第2部

第1話 新生魔王の尊き家族たち

 俺こと新生魔王・ジュノの朝は早い――。


「うぅ……んぅ……」


 まどろみと覚醒の狭間を漂い、その怠惰な心地よさに身を委ねる。

 睡眠……なんと幸せな感覚なのだろう。


 仲間のたゆまぬ魔導研究によって、忌まわしき神聖空間から三〇〇年ぶりに復活を遂げた俺は、同時に人間族の肉体を手に入れた。

 食欲、睡眠欲、そして性欲。

 かつては漆黒の鎧そのものだった俺にとって、人間族の肉体の欲求はあまりにも新鮮で、あまりにも甘美だった。

 そうして俺は三大欲求を存分に堪能しつつも、三〇〇年前に自分を封印した女神どもへの復讐を誓ったのだ。


 現在、この世界リリアヘイムは、麗しくも憎たらしい女神どもに支配されている。

 だから俺は奴らを蹂躙し、快楽の深淵に叩き落とすことによって、地上をまるごと魔界に変えてやることにした。


 そう。

 俺が神聖空間に囚われている間に編み出した、史上最強の快楽スキル――魔導調律によって!

 そして再び、我が尊き家族たち――魔族が栄える世界を創るのである!!


 ……よし、気持ちが高まってきた。窓から射し込む爽やかな朝陽が、今日という日を祝福しているかのようだ。


「起きねば……」


 俺は布団を脇へどけ、身を起こそうとした。


 ――の、だが。


「ぬぅ……。やはり、あと少しだけ……」


 再びベッドにボフンと横たわる。少しだけ布団を引っ張り、剥き出しの下半身を覆い隠した。

 このごろ二度寝の悦びを知ってしまったのだ。もはや後戻りは、でき、な……。


 意識が眠りへ傾いていく。

 ふと、甘やかな闇の中に、金髪と銀髪の少女たちが映った。

 そうだ。

 金髪の少女は、ここ神聖アルテミス王国の第四王女だったスピカ。

 銀髪の少女は、ここ神聖アルテミス王国で崇められていた女神・アルテミスである。

 それぞれ人間族と神族だった二人は、俺が魔族に堕とした。

 史上最強の快楽スキル――魔導調律によって絶頂に次ぐ絶頂を経験させ、体内に張り巡らされた魔道経絡を魔族仕様に書き換えたのである。

 かつては俺と敵対していた少女たちだが、今では俺の大切な家族であり、忠実なる部下なのだ。


「乳が……揉みたい……」


 スピカとアルテミスのたわわな乳房が恋しくなり、俺がぼんやりつぶやいたときだ。


 カチャ――。


 部屋のドアが静かに開かれた。


「……気配が弱いわ。まだ寝てるみたい。まったく、ジュノったら寝ぼすけなんだから。さ、アルテミス。入るわよ」

「はぁい。んふふ、おはようございますジュノ様ぁ……」


 なんと。

 この声はスピカとアルテミスだ。どうやら俺を起こしに来てくれたらしい。

 アルテミスに起こされたことは何度もあるが、スピカが来たのは初めてだ。


 ククク――決めたぞ。

 面白いので、このまま寝たフリをしようではないか。


 二人の気配がゆっくり近づいてくる。


「あらあらまぁまぁ! 今日も素敵な寝姿で……!」

「って、どうして上半身が裸なのよ!?」

「あらスピカ様、まさかご存知ないとは。ジュノ様、寝るときは裸なのですよ?」

「…………。どうしてアルテミスは知ってるのかしら?」

「んふふっ。ジュノ様を起こしているのは、大体わたくしかリリス様ですからねぇ」

「むー。私に内緒でそんなことしてたのね!? 羨ま……じゃなくて、たまには誘いなさいよ!」

「だってスピカ様、わたくしが起きるころには早朝鍛錬に出かけているのですもの。今日はお寝坊していたからお誘いしたわけで……まあいいです。ささ、ジュノ様に朝のご奉仕をいたしましょう」


 下半身にかかっていた布団が、スルスルと引っ張られていった。


 ――ファサ。


 布団が床に落ち、とたんに股間がスースーし始める。

 直後、二人が息を呑む音が聞こえた。


「まぁ! 今日も見事なお勃ちっぷりで……!」

「な、ななななんで下半身も裸なのよ! というか、ど……どうしてこんなにおっきくなってるの!? 夢魔にでも憑かれてるのかしら!?」

「んふふんっ。スピカ様、まだまだですね。朝になると、殿方は自然とこうなってしまうのですよ?」

「し、自然と!? へぇ……男の子ってすごいのね」

「……スピカ様。ヨダレが垂れていますよ」

「垂れてないわよ! もういいわ。私、コレ……しばらく観察するから」

「あぁん! では、わたくしも一緒にっ」


 スピカの気配がベッドの左側へ。

 アルテミスの気配が右側へと移動する。


「むぐぅ……」


 なんというか……熱のこもった視線を感じる。二人はベッドサイドにしゃがみ込み、俺のモーニング・タワーに釘付けのようだ。

 おおぉ、そう考えると興奮してきたではないか……!


