第7話 高貴だった"元"王女と性なる儀式


「あひぃっ、あぁぁあぁぁっ……ま、またイクぅぅぅ……っ!」


 今日こそきっちり耐えてみせるはずだった。

 なのに、私は……!


「ねぇ待って! 私、今イッてるからぁ! イッてる最中だからぁ……!」


 どんなに叫んでも、ジュノは手を止めてくれない。


 ここはジュノの部屋。

 ベッドサイドで後ろから抱きしめられて、あとは彼の思うがままだ。

 露わになった膨らみを手のひらで揉みしだかれ、ぷっくりしてきたピンク色の頂を、しつこく弄ばれる。

 こんな男に翻弄されるなんて屈辱なのに。あぁ、でも……!


「ひあぁぁぁあぁぁっ!」


 また気持ちいいのが昇ってきて、頭の中を真っ白に飛ばされてしまう。

 腰が跳ねる。背筋が痺れる。

 うぅ、これでもう四回目……。


「あぁぅ……ジュノ、んんぅっ!」

「スピカよ、いい反応だ。男として嬉しく思うぞ」

「う、うるさいわね! 全然、こんなの気持ちよくないんだからぁぁあん!」


 太い腕にむぎゅっと包み込まれ、抵抗の声を封じられる。

 私の背中に、ぶ厚い胸板が当たっている。

 ジュノのいい匂いを……感じてしまう。

 しかも今、彼は全裸だ。

 私のスカートの中に、大きくしたものを突っ込んでいるのだ。


 だから、感じる。

 下着越しに、彼の力強い脈動が、生々しく……。


「あぁ……おしり、熱いぃ……」


 おっきい。硬い。たくましい。

 灼けた鉄棒のようなそれを、ジュノはしきりに私のお尻にこすりつけ始めた。


「はぁっ、うっ……スピカ……」


 ジュノの声が切なそうに揺れる。

 そのとき――不思議と胸が高鳴った。

 私の身体を使って、こんなに気持ちよさそうな声を出すなんて。

 そう考えると、なんだかこの魔王が可愛く見えてきて……って! 騙されちゃダメよ、私!


「はぁぁっ! ジュノぉぉっ、そこぉ……らめぇぇぇぇ!」


 ※※をつままれ、その快感に悶えながらも、私は首を左右に振った。

 この男が可愛いなんてありえない! こいつは魔王。悪いやつなのだ。

 私が必死に葛藤する中、


「ハァハァ……スピカさん、じつにイイですよ~」


 リリスは鼻血を垂らしながら、こちらに魔導カメラを向けている。


「あぁんっ……と、撮らないでよ!」

「いやいや。これほどの痴態を記録しないなんてもったいないですよ!」

「もったいなくないわよばかぁ!」


 私が叫ぶと、ジュノが魔導カメラに興味を示した。


「はぁ……うっ。そ、その魔導カメラとやら、一体なんだ?」

「これはですね、場面を記録できる魔道具なんです。魔王様とスピカさんの情事を、後から何度でも見られるんですよ♪」


 すかさずリリスが答える。

 ジュノは「ほう」とずいぶん感心しているようだ。

 そうか。ジュノは三〇〇年ぶりに復活したから、魔導カメラを知らないんだ。

 くっ……考えてみれば、ジュノって相当なお爺ちゃんじゃない! こんなお爺ちゃんに何度もイカされてしまうなんて、私ったら……!


「……スピカよ。今、失礼なことを考えていなかったか?」


 ドキッ!


「ど、どうしてわかったのよ!?」

「乳※に触れていれば、それぐらいわかる。※首は口ほどにモノを言うのだ」

「やっぱりあなた、わけがわからないわ!」


 だけど、非を認めてしまったのはマズかった。ジュノは私の※乳をくすぐりながら、リリスに告げる。


「これは罰が必要だな。リリス、結界魔法を発動させるのだ。景色は……ふむ。スピカに直接訊くとしようか。ククク……」

「いえっさです! さぁてスピカさん♪ 今からとっても恥ずかしいコトが起こっちゃいますよ~?」


 ジュノとリリスがニヤリと笑う。と、とっても恥ずかしいこと!?


