17 歌が聞こえる(悲しい歌い手と見守る男)


 歌が聞こえる。

 すすり泣くような、むせび泣くような、小さく小さく、悲しみに満ちた歌が。


 風に乗って聞こえてくるその歌に、青年はゆっくりと布団から身を起こした。

 高くもなく低くもなく、心地よい音程を保ち続けながら、それは朗々と響いている。

「またか……?」

 疑問系ではあったが、それはもはや確信だった。


 床に足をおろせば、ひやりとした冷たさが伝わってくる。

 夜の寒さに眉を寄せながらも、彼は音を立てないよう細心の注意を払いながら窓を開けた。夜風と共に少しだけ大きく聞こえるようになった歌声が流れ込んでくる。

「……ああ、やっぱり」

 中庭に予想通りのものを見つけ、ため息を落とした。


 白いワンピース姿の少女が、月明かりに照らされ立ちつくしている。その小さな口元からこぼれるのは、先ほどから聞こえる悲しい旋律の歌だ。

 終わりは始まりに、始まりは終わりとなって、あきることなく同じメロディが延々とくりかえされるのはいつものこと。

「ああ、悲しいね。本当に悲しい」

 我ながら嘘くさいと思いつつも、彼はそうつぶやいた。


 何を思って彼女が歌っているのか、まったくわからない自分に苛立ちを感じる。

 何もわからない以上、こうしてそっと見ていることしかできない自分にも腹が立つ。

 そして――。


 彼女の歌を、あの姿を、自分を一番嫌悪する。


「……鬼畜のつもりは、なかったんだけどね」


 ああ、歌が聞こえる。

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