第4話
村の中心にある広場は祭りの準備に勤しむ大人たちの喧騒であふれていた。広場の真ん中ではいままさに男たちが大声を掛け合いながら、シェンの背丈の三倍はあろうかという高さに木を組み上げて火を焚くための祭壇を造っている。その祭壇のある場所から放射状に松明が規則正しく間をあけて立てられ、そしてその隙間を縫うようにしてたくさんの屋台が軒を連ねていた。
シェンは広場にの隅の一画に、叔父であるコルが屋台の骨組みを組み立てているのを見つけた。シェンが近寄ると、彼女が声をかけるよりさきにシェンを目にとめて笑顔になった。そして両手をひろげて走り寄ってきてシェンを抱きしめた。
「やあ、シェンじゃないか!久しぶり。しばらく見ないうちにまた大きくなったねぇ」
コル・エルガはがっしりした父とは対照的で背は高いがほっそりしていて、面長な顔に品のよい細い眉が気が弱そうに垂れ下がっている。長い手足が胴体から所在なさげにぶら下がって柳の枝のようだった。
「久しぶり!おじさんは・・・ちょっと痩せた?」
もともとコルは痩せている印象があったが、目の前の叔父は一年前に見たときより少し頬がこけているような気がする。よく見れば目の下に隈まであった。
「そうかな・・・ははは。そんなことはないと思うけど。それより聞いたよ。明日の演舞、シェンがやるんだろう?すごいじゃないか」
「えぇ、もう十四だもの。当たり前のことだよ」
正直に言えばまんざらでもなかったのだけれど、大人なら謙遜しとくべきだろう、とシェンは思った。
「そういえば、奥さんとマー坊は?どこにいるの?」
コルは毎年妻と一人の子どもを連れて帰郷する。コルの妻はどちらかといえば気の小さい夫に比べ、いつも日向のように明るく漢気のある人で、去年はまだ乳離れしていない男の子をおぶりながら屋台の手伝いをしていた。
せっかくだし二人とも顔を合わせておきたかった。子犬のようにシェンの足にまとわりついてきたあの男の子はどれだけ大きくなっただろう。
だがシェンの質問に叔父の表情は一瞬固まったようになった。まるでなにかに耐えているように口を堅く結び、目は物思いに耽るように虚空を見つめている。
「ねえ、おじさん?おじさんってば!」
不審に思い二度、三度声をかけても返事もしない。困惑していると背後からシェンを呼ぶ声があった。
「シェン、何をしているの?あまり叔父さんの邪魔をしてはだめよ」
振り返ると龍槍を担いだ母ケイネだった。
「探したわよシェン。さぁ明日の本番にむけて追い込みをかけるわよ」
「えぇ、私狩りから帰ったばかりで疲れてるんだけど・・・」
母に引きずられながら無駄とは思いつつもシェンは抗議した。シェンの知る限り、槍の稽古に関して母は妥協がない。
結局その日は日が暮れるまで槍の稽古でしごかれることになった。コルのあの表情が心に引っかかったが、それも稽古の大変さのなかで忘れてしまった。
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