第5話 新生魔王の魔導調律


 俺が使った審理の魔眼は、やはり精度を上げていた。


 知力二〇。性欲八八〇。

 自称、誇り高き第四王女。

 スピカ・フォン=シュピーゲルベルクの珍妙なステータスは、彼女自身の乱れっぷりが証明してくれたのだ。


 いやはや。

 王女のくせに、ちょっと胸を触っただけで嬌声を洩らしてしまうとは。あまりにチョロすぎて、こちらが心配になってくるではないか。

 下準備の愛撫を終え、俺が魔導調律を発動させた瞬間、


「あぁぁああぁぁぁああぁあああぁああああぁああぁっっ……!!」


 というスピカの甲高い絶頂の声が、魔空間に響き渡った。


「はぁ、あぅ……今、何を……あぁぁ……」

「安心するのだ、スピカ。これからもっと気持ちよくしてやろう」


 スピカは小刻みに痙攣し、もはや膝はガクガクだ。それでも辛うじて立っているのは、王女としての使命感ゆえなのか。

 まあいい。そんなもの、すぐに快楽で塗りつぶしてやろう。


 俺は呪文を詠唱する。

 女神王ヴィーナスと、その手下である六芒の女神たち。

 奴らに封印されている三〇〇年の間に編み出した史上最強の快楽魔法を、このスピカに味わわせるのだ。

 俺の両腕に魔力が集まる。

 やがて腕を軸にして、黄色く光る円形の淫紋が何重にも現れた。


「さあ、始めよう。俺の三〇〇年――とくと味わうがい」

「……ひぁんっ!」


 俺は、たわわに実ったスピカの膨らみを両手で包み込んだ。

 鷲づかみにするような愚は犯さない。

 そっと、優しく、想いを込めて。

 リリスに教わった愛撫の流儀は、きちんと守らねばならないのだ。


「あっ、あぁっ……にゃによ……これぇっ!」


 すでにスピカのろれつが怪しい。


「何よと問われれば――俺の両腕に幾重にも浮かび上がっていた淫紋が、スピカの体内にすべて注ぎ込まれた。といったところか」

「れっ、冷静に説明しないでよぉ……あぁあんっ!」


 手のひらに、たっぷりとした質感が広がる。ふにゅっ、ふにゅんと柔らかく、ハリがあるスピカの乳※……。なんと瑞々しいことか。


「あぁぁっ……入ってくるぅぅぅぅ……。嫌っ……あなたの魔力でできた淫紋なんて、入れたくないのにぃぃぃ……!」


 スピカの体内に淫紋の力が行き渡るまで、さほどの時間はかからなかった。


「はぁ、はぁ……身体っ……熱いぃ……」

「案ずるな。スピカの魔道経絡への介入が完了したのだ」

「……ッッ!? そ、そんなこと、できるわけ……!」


 身体にいくつもの淫紋を浮かべたスピカが、愕然とする。

 魔道経絡。

 それは魔力の源。

 魔法を扱う者の全身に張り巡らされた、魔法の設計図のようなものだ。

 魔道経絡の形は一人ひとり異なる。

 魔法の鍛練を重ねるたびに身体の奥底で少しずつ成長し、やがて全身に唯一無二の根を張るのである。


 つまり、魔道経絡とは。

 決して侵してはいけない、魔術師の人生そのものなのである。


 俺の魔導調律は、その尊き魔道経絡に介入できる。

 相手の能力を潰すことも、奪うことも、与えることも、すべてが思いのままなのだ。


 そこまで説明し、俺は微笑んだ。


「この魔導調律によって魔道経絡を書き換えることで、お前を『王女』から『魔族』へ堕とすというわけだ」

「やっ……やめっ……んぁあぁぁんっ、くぅぅっ……ああぁぁあんっ!!」


 口では嫌がっているスピカだが、さっきから小さな絶頂を繰り返している。


 そう。

 魔導調律には、とてつもない性的快感がともなうのだ。


 もちろん痛みを与えるように術式を組み上げることもできた。

 だが、あの麗しくも憎らしい女神どもに復讐するには、性的快感が適している。

 我が魔性の愛撫によって喘ぎ狂い、無様に絶頂を欲するようにしてやるのだ。


「はぁ、はぁ……。負けない……! あなたのえっちな魔法になんて、ぜったい負けないわ……!」


 なおも気丈に言い返してくるスピカ。

 澄んだ瞳の輝きが、俺をまっすぐ射貫いてくる。


 ――だが、無駄だ。


「は、離しなさい……! 私はスピカ・フォン=シュピーゲルベルク。し、神聖アルテミス王国の……誇り高き……」


 言葉の途中で乳※をつまんだ。やや強めに。