「……ごくり」

「スピカさん。今、期待したでしょ?」


 リリスにジトッとした視線を送られる。


「き、期待なんてするわけないでしょ!? くっ……もういっぱいイッたんだから、そろそろ許し……」


 しかし、言葉はそこで断ち切られた。

 リリスが床を殴り、結界魔法が発動したのだ。


 いきなり景色が入れ替わる。

 ――外だ。青い空。白亜の城壁に緑の芝生。

 演台の上にいる私を、たくさんの人たちが見つめている。


「ここは、まさか……」


 神聖アルテミス王国の、王宮の中庭だ! 私は王女として、ここで何度となく演説や式典をやってきたのだ。


「なっ……エミル、ソフィア、リューコ!? 他のみんなも、ど、どうして!」


 群衆の最前列で目が止まる。

 私の騎馬隊で、ともに活動してきた少女たちだ!

 その後ろには無数の町人や貴族がいる。あぁ、お父様にお母様まで!

 だけど様子がおかしい。

 みんな私を見上げて、赤面したり、顔を覆ったり、汚いものを見るような視線を投げかけてくるのだ。


「ほっほー。こりゃ~壮観ですねぇ♪」

「フフフ。公開処刑のようで、股間が引き締まる思いがするぞ」

「リリス、ジュノ! ……はぁあぁぁんっ!」


 ※※※※をお尻の割れ目に押し当てられ、私ははしたない声を上げてしまった。

 それからすぐに絶句する。

 景色が変わっても、私の格好はそのままだったのだ。


 たぷんと露出した胸。

 屈強な魔王に抱かれているのを、みんなに見られている!


「さすがはリリスだな。なんと芸術的な結界魔法だ」

「お褒めいただき光栄ですっ♪ この結界は、スピカさんの記憶とリンクさせてますからね。そりゃ~もうリアルですよ」

「これが、ニセモノ……!?」


 信じられない。

 だとしたら、なんて精度の結界魔法なの!?


「ちょ、やめっ……あぁん!」


 ジュノに※※をタプタプされ、つい嬌声を洩らしてしまう。


「スピカ様……なんていやらしい」

「お下品な※※ですこと」

「王女のくせに恥ずかしくないのかしら」

「存在そのものが国辱だわ」


 無数の群衆が表情を歪め、口々に非難の言葉を投げかけてきた。


「んぁっ……みんな、見ないで! こんな私を見ないでぇ!」


 だけど――あぁ、快感が昇ってくる。

 みんなに見られているのに、なぜか、さっきよりも気持ちいい――!


 エミルが、ソフィアが、リューコが。

 他のみんなも、お父様もお母様も、私がイクのを観察してる……!


「み、みんな! ちがっ……これは違うのぉぉ!」


 たしかにみんなの想いを、ずっと重荷に感じていた。

 だけど、一〇年以上も一緒だったのだ。

 エミルたちのことは友達だと思っている。

 本当に腐っているのは国の体制だ。

 エミルたちが私に寄りかかるだけになってしまったのも、腐った国が原因なのだ。

 だから、告解魔法士の力を使ってこの世界を改革して――。

 みんなを救いたい!!


「こ、これは強くなるための儀式らからぁあぁぁっ! んぁっ、あぁぁん……ぜ、ぜんぜんいやらしくないのよぉぉぉ……!」


 もう、盛大に下着を濡らす覚悟はできていた。


「あぁイク、イクぅぅっ! みんなの前で、イ……くぅ?」


 なのに快楽の大波が、唐突に霧散してしまった。


「ククク、どうしたのだ?」

「うぅぅっ、ジュノ……!」


 私が達する寸前で、魔王が愛撫をやめたのだ。

 

 それから先は、もう酷いものだった。

 ジュノは私に激しい愛撫を行うものの、達する寸前で毎回指を止めてしまうのだ。

 指……動かしてほしい……。

 快楽の熱に浮かされた私に、ジュノはいろいろな命令をしてきた。

 最後まで指を動かすことを条件に、恥ずかしい命令を、たくさん……!

 なのに、ジュノは!


「ふぅ……。少し腕が疲れたな。む、どうしたスピカ。泣きそうな顔をして」


 白々しくもそんなことを言って、愛撫の手を毎回止めてしまうのだ。

 あと一回。

 あと一回だけ指を動かしてくれたら、達することができたのに!


「ぁう……えぅ……」


 もう、言葉にならない。女の子の部分が疼いて、お腹の奥が切なくて。

 ジュノに、もっと強く抱きしめてほしくて――。

 そう思った矢先、彼が新たな条件を出してきた。


「スピカよ。ここで自分が魔族だと宣言するなら、指を止めずにイカせてやろう」


 なんて卑怯な! やっぱりこいつは悪いやつだ!

