第???話 魔族になった女神と愛のタマゴ(遠隔操作式)


 神聖アルテミス王国、王都の広場――。

 その片隅で、わたくしこと“元”六芒の女神・アルテミスは、神託の時間が来るのを待っています。

 今日は偉大なる魔王ジュノ様も一緒なので、やる気も普段の三倍です!


 神託――。

 そうです。わたくしがジュノ様に忠誠を誓った関係で、神聖アルテミス王国は魔界に編入されました。

 それにともなって、わたくしが教義を大きく変更し、この国では人間族と魔族が共存することになったのです。


 ……とはいえ、教義を書き換えただけでは足りません。

 わたくしが定期的に下界に降臨し、集まった人々にありがたいお告げをする……という形で、新たな教えを定着させる必要があるのです。

 神託の開始は正午から。もう間もなくです。


「あのぅ、ジュノ様。わたくしの格好……変ではありませんか?」


 わたくしは頬を熱くしながら、傍らの魔王ジュノ様に訊ねます。

 スラリとした長身。

 紫がかったサラサラの黒髪。

 クールなお顔は、それこそ絶世の麗しさです。

 群衆に溶け込むために、ジュノ様は額のツノを引っ込め、シンプルな白いシャツと黒いおズボンを身につけています。

 はぁん、なんたる格好良さでしょう。今すぐ襲いたくなってしまいます! もちろん性的な意味で!


 そんなジュノ様はわたくしに視線を送り、


「うむ。なんの問題もないぞ、アルテミス」


 とてもありがたいお言葉をくださいました。


「豊満な乳房が際立つローブといい、美しく整った銀髪といい、神託用の薄化粧といい……じつに股間を刺激する仕上がりになっている」

「まぁ! ありがとうございます、ジュノ様!」


 わたくしは両手でむぎゅっと頬を挟み、歓喜の吐息をこぼします。

 視線はもちろん、ジュノ様の股間へ――。

 あぁ、ほんのり膨らんでいます! 先ほどから、胸のあたりにジュノ様の視線を感じますし……これは間違いなく、わたくしの魅力によって引き起こった現象でしょう! 嬉しいです! 幸せです!


 それはそうと、この定期的な神託もそろそろ十回目になります。ただ群衆にありがたいお告げをするだけでは、スリルと興奮が足りなくなってきてしまいました。

 そこで、わたくしは考えました。

 マカイノ村の工房の技術を駆使して、あるものを発明したのです!


「ジュノ様。これ……なんだと思います?」


 わたくしはローブから発明品を取り出し、ジュノ様にお渡ししました。

 外見は小ぶりなタマゴ。

 色はわたくしの髪と同じ、美しいシルバーです。

 ツヤツヤしていて継ぎ目はありません。


「ふむ……」


 ソレを受け取り、ジュノ様は首をかしげました。あぁ、なんて知的なお顔! 見つめているだけで身体が熱くなってしまいます!


「見たところ、錬金術師どもが得意としている人造宝石のようだが……」

「ふふっ、それではヒントを差し上げますね」

「スッと答えが欲しいのだがな……」


 あぁん、歪んだ眉もステキです! わたくしは胸をきゅんきゅんさせながら、ローブからヒントとなるモノを取り出しました。


「む? その面妖な箱は一体……」

「ふふふっ。これこそ、『愛のタマゴ』に命を吹き込む道具です!」


 愛のタマゴ。いい名前だと自負しています。

 わたくしがジュノ様にお見せした箱は、手のひらサイズの薄い直方体です。


「中央のツマミで、強度を調節できるようになっています」

「強度……?」


 強度とは何の――と、ジュノ様がつぶやいたときです。

 わたくしは箱のツマミをひねりました。

 すると、



 ヴヴヴヴヴヴヴヴヴ……!!



「むっ!?」


 ジュノ様が持っていた愛のタマゴが、激しく振動し始めました!

 わたくしは満面の笑みでお伝えします。


「これこそ、わたくしが発明した魔道具『愛のタマゴ』の能力です! 神託の練習をする傍ら、工房でコレの実用化に務めていました」


 あらら、ジュノ様が呆れ顔に……?

 頭を掻き、眉を下げていらっしゃいます。


「……で? この振動するだけの魔道具、一体なにに使うというのだ? 子供のおもちゃにしても、いささか地味な気がするが……」


 わたくしはチッチッチと指を振り、ウインクをお捧げしました。


「ジュ・ノ・さ・まっ。愛のタマゴは、言わば大人のおもちゃです」

「大人のおもちゃ……?」


 ポカンとされるジュノ様。大人のおもちゃ――たしかに耳なじみのない言葉です。

 けれども他に表現のしようがありません。

 わたくしはローブの裾を、もったいつけるようにソロソロとたくし上げ、


「タマゴの方を……ここにセットするのです」


 ジュノ様に下着をお見せしました。

 今日は布地の少ない純白の逸品です。腰まわりはヒモのよう。大切な部分はレースの生地で、うっすら透けています。

 このごろスピカ様が黒や紫の下着を好んでいるので、わたくしは白系を穿き、ジュノ様を飽きさせないように工夫しているのです。


「…………ほぅ」


 ぁンっ! ジュノ様の目がギラリと光りました。

 あぁぁ……わたくしの下着を見つめる瞳――。クールなお顔をキープしていらっしゃるのに、魔獣のように野性的な眼光です!


