第7話
それは突然やってきた。白い外套に身を包んだ数百の兵士たちがホォグアンの里を襲撃したのだ。それはまるで無抵抗な子羊の群れに狼が襲い掛かるようなものだった。
見張り台の警鐘はならなかった為、里の人間は最初目と鼻の先で行われている暴力に気付かなかった。
女の悲鳴と子どもの泣き声の響くなかを無慈悲に凶刃が振りおろされ、次々と命を奪っていった。
兵士たちは人家に油をまき火をつけた。めらめらと燃え上がる炎が空を舐めるたび黒い煙が立ち上がっては青色を濁していく。
無造作に打ち捨てられた骸から流れ出た血が地面に池をつくり、飛び込んだ火の粉がじゅっと音をたてて消えた。
広場にいた里長ジョワ・エルガは、悲鳴を聞いて異変に気付くとすぐに大声で指示を出した。
「スオロ山の方に走れ、森のなかに逃げ込むんだ。男たちは武器をとれ、敵を押しとどめて時間を稼ぐんだ!」
「あなた!私も一緒に戦います」
龍槍を持ってその場に残ろうとする妻にジョワは言った。
「だめだ。ケイネお前は母親を連れて逃げろ」
「でも―――」
「スオロ山にいるシェンはこのことを知らない。お前が急いであの子を見つけるんだ」
ジョワはケイネを強く抱き寄せて耳元で囁いた。
「あの子を頼む。あとでまた会おう」
そしてケイネの背中をやさしく押して促した。
それが最期の会話になるだろう、とケイネは悟っていた。しかし走り出した彼女は口を固く結び二度と振り返らなかった。
広場には手に手に剣や槍や狩猟用の弓矢を持って、なかには鍬や鋤などの農具を持って数十人の男たちが集まっていた。ジョワは手近にあった祭事用の剣を拾うと、男たちに発破をかけた。
「みんな戦え!ここで時間を稼げば俺たちは死んでも家族は助かる!」
それに男たちも雄たけびをあげて応える。
「無駄な足掻きだ」
そこへ部下を引き連れてユリウス・ファーレンハイトが現れた。
「皆殺しだ。一人も逃がすな」
そして鬨の声とともに両陣営が真っ向からぶつかり合い、剣を打ち付けあって火花を散らすのだった。
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