 スピカのまっすぐな心を、愛撫の快楽で叩き折るために――。


「~~~~~~~~~~~~ッッ!!」


 淫らに悶えるスピカの裸体には、黄色い淫紋が浮かび上がっている。

 だが、すぐに淫紋の色が黄――赤――ピンクと変化していく。


「な~るほどっ♪ 淫紋の色によって、魔導調律の進行度がわかるわけですね。ナイスです魔王様っ!」


 傍らのリリスが快哉を叫ぶ。

 彼女の瞳はギンギンに輝いている。呼吸は荒く、鼻血を垂らしているが……まあ、やりたいようにやらせてやろう。


 スピカの体内は今、大変なことになっている。

 なにせ、これまで女神の加護を受けてきた魔道経絡がバラバラに崩され、女神とは正反対の魔族仕様に組み直されているのだ。

 それにともなう快感の激しさといったら――、


「あぁぁぁっ……! んぁあっ、はぁんっ! だめっ、らめぇぇぇ……! わたひの魔道経絡ぅぅっ! ぐちゃぐちゃにしちゃらめぇぇぇ……!」


 スピカの鼻にかかった悲鳴から、大いに察することができる。


「もはや我慢することもあるまい。潔く魔族になったらどうだ? 魔族として、リリアへイム魔界化計画に協力するのだ」

「なるわけにゃい! わ、私は……ほ、誇り、高っ……ぁぁっ、あぁぁ……!」


 声は乱れているが、まだまだ心は王女の形を保っているようだ。

 ならば、揺さぶりをかけるとしよう。



「魔族になれば、王女の重圧から解放されるのだぞ?」



「――ッ!?」


 スピカがビクッとする。


「な、なにを言ってるの? んんっ……わ、私は戦う王女としての運命を背負って……んんっ、神聖アルテミス王国の、民の、ために……」

「誰もがキサマに寄りかかり、希望という名の重圧を無遠慮に押しつける。そしてキサマがどれほど頑張ったところで、国の上層部の腐敗は変わらぬ。……そんな王国、身を挺して守るほどの価値があるのか?」

「ど、どうしてそこまで事情を知ってるの!?」

「スピカ……。そういうことは、もう少し隠そうとした方がよいぞ?」


 正直すぎて、敵ながら心配になってくる。さすがは知力二〇だ。

 ……と言いたいところだが、今は魔導調律の快楽によって判断力を失っているのだろう。かわいそうなので、そう考えてやることにする。


「はぁ、はぁ……まぞくに、なれば……」


 むっ、スピカの反応が変わってきた。これはもう一押しか?


「……く、腐りきった王国を……変えられる……とでも?」

「変えられるとも。俺は腐敗した世界を女神どもから取り戻し、リリアヘイムを魔界に変える。今の世界は腐敗しすぎて、俺が支配した方がマシな状況だからな」

「た、民は……どうなるの?」

「無用な殺生はしない。俺は民を――家族を心から大切にする」

「それはリリスが保証しますっ♪ 魔王様は、と~ってもお優しいんですよ!」


 横からリリスが話に入ってきた。


「魔族になって魔王様の下僕になれば、この快楽が毎日味わえるんですよ? それに、この国を腐敗から救えるときました! ささ、受け入れちゃいましょうよ♪」

「やっ、やらぁぁ……!」


 スピカが首を左右に振る。


「はぁぁっ、んぅっ……だめぇ……。わたしはおうじょ……魔族じゃにゃい……。あぁぁぁっ……でも、気持ひぃいいぃぃ……!」


 まだまだ葛藤するスピカ。

 だが、もう遅い。

 魔導調律は最終段階だ。スピカもすでに限界が近いはず。


 ――そして。


「まっ、魔族になんかにならにゃいぃぃっ! あぁぁっ、でも……れもぉぉ……頭、白く、飛んじゃうぅぅぅ……!!」


 とうとうスピカに限界が訪れた。

 今一度、ビクンッ! と身体を強烈に震わせて。

 ついにスピカは悦楽の彼方へと旅立っていった。


「あぁ、あぁっ、あぁぁ……」


 魔導調律、完了である。

 俺は脱力したスピカを優しく抱き留め、微笑みかけた。



「スピカ・フォン=シュピーゲルベルク。ようこそ、魔族の世界へ」



「あぅ、うぅ……うぅぅ……」


 生まれ変わったスピカの表情は、快楽にとろけきっていて――。

 俺の腕に抱かれながら、彼女は意識を失った。

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