第10章 計画再開

11/05 17:32

金枝亘 <w-kaneeda@nblabo.jp>

件名:その後

 清水亜紀様

 共同研究お疲れ様でした。

 慰労会はいかがでしたか。大野君によると山本君と貴美子嬢を除く五人で、三次会まで盛り上がったそうですが。

 最終日、山本君は何かしらの行動に出たのでしょうか。共同研究が終わって、今日で5日になりますが、私には彼が何か吹っ切れたように見えます。あれだけ憔悴していたところから、そう簡単に立ち直ったとは思えませんから、何か良い方向に進展があったのではと推測しています。

(すみません。最後のはそうあってほしいという、私の願望であることを認めます)。


* * *


11/08 08:40

<AkiShimizu>a-shimizu@petora.co.jp

件名:お世話になりました。

 金枝教授

 共同研究では大変お世話になりました。

 貴美子さんですが、このところ、とてもお疲れの様子です。国生研での仕事が終わってほっとしたというよりは、新たな荷物を背負ったようにわたしには見えます。まもなく当部では重要なプロジェクトがはじまるらしいのですが、それまで少し猶予があるので、仕事外の何かが原因だと思っています。

 様子をみて、またご連絡するようにします。


* * *


11/16 18:18

金枝亘 <w-kaneeda@nblabo.jp>

件名:計画続行

 清水亜紀様

 ずいぶんご無沙汰してしまいました。お元気でしたか。

 先ほど、町田哲生君(貴美子嬢の父上)から電話がありました。彼の話から、山本君の恋は、その後、急展開ののちに継続していたことが分かりました。結論から言いますと、山本君はここ半月の間、町田家に日参しているとのこと。

 以下は、山本君が町田君に語った話です。

 話は共同研究の最終日に遡ります。開発チームの慰労会の後、駅に向かった貴美子嬢を山本君は追いかけ、自分の想いを伝えたのだそうです。貴美子嬢は困惑し、彼の気持ちを受け入れることはできないと返答しました。

 その際、彼女は山本君に対し、彼のような男が自分のような人間を好きになるのは悪い冗談だ、信じられないと言ったそうです。

 どうすれば本気だと分かってもらえるか、そこで彼が始めたのが手紙の配達でした。

 毎晩現れる配達人を不審に思った町田君が、彼の後を尾行し、その正体を暴いたのは配達開始から15日目でした。つまり、それまでの2週間近く、山本君は読まれているかも分からない手紙を、配達していたことになります。極寒の中、数時間かけてバイクで往復しているのだとか(これを荒行だと思うのは私だけでしょうか)。

 来訪の目的を糾した町田君に山本君は、二人の出会いから配達に至るまでの経緯、自分の趣味嗜好や汚点まで含めて語りました。夜の公園でとっくり話し込んだ結果、町田君は彼を信じることにしたそうです。

 貴美子嬢の方は、手紙は回収しているようですが、町田君の知る限り、彼と会ってはいません。ただ、当初、警察に通報しようとした町田君を止めたのは彼女だそうですから、山本君の脅迫的な投げ文を今のところは黙認することにしたのでしょう。私としては、彼が力尽きる前に、彼女が根負けして会ってくれたら、と思っているのですが。

 前にいただいたメールに“新たな重荷を背負ったよう”とありましたが、それはこのことではないでしょうか。貴美子嬢は、今どんな様子でしょうか。お時間ある時で結構ですので、お知らせください。

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