第6話

 暗い森の闇に群れを成した純白の殺意が身を潜めていた。氷のように冷たい目と、鈍く銀色に光る刃を腰にさげて、これから行われる殺戮の合図を待っている。


「団長、奴は戻ってくるでしょうか」


群れの中の一人が尋ねた。


「戻ってこないなら、それでもかまわん。仮にあのイヌが裏切ったとしても北の辺境の蛮人どもに何ができる」


団長と呼ばれた男ユルゲン・フローレンハイトは、鋭い視線を前方に定めたまま答える。


「ただ淡々と殺せ。女も子どもも。我らが進んだ跡にあるのは骸のみでなければならない。それが聖王のご命令であり、我らが神ディーオのくだされた神託だ」


「はっ」


「団長、奴が戻ってきました」


そこに現れたのはコル・エルガだった。


「手筈どおり、すべての見張りは薬で眠らせてきました。これで私と私の家族は解放してくださるんですよね」


「そうだ。約束どおり、お前の妻と子どもは解放されるだろう」


「あぁ、よかった。あの、・・・私もついて行きます。あの村には私の母と兄の家族もおりまして。それで間違って彼らを殺さないよう――」


刹那、腰に下げた長剣を抜き放ったユルゲンはその刃を哀れな男の胸に突き立てた。


「がっ・・・なぜ・・・」


驚愕に目を見開き、信じられないものを見るかのように胸から飛び出ている墓標を見る。喉を血が逆流しごぼごぼと言葉にならない声をあげて崩れ落ちた。


「お前とお前の一族は地上での生の苦しみから解放され、我らが神ディーオ様のもとに召されるだろう。安心して眠れ」


赤い霰が降ったように頬についた血を拭うと、ユルゲンは己が率いる騎士団に振り返って命じる。


「殺せ。異教の蛮族どもに神の威光を示せ。奴らの悲鳴と血を神に捧げろ」


殺戮の火蓋が切って落とされたのだった。






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