決行日の朝 ~3人集合まで~
ジリリリリリリ!
「うぅ……」
昨晩にセットしていた、目覚まし時計が鳴り響く。
相変わらずうるさいヤツだ。朝に弱い者達の救済措置とはいえ、このアラームの音量はどうにかしてほしい。
実家では、妹が起こしに来るようなダメな兄だったので、あまり目覚まし時計は使わなかった。一人暮らしをするタイミングでこの時計を購入したのだが、とにかく音がデカい。杞憂だとは思うが、あまりにうるさくて隣の部屋まで聞こえているんじゃないかと考えてしまうくらいだ。
「…………ねむ」
――6時30分。
普段起きる時間と比べるとだいぶ早い。普段なら余裕を持って三度寝はできる時間だ。正直、このまま眠りにつきたいところだけど、今日は人生一発目のツーリング決行日。睡眠を欲している身体に鞭打って起きることにする。
「気持ちわるいなぁ」
夏の朝は汗っかきにとって、嫌な目覚めを与えてくれる。こうまでびしゃびしゃになると、タイマーにせず、ずっとつけっぱなしにしたくなる。
クーラーを意地でも使いたくないボクは、夏には扇風機を使っている。クーラーのいかにも冷やしてるんだぜ、って感じが好きじゃないのだ。その点、扇風機の出す風は自然な感じがして気持ちがいい。みんな扇風機を使ったらいいのに……。
そんなことを考えながら、着替えはじめる。いつもの半そで半ズボンスタイルにせず、今日は珍しくシャツを羽織り、チノパンを履いてみることにしよう。自転車を使うならスポーティな恰好の方がいいとは思うけど、ツーリングならやっぱり気分を味わいたい。記念に写真を撮るときに、一人だけいかにも自転車走らせてます、って恰好は避けたい。
「あいつらちゃんと来るかなぁ」
ケイタは大丈夫だと思うけど、ナオヤが心配だ。朝にすこぶる弱く、ボクの二度寝三度寝なんて比べものにならない。というか、なかなか目を覚まさず、ずっと寝ている。だいぶ眠りが深いのだろう。講義のコマも、そのスタイルに合わせて午後からがほとんどだ。どうしようもない必須科目は、同じ大学の友人の協力もあってなんだかんだ出席できているらしい。ちゃっかりしているなぁ。
ピンポーン
「ん?」
インターホンが鳴る。予定の時刻より早いけど、ケイタかな?
「はぁい!」
「来たぜー」
やっぱりケイタだった。発案者らしく気合が入っていたのだろう。
「思ったより早く起きちゃってな。じっとしてられなかったから、早めに家を出たわ」
「なるほどね。こんなとこで待たすのも悪いし、上がってよ」
「悪いな。若干飛ばしてきたから助かるわー」
ケイタが来る前に準備できていたから、早く来られたところで特に気にしない。むしろ、集合までに来たことで安心したくらいだ。
――まぁ、着替えの最中であっても、別に気にするような仲でもないんだけどね。
「ナオヤは? 来る前に電話した?」
寝起きのナオヤの反応がおかしかったのか、ニヤッとしながら答える。
「おう。言われた時間に電話したら起きてたぞ。――眠そうな声だったがな」
「ははっ、それは想像できるね」
「あれで普通に講義に出席してるのがすげーよ。もしかして、代返とかしてるんじゃねーか?」
「あっちの大学の友達が電話したり、席を取ってくれているらしいよ」
「ちゃっかりしてるなぁ……」
「ボクも思った。抜け目ないというか、したたかというか」
「どっちもだろ。あんな調子でも、うまいこと就職できそうなのが
なんてことを話していると――
ピンポーン
「おっ、来たか」
「うん、たぶんナオヤだ」
「58分か。多少は遅刻するかと思った」
「ボクなんか、最初は1時間を覚悟してたよ」
そういってドアへ向かう。ドアの穴――ドアスコープっていうんだっけな――をのぞき込むとやはりナオトが立っていた。
遅刻最有力候補の来訪にほっと胸をなでおろし、ドアを開けた。
「遅刻するかと思ったよ」
「オレは、やるときはやる男だ」
「……後ろ。はねてるよ」
「…………最近はこの髪型が流行りなんだ」
「へぇ、そうなんだ? じゃあボクも真似しよっと」
くだらないやり取りをしつつ、ナオヤを招き入れる。
「おっす。案外早かったな」
「まぁな。オレは、やるときはやる男だ」
「さっきも言ってたじゃん……それも流行りなの?」
「つーか、オレの電話があったから遅刻しなかったようなものだろ! なにがやるときはやる、だよ」
ケイタの主張にナオヤはフッと鼻で笑う。
「残念だが、オマエの電話の前からオレは覚醒していた」
「――はぁ!? クッソ眠そうな声だったぞ?」
「あれはウソだ」
あきれたケイタの顔。
「どういうこっちゃ……」
「そんなことより、三人そろったことだし行かない?」
「そうだな。こんなクソあちー部屋に男三人でいてもしょうがない」
「だな」
――家主を前にしてさんざん言ってくれるよ。
「うるさいなぁ……最高じゃん、扇風機」
「何でクーラーつけてないんだ? いつもつけてるじゃん」
普段、客が来る時にはクーラーをつけているのだが、今回は集合だけ。部屋に上げる予定はなかったので、クーラーをつけずに扇風機を使っている。彼らのことを考えると、そんな早く来るとは思ってはおらず、むしろ遅刻するんじゃないかと疑っていたくらいだったのだ。
「あれは人が来たときだけ。自分しかいない時はいっつも扇風機だよ」
「こんな暑いのに、よーやるわ」
「慣れれば結構いいもんだよ。クーラーと違って、涼しい風をすぐに味わえるし」
――とはいえ、確かに、クーラーをつけずこの部屋に三人でいるのは暑いな。さっき自分で言った通り、早々に出発することにしよう。
「じゃあ、行こうか。今さらだけど、準備はオッケーだよね?」
「その前にコンビニだけ寄らせてくれ。朝メシがまだだ」
「オレもオレも。スポドリとか買っていくわ。トウジも買うだろ?」
「ボクはもうドラッグで買ってきたから大丈夫。――でも、他に買いたいものあるし、ついていくよ」
こうして大幅な遅れもなく、予定通り集まったボクらは、目的地へ向けて出発するべく部屋を後にするのだった。
はじめての小規模な大冒険 近里 司 @chikasato
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