第10話 新生魔王の外遊記録~聖隷グルヴェイグ王国にて~



 時刻は真夜中。

 聖隷グルヴェイグ王国、王都スクルドにて――。


 ――パァン!


「あっひぃぃぃいいいいいっっ!」


 ――スパァン!


「っっはぉおぉぉおっ!?」


 王宮にほど近い高級宿屋の一室に、炸裂音と喘ぎ声が交互に響く。


「ククク……どうだ、グルヴェイグ。少しは反省したか?」

「はっ、はひいいぃ! 気持ひぃぃれすダンナさまぁ!」

「ぜんぜん反省しておらぬではないか!」


 ――スパン! スパンスパン!


 俺は派手な音を立て、目前の熟れたナマ尻を何度も平手で打ち据えた。

 もちろん尻の主はグルヴェイグだ。

 宿屋のダブルベッドに両手を突かせ、トレードマークの重たい尻を思いっきり突き出させている。


 服や下着によるガードは不許可。

 やたらと丈の短い修道服は、腰の上まで強制的にまくり上げている。

 さらに、やたらと透けている卑猥な下着は、膝のところまでずり下ろしているのだ。


 ここ聖隷グルヴェイグ王国を訪れたのは、ペルヒタ教国のときと同じく、民の前で演説を行うためだ。

 もちろんネーメも一緒である。

 今回は、俺が抱っこ係を担当することとなった。

 ちなみに現在、ネーメは奥のテーブルに置いたバスケットで眠っている。

 こんな光景、あの子にはとても見せられない。


 今日の演説は、なんとか無事に終了した。



・今後の国の指針。

・新たな教義について。

・ネーメに関する情報。



 ……といった項目は、かろうじて民衆に伝えられた。

 が、しかし!

 ペルヒタ教国での外遊を終えたあと、マカイノ村に帰ることなく聖隷グルヴェイグ王国を訪れた俺に、あのようなことをするとは――。

 今日ばかりは、グルヴェイグへの仕置きが必要だと判断したのだ。


 ――パンパンスパン!


 気分はさながら打楽器奏者。

 両手を使い、グルヴェイグの官能的な尻肉をリズミカルに乱打する。


 平手で打ち据えるたび、熟れた柔肉がぶるんっ! ばゆんっ! と波打つのだ。

 当然、勃※は否めない。

 だが、これはあくまで仕置きである。

 股間の膨らみを棚に上げ、尻の膨らみにさらなる平手を打ち下ろしていく。


 ――スパンスパン!


「んほぉぉぉおおおっっ! ハァ……ハァッ! ダ、ダンナしゃまぁ~!」

「よ、よがっていないで反省するのだグルヴェイグ! これでは仕置きにならぬではないか!」

「んぅぅっ、あひぃぃ……。ら、らって……らってえぇぇ! ダンナ様にお尻を叩かれるなんて、きもひよしゅぎるんですものぉぉぉおん! さっきから、わたひ何度もイッてひまっへぇぇえ!!」

「くっ、グルヴェイグを侮っていたか……!」

「あぁぁあっ、ダンナ様ぁあん! 真珠玉を挿入れられるのと同じように、お尻を叩かれるのも、私にとってはご褒美ですものぉん!!」

「ぐぬぬ……!」


 平手のたびに淫蜜が飛び散るせいで、すでに絨毯はまだら模様になっている。

 魅惑の巨尻は、どうやら痛みを快感に変える能力を有しているらしい。


「これは強敵だ……!」


 以前、儀式の最中、戯れにスピカの尻を叩いてみたことがあった。

 あのときは、『私、痛いのはイ・ヤ!』と、ひどく怒られた記憶がある。

 何度も謝り、スピカのリクエストである『しっとりした抱擁&優しいキス』を行うことで、やっと許してもらったのだ。


 ゆえに、なにかと尻に造詣の深いグルヴェイグには、あえて尻太鼓を仕置きにするのが効果的なのでは――と考えたのだが、いやはや酷い読み違えをしてしまった。


 ……とはいえ。

 グルヴェイグの激しい喘ぎ声は、なかなかどうして良き勃※をもたらしてくれる。


 ――スパンッ!


「はひぃいいぃっっ!」


 ――パァンッ!