「きゃっ! またおっきくなったわ。ムクムクって!」

「ハァ、ハァ……じゅるり。スピカ様、わたくしもう我慢できません。早くおクチでご奉仕したいです! 根元までくわえて、朝の一番搾りを……!」

「だぁめ! 一人占めは許さないんだから!」


 二人はガバッと立ち上がり、ベッドを挟んで言い合いを始めた。


「……でしたら、二人でペロペロするのはいかがです?」


 アルテミスが魅惑の提案をスピカに持ちかける。

 うむ、良き選択だ。俺は心で拍手を送った。

 しかしスピカは、


「でも私……キ、キスもしたいわ。下半身の、その……おっきぃのをペロペロした後、すぐに口と口のキスをするのって、ジュノ的にどうなのかしら?」


 じつに微妙なラインの問題を投げかけてくる。

 これにはアルテミスも考え込んでしまった。しばらく「う~ん……」とうなる声が続いたが、ついに答えは出なかったらしい。


「こ、これは難問です……。スピカ様にしてはいい着眼点ですね」

「ちょっと待ちなさい! 『私にしては』ってどういうことよ!」


 だが、アルテミスの余計な一言がスピカに火をつけてしまった!


「たしかに私の【知力】は一八になってしまったけど、あれから書物をうんと読んで、【知力】二〇まで戻したんだからね!」

「書物って……ほとんど絵本だったじゃありませんか! それに【知力】一八が二〇になったところで、スピカ様が残念であることに変わりはありません!」

「ア~ル~テ~ミ~ス~!」

「ふんっ、今日こそは負けませんよ! ほっぺの引っ張り合いに関しては、わたくしも以前グルヴェイグやペルヒタと何戦も……痛たたたっ!」


 二人はベッドに飛び乗ると、俺を挟んで取っ組み合いを開始した。

 俺の下半身に奉仕することなどすっかり忘れてしまったらしい……。


「お、お前たち……?」


 ここまでされて起きないのは、逆に不自然だ。

 ゆえに、俺は仕方なく半身を起こした。

 左右の腕を掲げ、スピカとアルテミスの尻を鷲づかみにする。


「ひぁんっ! ……あ、ジュノ。お、おはよ……」

「あぁんっ! ハッ、ジュノ様……。おはようございますぅ~……」


 二人は仲良く嬌声を発し、本来の目的を思い出したようだ。

 ちなみに、スピカの服装はミニスカートにニーハイソックス。

 アルテミスは丈の長いローブ姿である。


「お前たちは……まったく、朝から騒々しい」


 俺は左右の手のひらに感じるふくよかな柔らかさを堪能しながら、説教を始めた。


「んぁっ、ジュノ……ごめんなさいっ……んんっ!」

「はぁんっ……ジュノ様ぁ~……。す、すみません……ぁンっ!」


 スピカの尻は、ミニスカート越しでもハッキリわかるほどハリがある。少し揉むだけでヒクッ、ヒクッと敏感な反応を示すのも長所の一つだ。

 対するアルテミスの尻は、ローブ越しだというのに手のひらに吸いついてくるほど、むっちりとした柔らかさを誇っている。

 両手を包み込む、官能的な尻肉デュエット――。

 二人のぬくもりを揉みしだいているうちに、あらゆる苛立ちが浄化されていった。


「……まあいい。この麗しき尻に免じて、今回のことは不問とする。次はもう少しスムーズに奉仕へ移行するのだ。よいな?」

「うぅ、わかったわよ……ぁんっ!」

「は、反省しますよぉ……んんっ!」


 スピカとアルテミスが腰をくねらせ、徐々に頬が紅潮してきたときだ。



「おはようございます魔王様っ♪ あなたのリリスが、お目覚めの儀式を執行しに来ちゃいましたよ~♪」



 軽やかな足取りで、リリスが部屋に入ってきた。

 彼女は俺の秘書を務める堕天使の少女である。

 小さく、なだらかな未成熟ボディ。ピンクのツインテールに漆黒の光輪。

 今日も扇情的な黒革の衣装に身を包んでいる。


「ありゃま。スピカさんとアルテミスさんに先を越されちゃったかんじですかね?」


 リリスはピンクの髪を掻きながら、ベッドのところまで歩いてきた。

 その視線が、迷うことなく暴発寸前の我が下半身に注がれる。


「おぉ~よかったです! 魔王様の朝イチほかほか濃厚ミルクは、まだ搾り取られてないっぽいですね!?」

「うむ、スピカとアルテミスがモメてしまってな。二人の尻を揉みしだきつつ、厳粛なる心持ちで奉仕の在り方を説いていたら、よけいに膨張してしまったのだ」

「ありゃりゃ……。す、すっごい勃ちっぷりですねぇ」


 今や竿には極太の青筋が走り、モーニング・ショットの刻を今か今かと待ち構えている状態だ。これも、スピカとアルテミスが美尻すぎるのがいけないのである。

 リリスは我が暁の斜塔に興味を示しつつも、


「う~ん、ご奉仕したいのは山々ですが、魔王様っ♪ 例の『アレ』、ついに完成しましたよ! 朝ぴゅっぴゅと朝ごはんを済ませたら、工房へ行きましょう!」

「なに、それは誠か!?」


 その報告に、俺は思わずベッドの上に直立した。もちろん股間も直立している。


『アレ』とは、以前から製作を命じていた魔道具のことである。

 次なる標的――南海の楽園・ペルヒタ教国を滅ぼすために必要な、いわば秘密兵器だ。


 ペルヒタ教国を支配しているのは、六芒の女神のひとりペルヒタである。

 つい先日、奴は三体の龍族をけしかけ、神聖アルテミス王国の王都をメチャクチャに破壊した。

 だから俺は、ペルヒタを次の標的に選んだのだ。奴を快楽堕ちさせ、南海の楽園をまるごと奪い取ってやるのである。


「ククク……愛らしくも憎きペルヒタめ。我が邪悪なる野望――リリアヘイム魔界化計画の肥やしとなるがいい! フフフ……フハハハハハッッ!!」


 復讐心に燃えながら、俺は腹の底から高笑いしたのだった。




 ――――――――全裸で。

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