「そしてジュノ様には、こちらの箱をお持ちいただきます」


 わたくしは箱をお渡しし、代わりにタマゴを受け取りました。

 ジュノ様の表情をチラチラと確認しながら、タマゴを下着の中に投入します。

 深遠なる快楽をもたらす女の芽――。ちょうどそこへ当たるように、タマゴの位置を整えました。


 箱を手にしたジュノ様が、ハッと息を呑みます。


「もしや……アルテミス。俺は神託の最中、この箱を使ってお前に悦楽の振動を……!?」

「ご名答です、ジュノ様っ」


 嬉しさのあまり、わたくしは笑みの花を咲かせました。

 胸のところで手を組み、ジュノ様を上目づかいに見つめます。


「さぁ、どうか試してみてください。ジュノ様の尊いお気持ち……わたくしの大切なところへお伝えいただけたら嬉しいです」

「ほほぅ、なるほどな。なかなか凝った趣向だ。……どれどれ」


 ジュノ様が意気揚々とツマミに手を添えます。

 そして――。



 ヴヴヴヴヴヴヴヴ……!!



「はひゃああぁぁぁぁぁっっ……!」


 愛のタマゴが振動を開始しました! わたくしの花園が瞬時にじゅわっと熱くなり、背筋に快楽のイナズマが駆け抜けます。

 なおもタマゴは振動を続けます。あぁぁ、腰が引けてしまいます。お腹の奥が熱いです。自分でもわかるぐらい下着が濡れそぼり、愛のジュースがポタポタと地面に垂れてきてしまいました。


「これは……素晴らしい発明品だ! でかしたぞ、アルテミス!」

「ッッ……はぁ、はぁ、はぁ……」


 そこで振動が止まりました。わたくしはヒザをガクガクさせながら、ジュノ様をジッと見つめます。

 むろん、股間のマッスルソードを……。

 ズボンの生地を突き破らんばかりに、股間がドクドク脈打っています。このまま人前に出たら、憲兵さんのお世話になってしまうかもしれないほどに。


 ゴ――ン……。ゴ――ン……。


 そのとき、正午の鐘が鳴りました。いよいよ神託の時間です。


「で、では行って参ります。今日は邪魔者……ああいえ、スピカ様はお留守番ですし、わたくしだけを見つめていただけたら嬉しいです。愛ある振動とともに……」

「うむ! 魔界の未来へ繋がる神託、期待しているぞ」

「はぁい!」


 わたくしはジュノ様のもとを離れ、物陰で魔力を錬り始めました。

 そして解放――。全身に銀色の燐光が舞い散り、後光が射し、清浄なるわたくしにピッタリの演出が完成します。


「ジュノ様……どうかわたくしの心に、邪悪なるお力添えを……」


 続けて、浮遊魔法を詠唱しました。

 身体がふわっと宙に浮き、瞬く間に大空へ舞い上がります。

 いったん上空へ移動してから、ゆっくりと広場へ降りていくのです。これをやった方が民のウケがいいので、面倒ですが仕方ありません。

 わたくしは呼吸を整え、下界への降臨を始めました――。




「――というわけで、皆さん。人間族と魔族は、これから先も手を取り合い、魔界の未来に向けて歩んでいかなければならないのです」


 広場を埋める群衆を前に、わたくしは宙に浮かびながら神託を施します。

 王都の広場は大きいです。

 見渡す限り、人、人、人。

 わたくしの英姿は遠見の魔法によって、神聖アルテミス王国の全土に映し出されています。こうしておけば、広場に来られなかった人間たちにも神託の内容を伝えられるというわけです。


「では大司教。倦まず弛まず、わたくしの教えを守りなさい。栄光あふれる魔界を実現するために、新たな国づくりに励むのです」


 いったん言葉を収めると、群衆から歓声が上がりました。

 最前列の大司教や司祭たちは地べたにひざまずき、深々と頭を垂れています。


「アルテミス様の御心のままに……!」

『御心のままにー!』


 ちなみに彼らは、わたくしの言うことに絶対に逆らいません。

 人間族と魔族の共存――。正直、ちょっとばかり無理のある教義ですが、大司教と司祭たちがキチンと働いてくれれば、いずれしっかり定着していくはずです。


「栄光あふれる魔界づくり……お任せください!」

「魔族との共存につきましては、今後も粘り強く布教して参ります!」

「アルテミス様のご加護をー!」


 王族だって同じです。司祭たちとともに頭を垂れ、感激のあまり涙まで流しています。

 群衆もそれに釣られて、大声で祈りを捧げたり、大泣きを始めました。


 立法、行政、宗教。

 人、物、金。

 国を形づくるすべてが、わたくしを中心に回っている――。


「はぁぁ~……快☆感ですぅ……」


 思わず熱い吐息がこぼれました。

 だって……魔王ジュノ様は、そんなわたくしをも支配しているのですから。

 なんて大きなお方……。支配される悦びを教えていただいたことに、わたくしは深い感謝を抱きました。


 さて、もう少しだけ念押ししておきましょうか。

 わたくしは群衆に目を向けて、新たな教えを繰り返し伝えてゆきます。


「魔族たちを恐れる必要はありません。彼らも人間との共存を望んでいるのです。すでに皆さんの街にも、魔族がやってきているでしょう。双方の文化の違いにより、はじめのうちは諍いが起こるかもしれません」


 と、そこまで語り上げたところで、



 ヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴ……!!



