダンナ様です」

「発情期まっ盛りでも、わたしには無理かも……」

「リリスの全力をもってしても、イキすぎて消滅しちゃうかもですね……」


 口々に述べられる感想に、俺は肩を揺らした。


「案ずるな。これは、女神王ヴィーナスに愛のなんたるかを教え込むためのもの。すでに愛を知っているお前たちには……」


 ――ここまでのイキ地獄は味わわせない。

 と、続けようとしたのだが。


「ふーッ、ふーッ」

「はぁ、はぁ……」

「んんっ……くふぅ」

「ごろにゃ~ん」

「魔王様ぁ♪」


 スピカも、アルテミスも、グルヴェイグも、ペルヒタも、おまけにリリスも。

 一度は恐れたくせに、全員が全員、好奇心に目を輝かせているではないか!

 審理の魔眼を使うまでもない。スピカたちの【性欲】がムクムクと膨れ上がるのを、俺は肌で感じた。


 同時に、皆の様子に疑問を抱く。


「お前たち……どうしてそんなに明るいのだ?」


 たしかに女神王ヴィーナスは戦闘不能だ。

 けれどもネーメは。ネメシスは。

 手が震える。

 目頭に熱が宿る。


「ネーメは女神王によってクリスタルに封印され、魔弾で粉々にされてしまったではないか。なのに、どうして!」


 俺は切々と、やるせない想いを吐き出すが……。

 スピカやアルテミスは【性欲】を高めつつ、『ふふっ』『んふふっ』と微笑むばかり。


 ……何かがおかしい。


「お前たち、何か妙案が見つかったのか!? ネーメを現世に復活させる手段が!」

「ご名答ですっ!」


 俺の叫びに応えたのは、リリスである。

 堕天使少女にして魔導研究師長は、平たい胸をいっぱいに張った。


「住民さんたちの介抱はメイド隊に任せ、リリスはネーメさんを復活させる策を練ったんです。そりゃ~もう必死に考えましたよ、えぇ!」


 リリスは人さし指をピンと立て、


「ポイントは、魔王様を復活させた時の術式です!」

「ふ、ふむ……。神聖空間に幽閉されていた俺の魂を引き揚げ、新たな肉体に憑依させた術式か」

「そうです、アレです! アレをネーメさんにも応用したんですよ! 天界へ昇っていく途中だったネーメさんの魂は、すでに工房の魔道具を使ってキャッチしました♪」


 そこで言葉を引き継ぐのは、


「んふふっ。あとは、ネメシスさんの肉体の精製が必要なんですよねっ!」

「ですが、それには時間がかかるとか……」

「心配……。ネメシス、魂だけになって、苦しくないのかな?」


 アルテミス、グルヴェイグ、ペルヒタの三人だ。

 そう、まさにソコなんです。とリリスは言う。


「どこかにネメシスさんの元の肉体が残っていれば、わりとすぐに復活させられるんですが……」


 俺は顎に手を添える。

 ネメシスの、元の肉体……。

 ……ハッ!

 心当たりなら――ある!


 ネーメ=ネメシス。

 ならば、てっきり淫夢だと思っていた真夜中の性教育は、現実だったことになる!


