第3話

「大事な話ってなに?」

 

シェンは思い出への思索の旅から現実に帰ってくると、話を本筋に戻す。


「これを見てごらん」


そう言ってオババは懐からなにやらひび割れた白い物を取り出した。占いに使われる鹿の骨だ。オババはよく鹿や猪の骨を焼き、ひびの模様を見て吉凶を占うのだ。


「ひびの模様が不吉を告げているよ。とても良くない災いの種が里に入りこもうとしておる」


「災い?」


「そうじゃ、早く厄払いをせにゃあならん。明日この骨をスオロ山の神庭の滝まだ持って行って祈りをささげにゃあ」


「えぇ・・・」


思わず感情が口からこぼれ落ちてしまった。神庭の滝はスオロ山の中腹にあって、里と往復するとだいたい半日はかかる。


 そして祈りを捧げるのは巫女の役目だ。だが年寄りであるオババには登山は辛いし、母は女衆を手伝って祭りで振舞われる料理に係りきりになるだろうし・・・。


 つまりはシェンが行くしかない。しかしそうすると、少なくとも半日は祭りを楽しめないということになる。

 

二人の会話聞いていたジョワが横から口を出してきた。


「しかしなぁ、占いというのは必ずしも当たるとはかぎらんでしょう。ついこのあいだだってコルに災いが降りかかるなんて言うから、気が気じゃなかったがちゃんと帰ってきたじゃないか」


コルというのは行商人をしている父の弟だ。普段は里から南の方角にあるエルデラント聖王国領で都市を転々としながら商売をしているが、毎年必ず祭りの時期には故郷であるホォグアンの里に帰ってくる。


 都会で流通している珍しいものを荷馬車にたくさん積んでくるので、大人にとっても子どもにとってもコルの帰郷は祭りの楽しみのひとつだった。葡萄酒や様ざまな野菜果物、綺麗な布地に鉄製品、子どもようのおもちゃに、なにより砂糖がふんだんに使われたお菓子!


「コル叔父さん帰ってきたの!」


「ああ、お前が帰ってくる少し前にな。お前は北口から入ってきたから気付かなかったか。」


 そういえば道行く子どもたちが皆、なにやら玩具をもっていたような。重い鹿を担いでいたのと疲れていたので気にする余裕がなかった。


 「不覚をとったな」とシェンは思った。


 しかしコル叔父さんが帰ってきたと分かった以上、こうしている場合ではなかった。明日厄払いに出るのであれば、早くともお昼ごろまで祭りをたのしめないわけだ。


 今からコル叔父さんのところに走って行ってちょっとだけお菓子をもらおうなんて、一人前の巫女としては意地汚さすぎるだろうか。


「シェン?」


深刻な顔をして悩むシェンをオババがのぞき込む。


「わかった。私ももう一人前の巫女だから厄払いくらいこなせるよ」


そういってシェンは胸を張るのだった。






 

 

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