第39話
ペッシェ達の処刑から10日が過ぎようとしていた。
街の様子はすっかりいつも通りだ。
俺はそれが何だかとても寂しくて、絶対にナーエの街での脱獄を成功させようと決意を固める。
それから処刑があった直後は自粛したオセロ大会も、再び開催された。
アルマは相変わらず、野生の勘と顔に似合わない高度な戦略を使い勝ち進んでいるようだ。やはり優勝候補であるアルマの試合が気になるのか、アルマの周りにはかなりの人が集まっていた。
『ガッハッハ! そんな戦略で俺に勝てると思うなよ?』
『かーっ! クソ! またアルマの逆転勝ちかっ!』
人混みの真ん中からアルマの得意げな声と、ソルダの悔しそうな声が聞こえてくる。
―― あー……ソルダが負けたのか……
人だかりのせいでアルマの対戦相手は見えなかったのだが、二人とも声が大きいのでスグに状況が理解できた。
―― またソルダが『特訓だ!』とか言いながら俺のところに来そうだな……
別にソルダは弱いわけではない。オセロのコツも掴んでいるし、戦闘で慣れているのか戦略の立て方もうまい。
ただとにかく分かりやすいのだ。考えが全て顔に出ると言うか、何となく「ここに打つのかな?」というのが分かってしまう。
―― ま、それでも俺とソルダの勝負は五分五分なんだけど
だからこそソルダは俺を練習相手に選ぶのかもしれないが。
『トワ、丁度いいところに! 特訓だ、付き合え!』
そんなことを考えながら人だかりを眺めていたら、勝負が終わって立ち上がったソルダに見つかり、案の定特訓に誘われる。
『あー……いや、俺、大会の手伝いとか、あるんで……』
正直大会が始まってしまえば、見守っているだけで何の手伝いもないのだが、ソルダの特訓に付き合うとかなり長引くためそっと身を引く。
『いいから付き合え!』
ソルダは問答無用で俺の腕を取り、ズンズン人気のない方に進んでいく。
『うぅ……』
ソルダに引きずられながら、俺の脳内でドナドナが悲し気に流れた。
……
『この辺でいいか……』
俺はそのまま腕を引かれ、広場から大分離れた人気のない路地裏に連れてこられた。
『え、こんなとこでやるんですか……?』
薄暗い路地裏にソルダと二人きりというのはかなり怖い。
すっとソルダが耳元に口を寄せてくる。
『な……なに!? なになに!? 何で!?』
『馬鹿、騒ぐな!』
ソルダってもしかしてそっちの人!?と慌てる俺を尻目に、ソルダが低い声音で俺に囁く。
『大会やコンサートに貴族が目を付け出したらしい……俺でも貴族からは守ってやれねぇ、気を付けろよ』
『え……?!』
バッとソルダの方を振り返ると、真っすぐこちらを見ているソルダと目が合う。
俺は恐る恐るソルダに質問する。
『め、目を付けたって、どういう意味ですか……?』
『貴族の一部が「平民街で新しい物が流行ってる」と噂してるらしい』
『ま、まずいんですか……それ?』
『さぁな、だがもし貴族にお前が売ってるもんを全部寄こせと言われたら……』
ソルダはそこで一度言葉を切り、怖いくらいに真剣な声音で言葉を続ける。
『逆らうなよ、絶対に』
『はい……』
『……俺に、お前の首まで片付けさせるな』
『……はい』
―― そうか……ペッシェ達の首を片付けたのは、ソルダだ。
皆、表には出さないが心の中ではやはり色々と思うところはあるのだろう。
『ま、ヘコヘコ頭下げてりゃ目を付けられたりしねぇよ』
『はい……』
『よし、広場に戻るか!』
話は終わりだとばかりにソルダは広場方面へ歩いていく。俺はその背中を追いかけながら、心の中でソルダに謝罪した。
……
オセロ大会はアルマの優勝で幕を閉じ、ソルダはいつも通りの様子で悔しがっていた。
家に戻り、少しでも情報を集めようとペール達に貴族について聞いてみる。
『……貴族の特徴、か』
『んー、そうねぇ……魔力が強い人は大体貴族よ』
メール曰く、貴族は魔力が強いため近くに行けばすぐに分かるらしい。
『俺、魔力感じないんだけど……どうすれば……?』
残念ながら俺は魔力のまの字も感じ取れない。貴族に逆らわないように注意しようにも、貴族の見分けがつかない。
『まぁ、あとは大体豪華な服を着ているかな』
『あー……』
確かに処刑の時に来ていた貴族も、平民街では見たこともない豪華で煌びやかな服を着ていた。
やはり魔力を感じ取れない俺は、服装や雰囲気で判断するしかないようだ。
『二人ともありがとう、気を付けるよ』
……
そんな話をした翌日のことだった。
いつも通り動画ホールに顔を出した後、コンサートホールの方にも顔を出す。
今日はアンケートを取るためにフレドとティミドも一緒だ。
コンサートホールの前に到着すると、妙な人だかりが出来ている。
『どうしたんだろ? 扉が閉まってて中に入れないのかな?』
『さぁ……? 何かあったのかな……?』
そんなことを話しつつ、ホールに近づく。
『はっはっは! ん~? どうした? さっきのように可愛い声で鳴かないのかぁ? ん~?』
ホールの中から下品な高笑いが聞こえてくる。
―― まさか……!?
この声には聞き覚えがあった。
忘れもしないペッシェ達の処刑の日、処刑台の上から聞こえた笑い声だ。
『待て! トワ!』
後ろからフレドの止める声が聞こえてくるが、俺は構わずホールの中へ入る。
―― なんだよ、これ……!
ホールの中で目にした光景は、信じ難い物だった。
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