 私の心が叫んでいる。胸に怒りが湧いてくる。

 なのに――。

 心の片隅で、声が聞こえてきた。


『もう身体は魔族なんだし、ちょっと認めるぐらいならOKじゃないかしら?』

『もっと気持ちよくなりたいわ』

『告解魔法士として国を救うためなんだから、セーフよ』


 それは紛れもなく私の声だ。

 押し殺していた本心だ。


「…………する、わ」


 かすれた声で、つぶやく。


「……わ、わたひ、スピカ・フォン=シュピーゲルベルクは……魔王ジュノ様の、み、御心によってぇ……ま、ま、まじょく……ま、魔族に、な、なりましたぁ……」


 ――言った。言ってしまった。

 しかし、同時にすさまじい解放感が全身を駆け抜け、かすかに残っていた肩の荷をまるごと吹き飛ばしていった。


「よく言えたな。スピカ」


 ジュノに頭をなでられる。

 大きな手……。あったかい。優しい。


「これでお前は正式に、俺の大切な家族だ」

「はぁい……」

「では、イこうか……!」

「はぁい……んんっ! はぁぁあぁああぁああぁぁんっ!!」


 ジュノの指が加速する。

 背筋を快感が駆け巡る。


 そして、ついに。



 ――私は演題の上から、絶頂の証を迸らせたのだった。



 最前列のエミル、ソフィア、リューコたちの顔がずぶ濡れになっていく。

 かつての仲間たちが、群衆が悲鳴を上げた。


 あぁ……。もう、ぜんぶ、おしまいだ。

 過去との訣別。

 そんな言葉が脳裏に浮かび、私は腰から崩れ落ちた。

 ……かに思えたが。


「スピカ。改めて、ようこそ魔族の世界へ」


 ジュノはたくましい腕で私を抱き留め、そのままひょいと持ち上げた。

 この体勢は……お姫さまだっこだ。


「ジュノぉ……」


 私はすがりつくように、彼の首もとへ腕を回した。

 彼の体温が、胸を苛む喪失感を埋めてくれるような気がして……。

 ずっと憧れていたお姫さまだっこ。

 まさか、こんな男に叶えられるなんて。

 彼に敵意を抱こうとしたが――できない。

 だって、だって。



 こんなに優しくだっこされたのは、生まれて初めてだったから――。



 景色が揺らぐ。

 結界魔法が解け、ジュノの部屋に戻ってきた。


「よく頑張ったな、スピカ」


 彼のベッドに寝かされ、いい子いい子と頭をなでられた。

 目を細め、私はそれを受け入れる。

 後悔は――ない。

 この男はえっちでいじわるで尊大だ。

 だけど、心の中では私のことをちゃんと考えてくれている。


 愛撫の指が、とっても優しかったのだ。

 激しくしながらも、最後の最後まで、私のことを一番に考えてくれていた。


 そうでなかったら、彼のささやきを甘いと感じることもない。

 彼の匂いを心地よく感じることもない。

 達した後に、こんなにも満たされた気持ちになれることだって……きっとない。


「ジュノ、す、す……」


 膨らんでいく好意を、一思いに告白しようとしたときだ。


「ありゃりゃ。魔王様、ずいぶん苦しそうですねぇ」


 リリスの能天気な指摘が、私の言葉を遮ってきた。

 彼女はジュノの※※を見つめている。

 霞んだ視界の中、私もそこへ目をやって――。


「あぁ……」


 思わず、ため息をもらした。

 ジュノの※※※※は、今にもはち切れんばかりに反り返っていたのだ。


「んっふっふ♪ それじゃあ不肖リリスが、お世話しちゃいますね~」


 そこで動いたのは、堕天使の幼女リリスだった。

 彼女は魔王の前に恭しくひざまずき、“お世話”を始めたのだ。


「はぁ……うぅっ、リリス……いいぞ」

「んん~っ、いいお顔です魔王様♪ 魔王様の※※は……みぃ~んなリリスがいただいちゃいますからっ」


 視線を絡め合うジュノとリリス。

 そんな二人を目の当たりにして、私は……。


 ――むかっ。


 胸の奥が熱くなった。

 苦しいような切ないような、生まれて初めての感覚だ。

 だけど、今の私にはどうすることもできなくて……。

 次第にまぶたが重くなり、意識は、闇に呑まれた。



『――スピカ・フォン=シュピーゲルベルク。告解魔法【斬式】第一章「過去との訣別」を習得しました――』



 どこか遠くで、そんな声が響いた。

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