 ……やはりな。おかしいと思っていたのだ。

 ネメシスとの交わりは、夢にしては気持ちよすぎたのである。


「喜べ、皆の衆! ネメシスの元の肉体は残っている! 大丈夫だ。健康で、絶妙な肉付きで、感度抜群に仕上がっているぞ!」


 俺が勇んで口にすると、スピカは飛び跳ねて喜んだ。


「それはよかったわ!」


 しかし彼女は首をかしげる。


「……でも、どうしてジュノがそんなこと知ってるの? 感度抜群とか……」

「ぬっ!?」


 失言だった……! が、今さら慌てる俺ではない。


「それは後で説明しよう。とにもかくにも、ネメシスは復活可能なのだ。今はそれを喜ぼうではないか」


 鷹揚な態度でそう告げると、スピカは眉根を寄せながらも、『え、えぇ……』と一応納得したようだった。

 さて、残る懸念は――。


「はぁはぁ……まおうしゃま……。はひぃぃ……」


 芝生の上でイキ地獄の余韻に浸っている、全知全能の高いカリスマを持っているらしい少女である。

 俺は彼女を抱き起こし、羽交い締めのような体位に移行した。


「ジュノ……。その子、どうするの?」


 スピカの声音に宿るのは、ほのかな疑念。

『まさか、女神王ヴィーナスも魔界の一員に加えるつもりなの?』という想いだろう。


『…………』


 アルテミスたちも不安げな面持ちだ。

 皆、俺の裁定を待っているらしい。


 俺は小さな咳払いを交え、


「今となっては、こやつに魔導調律を使い、魔族に堕とすことなど造作もない。しかし……俺にそのつもりはないのだ」


 ざわっ――。

 空気が揺らぐ。


「じゃあ、ジュノはどうするつもりなの?」

「俺は……」


 言いかけて、口をつぐむ。

 実演したほうが早いと思ったのだ。


 俺は左手だけで羽交い締めを継続したまま、右手を女神王ヴィーナスの下半身へ持っていく。


「当代の女神王ヴィーナスは、あまりにも多くの犠牲者を出した。己の怠惰な生活を維持するために、己以外のすべてを蔑ろにしてきたのだ」


 それに――。


「なにより、こやつは俺の大切な家族を傷つけた。己の子供じみた感情に任せて!」


 いったん言葉を切り、呼吸を交える。


「――よって、こやつをすぐに許す気はない!」


 そして俺は叩きつけた。

 女神王ヴィーナスを厳罰に処す――その決意を。


『……ッ!』


 スピカたちが目を見開く。厳罰の内容が気になるのだろう。

 女神王ヴィーナスに相応しい刑罰は、すでに決めている。


「さあ、始めようか……!」


 俺は右手で、女神王の濡れそぼった花園をかき回した!


「んひぃぃぃぃぃっ!!」


 細い身体が嬌声とともに跳ねる。

 指先に感じるのは、熱い蜜汁。

 そして、きゅうぅぅ……という官能的な締めつけだ。


「ひあぁぁっ! まおうしゃま! 大しゅきな魔王しゃまぁぁぁ!」


 俺は構わず指を動かす。

 ぐぢゅっ! ぶぢゅっ! とあえて下品な音を立てて肉襞を擦り上げ、女神王の鼓膜までをも辱めるのである。


『…………』


 それを間近にしたスピカたちは、


『あぁぁ……』


 指先を口もとに添え、物欲しそうな視線を向けてきた。

『いいなぁ……』というセリフが聞こえてきそうだ。


「はぁあぁ! んんん……っ! はぁ、はぁぁ……っ! あぁぁああ!」


 しかし、今の主役は女神王。

 我が厳罰を受けるのは、こやつの特権なのである。


「ククク……どうした? そんなに腰を振って」

「らって! らってぇぇ! もっとイキたいからぁぁぁあああっ!」


 全身を震わせて快楽に溺れながら、女神王ヴィーナスは玉のような小尻を、俺の股間に擦りつけてきた。


「ほほぅ。当初はあれだけ嫌悪していた魔界の宝剣だぞ? 女神王ヴィーナスとして、それでよいのか?」

「いい! いいもん! 女神王である前に……わ、わたひはおんにゃのこで……! えっちなことが、だぁいしゅきになっひゃったからぁぁぁ!」


 ぐぢゅ! ぶぢゅっ! ぐぢゅぢゅぢゅぢゅ!!


「んひぃぃんっ! はぁ、はぁ……あぁぁああああああっっ!」


 女神王が顔を上げ、天に向かって卑猥な声を放出する。

 ガクガクと膝が笑い、もはや腰振りすらままならなくなってきたようだ。


「魔王しゃまぁぁあ! しゅきっ……しゅきぃぃ! ごめんなしゃい! しゅき! 許してくりゃしゃい……申し訳ございましぇんでしたぁぁ!!」


 愛の告白と謝罪を繰り返す女神王。

 俺は右手を動かしながら、ため息をつく。


「……キサマ、後悔しているのか?」

「し、しへましゅ! あぁぁんっ……ちょ、調子に乗ってしゅみませんれした! わたひは女神王ヴィーナスの名前を継承しただけの……ダメッ子れしゅうぅぅ!」

「まだ言うことがあるのではないか?」

「は、はぁい!」


 トロトロにとろけた声音で、女神王は目前の少女たちに叫んだ。


「皆しゃま! あぁん、ご迷惑をおかけしましたぁぁ……! 皆さまを傷つけるようなことをして……ごめんなしゃあい!!」

「――よし、まあよかろう」


 俺の一言に、女神王がビクッと震える。


「ゆ、ゆるしてくれりゅんですか!?」

「それとこれとは別問題だ」

「しょんなぁ!」


 俺の決意は固まっている。

 今さらどれだけ謝罪をしても、厳罰回避は不可能である。

 ゆえに、指の動きをさらに速める。

 女神王が感じるポイントを擦り、圧迫し、甘く引っかき、徹底的にかき回す!!


「ひぃぃぃっ! イク、イクイクッ……イク! イグぅぅぅ! 今までで一番しゅごいの! 昇ってくりゅうう……!」


 とうとう限界が来たようだ。

 声音は切迫し、いつ達してもおかしくない局面である。


『おぉぉ……!』


 厳罰を観戦するスピカたちの間にも、緊張感が高まっているようだ。


「魔王しゃまぁぁ! わたひ、もぉ……もぉぉぉ……!」


 ぐぢゅ! ぐちゅる! くちゅくちゅくちゅくちゅくちゅ!


