第14話
小麦粉とバターを作るため、フレドには塩や容器など必要そうな物を集めてもらう。フレドは待ちきれない様子でそわそわしている。
興奮するフレドの様子が気になったのか、20人ほど暇な子供達も周りに集まってきた。どうやら一緒に手伝ってくれるらしい。
まずはバター作りだ。
生乳からクリームを取り出すため、容器に入れて涼しいところで放置する。明日様子を見て、クリームが分離していれば成功だ。
次に小麦粉作りに着手する。
折角沢山人が集まってくれたので、人海戦術でひたすら小麦をすり鉢のような物で擦ってもらう。その間に俺は木枠と糸でふるいを作る。木枠にカッターで細かく切り込みを入れ、そこに糸を引っ掛け、ぐるぐると巻き付けていく。
「……結構根気いるな、この作業」
何故パンを作ろうとして、ふるいを作っているのだろうと一瞬冷静になったが、俺は考えるのをやめた。
『トワの故郷の食べ物ー!』
『これ美味しいのー?』
『パンだって! 俺、シャシンで見た!』
『すげー美味しそうだったよ!』
皆騒ぎながら楽しそうに作業してる。いつの間にかかなり期待値が上がっている気がして、内心ビクビクしながら作業を進める。
細かく擦り終わった物からふるいにかけ、小麦粉の完成だ。
皆が手伝ってくれたので結構な量が出来た。出来上がった小麦粉は、皮ごと擦ったのでちょっと粗めの全粒粉という感じだ。
パン作りが成功したら分けると約束し、翌日以降も材料調達や加工を手伝って貰った。
バターの方は無事分離に成功したので、上澄みだけを掬い容器に入れたあと、一心不乱に振りまくった。振っているとホエーが分離してくるので、取り除いて塩で味付けすればバターの完成だ。
一口食べてみればちゃんとバターの味がして感動した。
むしろ手作りだからなのか、材料がよかったからなのか、味が濃いのにまろやかで、普段食べていたバターより美味しい気がする。
手作りバターの美味しさに感動しつつ、バターをお披露目するため、じゃがバターを作ることにした。
じゃがバターを作ろうとして、圧縮鍋や蒸籠等、蒸し器を見た覚えがないことに気付く。殆どの料理は焼く、または茹でるという調理法だったので、もしかしたら蒸し料理自体が普及してないのかもしれない。
仕方がないので大きめの鍋と深めのお皿を何枚か、それから蓋代わりに布使い、簡易蒸し器を作る。火と水を用意して簡易蒸し器をセットしていく。
折角なのでじゃがいもだけじゃなく他の野菜や肉、魚も下拵えして蒸し器にセットした。
「お、そうだ! 蒸し器といえばアレも作らないとな……!」
……
そして蒸す事数十分。
「よし……こんなもんかな!」
初異世界料理の完成だ。
まず一品目はじゃがバターだ。
ほくほくのじゃがいもに切り込みを入れ、塩とバターを乗せるとそれだけでもうたまらない匂いがした。
『うまそー!』
『すげー!』
『はやく! はやく!』
周りの子供達も待ちきれないといった様子で駆け寄ってくる。フレドは『一番手は俺だよな!』と期待に満ちた顔で見てくる。
味見してから渡したかったが、こんな期待に満ちた皆に囲まれた状況で一口目を食べるのはちょっと……勇気がいる。
出来たばかりのじゃがバターを皿に載せ、フレドに渡す。皆の期待はフレドに背負って貰うことにした。決してリアクションに自信がないからとかではない。
フレドは『あちっあちっ』と言いながら、じゃがバターを口に運ぶ。俺は異世界でじゃがバターが受け入れられるかどうか、緊張しつつフレドの様子を窺う。
『うっ………………めぇぇぇ!!!』
フレドはじゃがバターを一口噛んだ瞬間、大声で叫ぶと物凄い勢いでじゃがバターを食べ進めた。食べながら『すげー! すげー! なんだこれー!』と大騒ぎだ。
フレドの感想を聞き、周りの子供達も次々とじゃがバタに手を出していく。
