第17話
メールの協力もあり、サシェ作りの目途はついた。
レーラーがどんな人かは分からないが、もしかしたら情報料を請求されるかもしれない。お金があるに越したことはない。
「よし、もち! 今日はオセロ作るぞ!」
「きゅー!」
いつものようにもちを頭に乗せ、オセロの試作品を作り始める。
川原で拾った丸くて白い石の片面を塗装していく。塗料はこちらの世界で一般的に使用されている、スス等から作られた黒い塗料だ。
試作品を何個作ろうか考え、必要な石の数を計算してみる。1個の試作品に石が64個必要なので……
「石……何個拾ったっけ……?」
「きゅ?」
―― よし、石を使うのは止めよう。
俺は早々に石の使用を諦め、代替案を考える。
「木の枝、切るか……」
妥協案として、太い木の枝を輪切りにすることにした。
……
「出来たー!」
「きゅー!」
木の枝から作った64個のオセロの石が完成した。もちも「おめでとう」と言うように鳴き、祝福してくれた。
「あとはオセロ盤か……」
ベニヤ板のようなものがあれば良かったのだが、生憎いい木の板は手元になかったため、大きめの端切れ布を引っ張り出し、筆箱に入っていた定規で線を書いていく。
「結構いい感じじゃないか?」
「きゅー!」
オセロ盤を布で代用してみたが、オセロ盤である布に、木片……オセロの石を包んで持ち運びもできるし、中々いい感じに出来たのではないかと自画自賛する。
「まずはペールとメールに見てもらうか!」
……
食後、ペールとメールが寛いでいる所に完成したオセロを持ち込む。
『ペール、メール、今いいかな? 見てほしいものがあるんだ』
『お! また何か作ったのか?』
『あら、今度は何かしら?』
ペールもメールも楽しそうに、俺が広げたオセロ盤を覗き込んでくる。
『えーっと、"オセロ" って遊びなんだけど……』
『ほう』
『この木片が "石" で、この黒くなっている面が "黒"、そうじゃない面が "白"』
『ふんふん』
『遊び方は簡単で、こうやって石を黒白交互に挟むように打ってひっくり返して……最後に石が多い方が勝ち』
ざっくりとルールを説明しながら石を動かす。
『ふむ……随分単純なルールだな?』
『これならスグ覚えられていいわね』
ペール達はルールを聞きながら頷きあう。
『一度、貴族街で流行っているこういう遊びを教えて貰ったんだが……凄くルールが複雑でな』
『あれは覚えられなかったわ……』
二人は苦笑いで思い出を語る。
どうやら貴族街では別のボードゲームが流行っているようだ。ルールが複雑ということはチェスとか将棋みたいな感じだろうか?
『ねぇ、このオセロ、まずは一回実際にやってみない?』
メールが楽しそうに提案する。
細かなルール説明も兼ねて、俺とメールが対決することになった。
……
勝敗はすぐについた。俺の勝ちだ。
まぁオセロ経験者として、初めてオセロをやる人に負けるわけにはいかない。オセロには色々と戦略があるのだ。
『悔しいわ……! 途中まで私が勝っていたのに……!』
『驚いたな、最後一気にトワの石が増えた……』
『まぁ、俺は故郷で何度もやってるから……』
『よし、ルールは分かった! トワ、次は私と勝負だ!』
ペールもノリノリで勝負を申し込んでくる。
……
ペールとの勝負も俺が勝った。
『くぅ……! トワ、もうひと勝負だ! 次は勝つ!』
『あ! ずるいわペール! 次は私でしょう?』
ペールもメールも意外と負けず嫌いなのか、なかなか白熱している。これは……意見を聞かなくても売れそうだな。
取り敢えずペールとメールで勝負することを勧め、俺は一足先に部屋に戻らせてもらった。
……
「ただいま、もちー」
「きゅー」
部屋に戻り、留守番をしていたもちを抱き寄せる。もちをもちもち撫でながら、オセロの売り方を考える。
「多分オセロ自体を売り出しても、すぐに皆自作しちゃうと思うんだよなー」
オセロの材料は簡単に揃えられる上、料理と違って見ればすぐに真似できてしまう。
オセロ自体を売り出してお金を得るのは難しいだろう。
「まずはオセロを広める……」
「きゅ!」
「皆にオセロが浸透したところで、オセロの大会を開くとかどうだろ……?」
「きゅー?」
参加者を募って参加費を取り、優勝者には賞金を出すイメージだ。参加費の総額が優勝賞金より少し高目になるよう設定し、優勝賞金と参加費総額の差額が俺の取り分となる。
今日のペールやメールの熱中ぶりを見ていると、オセロはなかなか流行りそうな気がする。
元の世界でもオセロ人口は多く、国内外で大会が開かれていた。
こちらの世界でもオセロに嵌る人は多いだろう。
「明日、フレドとティミドにも見てもらって……」
「きゅ?」
「子供たちの中で流行るかアドバイス貰うか!」
「きゅー!」
……
翌日、フレドは肉屋の手伝いで予定が合わなかったため、ティミドにオセロを見せてみることにした。
『おはよう、ティミド』
『……えっと、おはよう……トワ』
『今、大丈夫?』
『う……うん。その……仕事……空き時間……だから……大丈夫……』
ティミドは何度もつっかえつつ、ゆっくりと返事をしてくれる。
これでも俺と話すことに慣れて、最初よりはかなり喋ってくれるようになったのだ。
『よかった! ちょっと見てほしい物があるんだ』
そう言って俺はオセロを取り出し、簡単にルール説明する。
『ー……って感じで遊ぶゲームなんだけど、どうかな?』
『えっと……えっと……! すごく……面白そう……だと思う……!』
普段あまり人と目を合わせようとしないティミドにしては珍しく、目を輝かせ、期待に満ちた眼差しでこちらを見てくる。
『えーっと……1回一緒にやってみる?』
『うんっ!!!』
こんなに返事の早いティミドは初めてなのではないかと思うほど、食い気味に返答が来た。
もしかしてティミドはこういうゲームが好きなタイプなんだろうか……?
……
ティミドとの勝負は、ギリギリ俺の勝ちだった。
本当にギリギリだった……。
本当に初心者か?というような手を何度も打たれ、危うく負けるところだった。
別に俺はオセロの実力も平均的なレベルなのだが、隅を取った方がいいということや、相手にひっくり返されることのない石……確定石を増やすことを意識する程度の知識はある。
そういうオセロのコツ?みたいなものを知らない相手に負けることはないだろうと完全に侮っていた。
『……すごい……! オセロって……楽しいね……!』
俺の焦りも知らず、ティミドは楽しそうにオセロの石を一人で何度も並び替えている。どうやら脳内でこう打たれた時は……と石を並べているらしい。
『ティミドが気に入ってくれてよかったよ……どうかな? 流行ると思う?』
何となく聞かなくても答えが分かる気がしたが、一応聞いてみた。
『うんっ……! 絶対流行ると思う……!』
ティミドは予想通りの答えを、満面の笑みで答えてくれた。
異世界生活202日目、異世界にオセロブームを巻き起こしてしまうかもしれません。
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