「――ですが、そのときはわたくしの神託を思い出しっひぃぃぃぃぃぃんっ!?」


 下着の中――愛のタマゴが、激しい振動を始めました!


 あぁぁぁぁ来ました! ジュノ様の愛が、来ましたぁぁぁ! さんざん焦らしておいて、こんなタイミングで振動させるなんてぇぇぇぇぇっ! んぅぅっ、ジュノ様はどこにいらっしゃるのでしょう? あぁん、わかりません!


「ま、魔族とともにぃぃんっ! あ、あっ、あゆっ、歩んでっ……いけばぁぁぁああぁぁあんっ! はぁ、はぁ……んぅっ、くぅぅぅううぅ……!」



 ヴヴヴヴッ、ヴヴッ、ヴィィィィィッ……!



 振動が頻繁に変化します。まるで肉芽を弄ぶように――。

 さすがジュノ様。すでに愛のタマゴを使いこなしていらっしゃいます!


「アルテミス様、どうされたんだ?」

「そういえば、今日は最初から雰囲気が違ったような……」

「もしや、お身体の調子が?」

「たしかに! お顔が赤いぞ!」


 群衆がざわつき始めます。

 わたくしが大人のおもちゃでイキかけている……とは思っていないようですが、これはいけません。このまま続ければ、きっと気づかれてしまいます!

 ですが――。



 ヴヴヴヴヴッ、ヴヴンッ、ヴィヴィヴィヴィヴィヴィ……!!



「んひぃあぁあああぁぁあっ! ま、魔族と共存するにあたってぇぇぇええぇんっ! せ、生活の風紀を改めっ、あ、あらためぇぇぇぇっ! ふ、ふふふ腐敗のにゃいっ、健全な国家じゅくりをぉぉっ……!」


 あぁぁ、振動します。ぶるぶるです。気持ちいいです。

 ジュノ様は見つかりません。刺激がどのように変化するかもわかりません。

 不安です。怖いです。誰にもバレてはいけないのに!

 ですが、これは……!


「しゅっごくドキドキしましゅぅぅぅっ! んぁぅ! こ、こここ国民全員がドキドキしちゃうっ……っひぃぃん! か、活気あふれる国にぃぃっ! わたくし、し、したいと思ってぇぇ! 今日も神託ぅぅっ! がんばってまあぁぁああぁぁあすっっ!」


 ビクッ、ビクン!

 背筋が跳ねるように痙攣し、頭の中が純白に塗りつぶされます。あぁぁ、全国民が見ているのに、これほど激しく達してしまうなんて――。


 ……でも、大事なことがわかりました。

 愛のタマゴによる儀式とは、絆の確認なのです。

 タマゴの振動は、箱を持った殿方の想いそのものではありませんか。

 どんなに離れていても、お姿が見えなくても、タマゴの振動によってお互いが繋がっていることを確かめられるのです。

 あぁ、なんて尊い儀式なのでしょう。


 わたくしが絶頂している間も、タマゴの振動は止まりません。



 ヴィヴィヴィ、ヴィィィィィッ、ヴヴヴヴヴヴヴヴ!!



「こ、これにてぇぇぇ! わ、わっ、わたくしからの神託を終わりますぅうぅぅうぅんっ!? んぁぁイッてるっ! わたくし、まだイッてますのにぃぃ! あぅ……じゃなくて、今すぐ行って……この教えを広めなさぁぁぁい! ま、まかっ、魔界のっ……は、繁栄のためにぃぃぃぃぃいいいいいっっ!!」


 ビクンッ、ビクンッ!

 ただでさえ激しい絶頂を、さらに激しい絶頂で塗りつぶされながら、わたくしは神託を終えました。


 群衆が盛大な拍手を打ち鳴らします。

 誰もが瞳に涙を浮かべ、それはもう感動の嵐です。

 ……どうやらセーフのようですね。わたくしが盛大に達してしまったことには、たぶんギリギリ気づかれていません。

 それにしても、宙に浮いていてよかったです。……もう少し民との距離が近かったら、たいへんなことになっていたでしょう。


 わたくしが再び空に舞い上がると、群衆は徐々に広場を去っていきました。人間族と魔族が共存する――そんな日常へ戻っていくのです。


「はぁ、はぁ……ジュノ様ぁ……」


 わたくしは胸をぎゅっと押さえました。しばらくしたら地上に降りて、なんとしてもジュノ様をお捜ししなければなりません。


 だって……。

 この切ない疼きを鎮められるのは、この世とあの世を見渡しても、魔王ジュノ様だけなのですから――。

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