19 友よ、すべては終わったのだ(迎えに来た人)

「――かえろう?」


 あらがえきれない睡魔に身をゆだねようとした途端、かかった声に正直苛立ちが起きる。

 無視しても良かったが、どこか心を騒がす声にむかつきながら目を開けたとき、悔しいが絶句せざるを得なかった。

「お、前……」

 それは、もう二度と見ることが叶わないと思っていた顔だった。

 ……手の届かない場所へと帰るはずの人間だった。


「なんで、お前がここに……帰ったんじゃなかったのか」

「だって君が、いつまでもかえろうとしないから」

 訳のわからないことをいうものだから、眠気も忘れて腹が立ってくる。

「何を馬鹿なことを……」

 横になりかけた体を無理矢理奮い立たせ、真正面からねめつけた。

「祭は終わらせた。だからお前は帰れる。そうだろう?」

 誰のためにわざわざ止めたくもない戦を終結させたと思っているのか。


「でも、君がここにいるから。ねえ、かえろう?」

 再びくりかえされる「かえろう」という言葉に、くっと喉で笑って見せた。

「……帰る、か。面白いことを言う」

 帰る場所など、とうに失ったこの身にそれを言うのか。

「どこへ……どこへ帰れというのだ、いまさら」

 戦を生業としていた自分に、戦場を家としていた自分に、もはや帰る場所などありはしない。


 自嘲じみた言葉に、旧友は苦笑しながらつぶやいた。

「まったく……馬鹿だなあ」

「なに?」

「全てもう、終わったんだよ。君のかえる場所は、戦場なんかじゃない。そうだろう?」

 だから……と旧友は続けた。

「かえろう?」


 それが「帰ろう」ではなく、「一緒に行こう」に聞こえたのは、自分の気のせいだろうか。

 いたずらめいた笑みを浮かべ、旧友の手がこちらに伸びてくる。

 ――ああもう、いっそ気のせいでもかまうものか。

 指先を差し出す。戦の似合わぬ柔らかな手がそっと触れ、その温かさに夢じゃないことを知った。


「そうだな……お前となら、かえるのもいいか」

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