皆一様に『すごい!』『ホクホク!』『おいしい!』と大絶賛してくれた。確かに蒸したじゃがいもと、茹でたじゃがいもではホクホク感が全然違う。
期待に答えられてよかったと安堵しながら、全員に行き渡ったのを確認して、俺も一口じゃがバターを食べてみる。
「うっま……!」
俺がこれまでに食べたじゃがバターとは比べ物にならないくらい、味が濃くて美味しかった。
こちらの世界のじゃがいもは、お湯で茹でただけでも充分美味しかった。恐らく元々甘味が強く、茹でられて、旨味成分が流れ出ててもなお美味しく頂ける、かなりポテンシャルの高いじゃがいもだったのだろう。
そんなじゃがいもをきちんと調理すると、ここまで美味くなるのかと感動しながらどんどん食べ進める。蒸す事で甘味が凝縮され、塩気の強いバターによく合う。
じゃがバターは速攻なくなってしまったので、次は蒸し鶏、蒸し豚、蒸し魚だ。
これも文句なしに美味かった。どれもじゃがいも同様素材自体のポテンシャルが高いのか、旨味が凝縮され、焼き料理とはまた違った味わいがある。
皆で取り合いになりながら、お腹いっぱいになるまで蒸し料理を堪能した。
しかし、ここでお腹いっぱいになって貰っては困る。
牛乳、卵、蜂蜜、蒸し器……こんなにも材料が揃っているのだ。これはもう作るしかないだろう。
―― プリンを!
事前に卵、牛乳をよく混ぜ、手作りのふるいを使い濾しておく。蜂蜜を追加し、火加減に気をつけながらゆっくりとかき混ぜ、よく混ざったらプリン液をそれぞれの容器に入れる。プリン液の入った容器を蒸し器に並べて、よく蒸せばプリンの完成だ。
……
完成したプリンを少し冷ましてから全員に配っていく。皆見たことのない食べ物なので、覗き込んでみたりつついてみたりしている。
『これは "プリン" って言って、こんな風にスプーンで掬って食べるんだ』
俺が皆の前で食べ方を実演する。
「うわっ……うま……!」
『『『ウワ、ウマ??』』』
皆の前なのにあまりの美味しさに思わず日本語がこぼれてしまった。それほどにこのプリンは美味しかった。
濃い卵味に、蜂蜜の甘味がよくあう。そこに蜂蜜で作ったほろ苦のカラメルソースを絡ませると絶妙な美味しさだった。
『俺も! もう食べていい!?』
堪えきれないように一人が食べ始めると、皆堰をきったように食べ始めた。
『おいしいー!』
『すっごーい!』
『ぷるぷるー!』
お腹いっぱいだったのが嘘のように、多目に作ったプリンはあっという間になくなった。やはりどこの世界でも甘い物は別腹なのだろうか?
『もうないのー?』
『また作ってー!』
皆の反応を見て、俺は勝利を確信する。
この様子なら家に帰ったあと、子供達は親に今日食べた異世界の料理がどれほど美味しかったか、それはもう熱心に話してくれるだろう。
そしてその話を聞いた親は「そんなに美味しいなら食べてみたい」となるはずだ。
親が「食べてみたい」とならなくても、子供に「買って」と強請られたら買う親もいるだろうし、子供へのお土産として買う親もいるはずだ。
『ごめん、もう材料がないんだ。でも今日食べた料理は、近々売り出す予定だから!』
俺はしっかりと宣伝をしつつ、次に向けてお手伝い要員も募集しておく。人員確保は仕事の基本だ。
『今日みたいに手伝ってくれた子には、ちょっとオマケするから! よければまた手伝ってくれないかな?』
そう声をかけると蜂の巣をつついたような騒ぎになった。皆早口過ぎて全然言葉が聞き取れない。
『た、楽しみにしててくれ!』
俺は取り敢えずそう叫ぶと、後片付けと称してそそくさ逃げ出した。
異世界生活183日目、初の異世界料理、上手に出来ましたー!
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