あい

そへ

いつまでも大切にしたいもの

ある日、少女は思った。


「『あい』って…なあに?」


少女はまず、近所のお姉さんにそれを問うた。


「あら、珍しいことを聞くわね。そうね…私は、『楽しいこと』だと思うわ」


「たのしい?」


「ええ。その人と一緒にいる時、遊ぶ時、『楽しい』って思える。私はそれが愛だと思うわ」


「わたし…おねえちゃんといっしょにいるとたのしいー。それもあい?」


「ええそうよ。でも愛は人によって捉え方が違うものなのよ。良かったら他に人にも聞いてみたら?」


「わかったー」


次に少女は、おばあちゃんに問うた。


「おばあちゃんー。『あい』ってなあに?」


「『愛』かい?そうねえ…お爺さんが死んでから久しく感じていないけど…ばぁばは『信じること』だと思うわ」


「しんじる?」


「ええそうよ。お互いを認め、信じ合う。そうすることで絆というのがより深まり、それにつれ愛も感じるのよ」


「わたしもおばあちゃんのこと、しんじてるよー」


「ええ、ばぁばもよ。『愛している』わ」


次に少女は、父に問うた。


「おとうさんー。『あい』ってなあに?」


「うん?愛?随分と難しいことを聞くなぁ…そうだね、父さんは『嬉しくなること』だと思うなぁ」


「うれしく?」


「そう。例えば、お母さんの笑顔を見ると、こっちまで嬉しい気持ちになるだろ?そうやって、誰かが幸せなのを見て自分も嬉しくなる。そういうのが愛だと父さんは思うぞ」


「そっかー。わたしもおとうさんが笑ってるとうれしいよー」


「おお、そうか。父さんを『愛している』んだな。嬉しいぞ」


最後に少女は、母に問うた。


「おかあさんー。『あい』ってなあに?」


「あら、お父さんたちにも聞いていたのはそのことね?あなたもそういうことが気になる歳になってきたのね…いいわ。教えてあげる。私は、愛とは『安心すること』だと思うわ」


「あんしんー?」


「そう。この人といる時、心から安心する。この人がいれば、どんな状況でも安心できる。そういうのが愛だと、私は思うわよ」


「わたしもおかあさんといっしょにいるとあんしんするー」


「じゃああなたは、私のことを『愛している』のね。ありがとう」


「いっぱい…『あい』をきいたのー。でもーまだよくわからないのー」


「うーん、そうねえ…あ!『愛』を確かめるのに、手っ取り早い方法があるわよ!」


「なあに、それ?」


「それはね、あなたの思う大事な人を、ぎゅーって抱きしめるのよ。優しく、それでいて強くね」


「わかったーじゃあお母さんとするー」


「ええ、いいわよ」


そして少女は、お母さんの元へ近寄り、抱擁を交わした。


「どう?『愛』が何か、分かった?」


「………うん。わかったー。あいってー」


――――――――――――――――――――




「たくさん…あったかいねー…」

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あい そへ @sohe

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