 艶めかしい嬌声といやらしい水音が連鎖し、共鳴し、ぐちゃぐちゃに混ざり合う。

 指を動かしながら、俺はとある魔法を発動させた。

 漆黒の魔力を帯びた右手が、女神王ヴィーナスの秘密の女神様を、奥の奥まで蹂躙してゆく……!


 そして、ついに幕切れが訪れた。


「ひぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああっっ!!」


 ひときわ淫らな悲鳴を上げて、女神王が思いっきりイキ――――。


 ――かけた、その寸前で。


 ずるんっ。


 イかせないよう細心の注意を払いつつ、俺はいたずらな中指と薬指を、女神王から引き抜いた。


「ぁぁぁぁぁああああ……! ……ぁ、あれ……?」


 絶頂の寸前も寸前。

 あと半擦りすれば、すさまじい快楽を味わえる――そんな状況で生殺しを食らった女神王ヴィーナスは、完全に放心状態だ。


「き、気持ちいいのは……? しゅっごいのは……?」


 顎をわなわなさせる彼女に、俺は告げる。


「忘れたのか? これは厳罰なのだぞ?」


 そして、パチン! と指を鳴らした。


「あっ、あれっ!? あ、あ、あ……!」


 俺の右手に仕込んでいた魔法が、ついに発動したのだ。

 女神王ヴィーナスの足もとに、漆黒の円形魔法陣が広がり――。

 次の瞬間、ガチン!! という激しい衝突音が発生した。


「うぐっ……うぅぅ!?」


 現れたのは、俺の身の丈を超すサイズの黒色クリスタルだ。

 ネーメの仕返しとばかりに、女神王ヴィーナスを閉じ込めたのである。


 黒みがかった透明の隔壁――その向こうで、女神王は。


「あひぃぃぃぃぃっ!!」


 先ほどとまったく同じ刺激を味わい、猛烈な性的快感に悶えている。


「ククク……聞くがよい、女神王。俺は右手に、刺激を後から再現する魔法を仕込んでいたのだ」


 彼女に見せつけるように、中指と薬指を淫らに動かす。


「いまキサマが感じているのは、先ほど俺がもたらした指技の刺激だ。達する寸前まで蜜壺をかき回され、生殺しに遭い、かき回され、生殺しに遭い……。イキそうでイケない状態を、そのクリスタルの中で何度も何度も味わい続けるのだ!」

「~~~~~~~~ッ!?!?」


 女神王が目を瞠る。

 しかし、文句は出てこない。


「ひぃあああああああああっっ!!」


 当然だ。

 俺の指技――再現された刺激が彼女を襲い、何度も何度も快感を与えているのである。

 文句を口にする余裕など、皆無だ。


 ただし、どれだけ快楽を得ようとも、女神王ヴィーナスが絶頂に辿り着くことは決してない。毎回必ず寸止め限定である。


「これより数日間、お前は指の刺激と生殺しのサイクルを繰り返すのだ!」


 イキたくてもイけない状態を数日も……。

 まさしく厳罰である!


「す、すうじつ……!?」


 女神王が驚愕する。


「んあぁぁんっ、しょんなの無理ぃぃ! イキたいよぉ! イキたいよぉぉ……!」


 彼女は涙ながらに訴えてくるが、


「……諦めろ。これが、お前に対する厳罰だ」


 俺はゆっくり頭を振った。


「俺の大切なものを傷つけた罪――骨の髄まで、子宮の奥まで反省するがよい!!」

「んひぃぃぃああああああっっ!」


 淫らな嬌声から視線を切り、俺はマカイノ村の空を見上げた。


 どこまでも高く、どこまでも澄み渡った、俺の大好きな青空だ。

 マカイノ村の工房――その中庭にあるクリスタル。

 女神王本人を閉じ込めた『ジュノのヴィーナス』は、マカイノ村の……いや、魔界の平和のモニュメントとなるのだ。公開期間は数日限定だが。


 それから先――。刑期を終えた女神王がクリスタルから出てきたとき、俺は魔界を代表して、彼女をどのように扱うのだろう。

 魔導調律を使うのか、天界へ追放するのか、それとも……。

 そうして邪魔者がいなくなった後、魔界はどのように繁栄していくのだろう。

 俺はそっと拳を握り、胸に当てた。邪悪なる未来に想いを馳せるのだ。


 ……が、しかし。


 遠い未来を想うより、今は近場の現実を片付けなければ。


 俺はスピカたちに――愛すべき家族に、目いっぱいの愛情を込めて微笑んだ。


「女神王ヴィーナスを責めていたら、またしても股間が膨張してしまった。お前たちの淫らな技を総動員し、白濁の祝砲を搾り出してくれ!!」


 皆の返事は、明るく淫らで華やかだ。

 愛にあふれた俺たちの日常は、これから先も続いていく。


 魔界の繁栄とともに、どこまでも、永遠に――。

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