バイト君と大学生活

4月。俺は大学2年生になった。大学生の春休みは長い。2月から4月まで丸々2ヶ月ある。その間、学生はサークルなりバイトなり実家に戻るなりするのだが・・・俺はこの春休み、合宿で運転免許を取っていた。それなりに苦労したが、高校受験や大学受験ほどではなかったと思う。まあそんな感じで、俺は無事免許(原付だけは前から持ってる)も取り、中古の軽自動車を購入したのであった。




「一樹くん、まだ寝てんの?今日から大学でしょ。千華ちかはもう大学行ったわよ」




俺は伯母さんの声で目が覚めた。今日は月曜日。そして時計を見ると朝の9時前。確か今日は1限から講義だ。時間がない。昨日も深夜まで起きてたからな・・・そんな訳で俺は朝食を大急ぎで食べるとすぐ、家を出た。ちなみに千華というのは俺と同い年の従姉妹。俺とは同じ大学に通っている。ただしこいつは文学部。どうでもいいがアナウンサー志望らしい。あとついでに書き足しておくが、俺は大学に進学した際、元々東京に住んでいた伯父夫婦の家に下宿し始めたのだ。


下宿先からキャンパスまでは電車で15分ほど。俺は大急ぎでキャンパスに向かった。そして、何とか1限には間に合った。この日は午前中で講義は終了。食堂で昼食を食べると、俺は千華とかち合った。いつもは友達とワイワイしているのに、今日は珍しく1人でいる。せっかくなので、俺は千華の隣の席に移動した。


「一樹、今日寝坊したんでしょ?」


千華の第一声はそれだった。石井千華いしいちか。6月20日生まれ。血液型O型。身長165cm。比較的高い身長と茶髪がかったボブカットが特徴。ちなみにとある雑誌で読者モデルや某美容室でヘアモデルをやっている。俺が言うのも何だが、とにかく綺麗な女性だ。こんな綺麗な女性を男が放っておくわけがない。でもずっと彼氏はいない。なぜだろう?そして、俺の従姉妹でもあるのだ。俺は「夜中まで起きてたからな」と千華に言った。すると千華は、


「どうせいつものごとく深夜のテレビ番組とか見てたんでしょ?」


と言われた。図星だ。結局俺はカレーライスを、千華はラーメンを食べた。


昼食後、千華は講義に向かった。午後まで講義があるという。俺はそのままバイト先のコンビニへと向かった。俺がバイトをしているコンビニは大学から近く、なおかつ繁華街にあるため、夜はかなり混む。仕事帰りのサラリーマンやOLが主な客層だが、俺はこれから夜の9時まで8時間、みっちりバイトをするのだ。




午後8時30分頃、さあやんがやって来た。この日は変装もせず、素顔を出している。つーか、最近はいつもそんな感じだ。帽子もメガネもマスクもせず、顔を露わにして買い物をしている。さあやんはメジャーじゃないからまだいいけど、よくテレビに出てる芸能人がそのままの格好でコンビニに買い物をしたら大騒ぎだぞ。この日さあやんが買った品は漫画雑誌だった。つーかジャ○プ。朝買えよ。あとペットボトルのコーラ。飲むのか。


そして午後9時すぎ、俺はバイトを終えた。俺は着替えを済ませた後、店員用の出入口に向かう。そして俺が出入り口を出た時、さあやんが入り口の前で待ち構えていた。




「今何時だと思ってるんだ。そろそろ補導されるぞ」


「大丈夫。私近くに住んでるから。電車で30分あれば家に着く」


「全然近くないぞ!」


「それにお父さん、警察官だから」


「ダメなものはダメ!」


「高山くんはどこに住んでるの?」


「杉並区。荻窪おぎくぼのあたり」


「じゃあ、LINE交換して!」


「なんでそうなるんだ!お前のアイドル人生、どうなっても知らんぞ」


「大丈夫よ。関係は秘密にするから」


「今度は俺がダメになる!俺、先週20歳になったからもう逮捕されたら名前が乗るぞ!」


「親に許可貰えば大丈夫。それにあなたの伯父さん、財務省のお役人さんなんでしょ?」


「お前どこからその情報を仕入れた!?つーか俺の伯父さんにそんな力はない!」




……まあ、結果から言おう。結局、俺とさあやんはLINEを交換した。大好きなアイドルの連絡先を知れたから本来なら興奮してもおかしくない状況だが、正直言うと、罪悪感の方が大きく感じた。超えてはいけない一線を超えてしまった気がするのだ。


で、バイトを終えた俺は駅まで行ってさあやんを送った後、違う方向の電車に乗り下宿先に戻ることにした。

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