一章 高校生活8ヶ月と2日目 1と2-2

 雪が彼女の体を冷やす。だが、彼の心を冷やすことは、できなかった。

彼は彼女が道を曲がるのを待っていた。もうすぐ曲がるはず。

 彼は作戦実行のために、ポケットからあるものを出した。もうすぐ曲がる。裏道に入る。空は彼のやろうとしていることをわかっているかのように、雪を吹雪へと変えた。だが、彼の心ばかりか、頭を冷やすことは不可能だった。誰もいない裏道、これが彼の犯行現場フィールドとなる。逃げてくれ、空はそう訴えるかのように彼女の背中を吹雪で押す。でもわかるわけがない。

 ....裏道に入った。

彼は走る。彼女は気づかない。

彼は忍び寄る。彼女は気づかない。

彼は背後まで迫る。彼女は荒い鼻息でやっと気づく。

...が、もう遅かった。


 思い出が走馬灯のように駆け巡る、というが、それは本当らしい。痛い

、痛いはず。なのに楽しかったあの頃や、今の幸せな思い出が蘇ってくる。


「助...けて...。」


この言葉をさっきからつぶやいているが、誰も気づかない。当たり前だ、誰もいない裏道なのだから。

 さっき竹本と別れたときのキスを思い出す。助けてよ、そんな言葉が出てくるのに誰にも伝わらない。いつの間にか、さっきの吹雪は、ひらひらと舞う雪へと変わっていた。降り積もった雪の上で、赤黒い血が広まっていくなか、最後の意識で桐谷最中はスマホを出した。


「...メモ、して...」


今にも消え入りそうな声で、私はそうささやく。

最後の、本当に最後の息を、吐き出すかのように叫ぶ。最後の、意地だ。


「...竹本、鴉...大、大好きだよ、また、会おうね!!!!!」


 ふと横を見ると、父と母、それに弟もいた。差し伸べる手を掴み、笑いかけてくる笑顔に答えた。

それから6時間後、暗闇の中、裏道にサイレンの音が響き渡っていた。その時、もう雪はやんでいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る