「んほおぉぉぉぉっ!!」


 尻を叩き、喘ぎ声に耳を傾け、股間の血流を逞しくさせながら、俺は今日の出来事を思い返した。



          ♂    ♀    ♂    ♀



「ようこそ聖隷グルヴェイグ王国へ! ダンナ様、こちらの馬車にどうぞ。演説会場の広場まで、私と一緒にパレードです!」


 転移魔法で、ペルヒタ教国から聖隷グルヴェイグ王国へ。

 俺を待ち受けていたのは、この国の崇拝対象――グルヴェイグの熱烈な歓迎だった。


 これから乗り込む馬車を見て、


「な、なんだこれは!?」


 俺の思考は、ものの見事に停止してしまった。


 そこにあったのは、純白の馬車。

 王侯貴族がパレードを行うための、天井がない大型タイプである。

 各所に施された彫金と、精緻なレリーフ。

 二人がけの座席はソファのようにフカフカだ。

 しかも、馬車を引くのは四頭の白馬という徹底ぶりである。


 ……この時点で気づくべきだった。

 グルヴェイグと並んで座席に腰かけた時点で、俺の敗北は決定していたのだ。


「んふふ~、ダンナ様ぁん!」

「ち、近いぞグルヴェイグ。俺はこれから、多くの民を前に演説を行うのだ。気を引き締めなければ……」


 ペルヒタ教国での演説と内容が混ざらないよう、少しばかり記憶を整理する時間が欲しかったのだ。

 その言葉を無視して、ベタベタくっついてくるグルヴェイグ。

 たわわな乳※を感じながらも、俺は今日の演説原稿を想起していた。


 やがて、馬車は王都の中心へ。

 そこに待ち受けていたのは――。


「おめでとうございまーす!」

「魔王ジュノさまー!」

「グルヴェイグさまー!」

「お幸せにー!」

「ばんざーい! ばんざーい!」


 沿道に詰めかけた大群衆が、色とりどりの紙吹雪やフラワーシャワーを乱舞させる光景だった!

 誰も彼もが笑顔を輝かせ、俺たちに祝福のエールを投げかけてくるのである。


「こ、これは……! 短期間で、ここまで国柄が変わってしまうものなのか!?」


 思わず身を乗り出し、俺は目を見開いた。


 ――聖隷グルヴェイグ王国。

 そこは六芒の女神グルヴェイグが治める、徹底された管理国家だった。

 信仰対象であるグルヴェイグを崇め、奉り、褒め讃えることこそ至上の価値観。

 一日七度の祈りを捧げ、汗を飛ばして賛美歌を熱唱しなければ、人に非ず。

 異なる意見は弾圧によって叩き潰す。

 街にはグルヴェイグを讃える横断幕や絵画があふれ、どんより曇った空の下、人間たちは死んだような顔で生活していたはずだ。


 それが、今はどうだろう。

 笑顔。

 歓喜。

 祝福。

 紙吹雪にフラワーシャワー。

 そういえば、空が青く晴れ渡っているではないか。

 異常なまでの変わりようだ。


 元・異端審問の女神グルヴェイグは、


「私、考えを改めましたので!」


 四角いメガネをキリッと上げて、熟れた※乳を誇らしげに張ってみせた。


「私はダンナ様の新妻になりました。それに合わせて教義を大きく改定し、弾圧を止め、愛にあふれた国づくりを進めているんです!」

「そ、そうか……。俺としても、様々な種族が幸福に暮らせる国になれば、何も言うことはないのだが……」


 彼女の言葉に嘘はなさそうだ。

 やや面食らったが、そういうことなら、今の聖隷グルヴェイグ王国も悪くない。



 ――などと思ったときだった。



 馬車が大通りを直角に曲がり、あとは演説会場の広場へ一直線……というところで。


「うわぁぁぁぁ!!」


 視界に飛び込んできた光景に、俺は頓狂な声を上げてしまった。

 沿道を埋め尽くす人々。

 巻き起こる声援。

 またしても乱舞する紙吹雪とフラワーシャワー。

 そんな大通りの建物には。



 純白のタキシードをまとった俺と、純白のウェディングドレスをまとったグルヴェイグが、仲良く寄り添った絵画が飾られていたのだ!



 一〇〇枚や二〇〇ではない。

 大小さまざまな複製絵画が、あらゆる建物の壁面に、それはもう病的なほどびっしりと張り出されている……!!


