第21話 決着



 二対一の状況になっても、シュネルの猛攻は止まることを知らない。

 勿論、シュネルは二人を甘く見ているわけではない。柚希が初撃を防いだその時点で、「人間だから」という慢心は捨てていた。

 しかし彼は、どこか楽しんでいるようにも見えた。

 シュネルは突進した後、柚希の顎へ腕を振り上げる。その爪は壮の刀によって止められるが、同時に振りかぶった柚希の棍もシュネルの反対の手で同じように止められる。

 だが、両の手が防御に徹しているせいで胴はがら空きだ。

 その鳩尾に柚希と壮の蹴りが同時に入り、シュネルは大きく下がる。


「──っ! へ、やるじゃん!」

「随分楽しそうですね」


 シュネルは声を張ってはいるが、手で腹を押さえるその顔をは歪んでいる。

 ダメージは確実に、入っている。というより、これでダメージが入ってないのならば、二人に勝算は無い。

 だが、その笑みが強がりの偽物、という事もない。


「当たり前だろ! ここんとこずっと寝てばっかだったからな。こんなに燃えるのは久しぶりだ! そっちこそ、楽しくなさそうだな。」

「まぁなんつーか、貰いモンの力だしなぁ。楽しむ程慣れてねぇ、みたいな……」


 二人は、戦いを楽しむ程、戦いに慣れていない。

 それに相手は、渾身の力とは言わずとも壮と柚希が割とマジで同時に蹴りを入れたのに笑っているのだ。柚希としては、風穴くらいは開いていて欲しかった。


「かってー……」

「ですね」


 だがしかし、効いていることには違いない。


「一気に畳み掛けましょう」

「はい!」


 今度は柚希が責める番だ。

 壮と柚希は左右に分かれ、挟み込むようにシュネルに迫る。

 シュネルのスピードは今まで相手にしたことがないほどに速い。

 が、柚希も決して負けてはいない。全力で攻めれば、シュネルでも逃げることは出来ない。

 挟むようにシュネルを襲う棍と刀は先と同じように防がれる。

 が、先とは少し違ってシュネルは真正面から攻撃を受け止めるのではなく、爪の角度をずらしてそれらをいなす。

 刀と棍は空を切る、が。


「甘いですよ」


 壮の刀が空を切ると同時、彼は左手で刀の鞘を握っていた。

 壮はそれで思い切りシュネルを殴り付ける。

 シュネルは咄嗟に前腕でそれを防ぐが、その隙に柚希が棍で足を払う。

 そうして倒れたシュネルの腹に──


「はぁっ!」

「──がっ……」


 壮の突き立てた刀は厚い鱗を二度貫通し、そのまま深く石畳にまで突き刺さる。


「は、はははっ……! あっけねぇ!」


 シュネルは諦めたように、笑う。笑い続ける。


「……。」

「いや、な。どうせおめぇら、魔王を倒す、とか言うんだろ? 笑わず、に、いられっ……かよ」

「心配じゃないのか?」


 柚希が目を細めると、シュネルは更に大きく笑い、そのせいで傷口が余計に拡がったのか苦痛に表情を歪める。


「ってて……笑わせんな、痛ぇんだよ。俺ァな、アイツのことは、大して信頼してねぇ。……が、信用は、してる。あれの強さは、バカになんねぇぞ。覚悟、しとけ。……でもまぁ、おめぇらが、行くなら……アイツにも、いい刺激になんだろ……」


 この世界に来て、自分と初めて互角に渡り合った相手。二対一になった事である程度ゆとりをもって勝てたが、一対一だった場合はどうなっていたか、柚希にも断言は出来ない。

 そんな者が、これだけ言う存在。

 勿論、只の脅し文句の可能性もある。だが、簡単に切り捨てられる言葉では無い。

 正直、相手したくない。話し合いとかで終わらないかな。


「……っと、最後にひとつ頼みてぇんだが」

「「?」」


 シュネルは、再び笑っていた顔を苦痛に歪めて。


「これ、結構痛ぇんだけど……死ねねえんだよ。早く殺してくんね?」


 致命傷ではあるが、彼も魔王軍の幹部。簡単にはくたばらない。強すぎる生命力が却って彼を苦しめている。

 この世界の人類に随分と酷いことをしてくれた輩だから、苦しんで然るべきなのかもしれない。

 だが、当然ながら柚希にも壮にも、そういった恨みは無い。

 では生かす理由と言えば、情報だろう。

 生かしたまま連れ帰って拷問なり何なりで吐かせれば、有意義な情報を得られるかもしれない。敵方の情報が足りなさすぎる現状にはもってこいだ。

 しかし、そうなるとこの危険な存在を拘束して連れ帰る事になる。柚希や壮には力はあっても、戦闘や戦争のエキスパートではない。捕虜の拘束の心得など無い。

 万が一逃げられでもしたら、被害は計り知れないのだ。

 柚希は壮を見ると、彼もきっと同じことを考えているのだろう、柚希の目を見て小さく頷いた。

 壮は突き刺さったままの刀を引き抜く。


「──っぐ、あ、あ、いっでぇぇぇ」

「では、よろしいですね。」


 刀を引き抜くと、それによって塞き止められていた血液が勢いよく噴き出す。

 これならば、放っておいても失血で絶命するだろう。

 とはいえ、下手に放置して仕留め損ねても本末転倒。止めは確実に刺す。

 壮の言葉は、柚希とシュネルの両方に向けた言葉。シュネルは「よろしいわけねえだろ」と血反吐を吐くが、よろしくなくても見過ごす事はできない。

 柚希は壮に、首肯く。


「では。」


 それを確認した壮は刀を大きく振り上げ、寝そべる首に向けて走らせ。

 周囲の地面諸共、シュネルの首を打ち落とした。

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