「な、な、な……!?」


 衝撃のあまり絶句する俺に、


「魔王ジュノ様の新妻になったので、教義を大きく改め、弾圧も止める――。そう国民に伝えたら、みんな浮かれてしまって。こんなに素敵な絵画を描き、たくさん複製してくれたんです!」


 グルヴェイグはニッコニコだ。


「もちろん、ダンナ様との結婚はまだですけど、もう嬉しくなってしまいまして。今日は一足早く、結婚記念パレードを開かせていただきました!!」

「な、なんたることだ……」


 見れば沿道の人々が持っている横断幕には、やれ『祝! 御成婚』だの『ハッピーウェディング』などと書いてあるではないか。

 頬を引きつらせながら、俺は自称新妻に振り向いた。


「グルヴェイグよ……」

「はぁい!」

「……今宵は仕置きだ。覚悟していろ……」

「あ、あらら~?」



          ♂    ♀    ♂    ♀



 ――結局。

 すっかり結婚報告会だと思っている大群衆に、本来の演説の趣旨を理解させるまでには、計り知れない労力を要したのだった。

 俺なりに誤解は解いたつもりだが、一体どれだけ伝わっていることやら……。


 と、いうわけで。


 ――スパン!


「はおぉぉぉんっ!!」


 俺はこうして、グルヴェイグの尻山に制裁を加えているのである。


 とはいえ、そろそろ終演だ。

 グルヴェイグの尻はすっかり赤くなっているが、これ以上叩けば翌朝まで腫れが残ってしまうだろう。

 仕置きはしても、ケガをさせるつもりはない。

 グルヴェイグもまた、俺の大切な家族なのだ。


「はぁ、はぁ……ダンナ様ぁ?」


 首を巡らせ、とろけた表情でこちらを見つめるグルヴェイグ。


「仕置きはここまでにしておこう。……ともかく、先走った行動は慎むように。よいな?」

「はぁい……ごめんなさい、ダンナ様ぁ……」


 彼女は素直に反省を口にした。

 よって、俺は※尻を包み込むように手を置き、

「よし、いい子だ」

 素直な反省を褒めようと、赤くなったむちむちの柔肉を揉みしだいた。

 円を描くように、やんわりと。

 ――その途端。



「あっひああああぁああぁあああああぁぁあぁぁああっっ!!!!」

 ぷっしゃああああああぁぁぁぁあああああっっ!!!!



 グルヴェイグが盛大な嬌声を上げ、背筋を反らせたままベッドに崩れ落ちた。

 しかも潮※※のオマケ付きである。


「な、なんだというのだ!?」

「あひぃ……あへぁ……。……あ、あれだけ叩かれた後に、優しくモミモミされたらぁ……んんっ。は、反動で、心も身体もきゅんきゅんして……すっごいのキちゃいましたぁぁ……」

「なんと!」


 それはさながら寸止め儀式。

 暴発寸前で焦らされていた白濁砲に、最後の一コキを加えてしまった状態か。

 ――それは気持ちよかろう。


「はひぃぃ……あぁぁあ……」


 いずれにせよ、グルヴェイグは再起不能のようだ。

 彼女をダブルベッドの端に寝かせ、布団をかける。

 が、そこで俺は重要なことに思い至った。


「ハッ――。俺自身がイッていないではないか!」


 事実、グルヴェイグの※尻効果によって、俺の下半身は戦闘形態を継続中だ。一体どうしたものだろう。

「アレを、やるのか? スピカやアルテミス、リリスたちと同じように、一人で……」


 しかし俺はためらった。


「待て待て。魔王たる者、※精は俺好みの女性たちに促してもらうものだろう? それを、こんな……」


 そうこうする間にも、股間はドクドクと力強く脈打ち、発射の時を待ち望んでいる。

 性欲解消と魔王の誇り。

 両者を天秤にかけ、俺は――。


「うおおぉぉ!」


 太く、熱き肉丸太を、右手で握りしめた。


「こ、これは致し方ないことだ。……そ、そうだ。グルヴェイグの寝顔を見ながらしごき倒せばセーフなのでは……?」


 魔界的解釈を経て、俺はグルヴェイグに向き直る。


「そうだ。彼女の顔にかけてしまえば、それはもう儀式の一種。我が邪悪なるプライドに、なんら影響はない!」


 というわけで、右手をシコシコと動かし始めた。


「ぬ、ぬふぅ……! これはこれで……!」


 だが、とてもスピカたちには見せられぬな……。

 俺が苦笑した、まさにそのときのことだった。



「……ねぇ、何してるの?」



 ――心の臓が、弾け飛ぶかと思った――。


「~~~~~~~~ッッ!?!?」


 俺は股間を握ったまま振り返る。


「お、お前は一体……」


 そこには。

 青い髪を戴く、一人の少女が立っていた。


 必然、少女を見ながら股間をしごく構図になるが、それは大した問題ではない。

 着実に※※へ近づく俺に、少女は告げる。




「わたしは、ネーメ。ねぇ……わたしにも、気持ちいいこと……教えて?」

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