第13話
そうと決まれば材料探しだ。
俺は肉を狩りに行くというフレドにお願いし、一緒に城壁の外へ連れて行ってもらう。
フレドの仕事を手伝いつつ、サシェの材料となる植物を集めていく。
途中生えていた食べられそうな植物も手当り次第刈り取り、川原にあったオセロの駒によさそうな白い石も拾い集めた。
フレドが狩っていた、牛に似た魔物の乳も絞らさせてもらった。
因みにこの魔物の乳……牛乳はノイで一般的に飲まれているものらしい。ただ日持ちしないため、そんなに出回っていないそうだ。
魔物を食肉にするというので、激しい戦闘を想像していたのだが、魔物達は非常に大人しくて拍子抜けした。
フレドのおかげで道も分かったので、次からは一人でも来れそうだ。
「結構材料集まったな……」
俺が集めた材料を整理していると、フレドは興味津々で話し掛けてくる。
『何だ何だ? 何を始める気だよ!』
それはもうウキウキワクワクといった様子だ。
『あー……俺の故郷の物を作ろうと思って』
『トワの故郷の物!?』
フレドは興奮しながら、前のめりに食いついてくる。あまりの興奮ぶりに若干引きつつ、誤解がないように釘を刺しておく。
『作れるか分からないけどな。それに作るのは "スマートフォン" みたいな凄い物じゃなくて、本当に簡単な物だぞ?』
もし、スマートフォンを作ろうとしているなんて勘違いされたら、凄い騒ぎになってしまう。街の皆に初めてスマートフォンを見せた時はそりゃもう大騒ぎだったのだ。
まぁ、無理もない。録音機能は自分の声が小さな箱から聞こえてくるような物だし、録画機能は人が小さくなって箱の中にいるようなものだ。
『作ろうぜ! 俺も手伝う! 何作るんだ!?』
フレドは俺の肩を掴み、ゆっさゆっさ揺らしながら飛び跳ねている。
『いや、落ち着け、落ち着いてくれ! フレド!』「うぇっ……酔う……」
あまりに勢いよく頭を揺さぶられ、気持ち悪くなり、思わず日本語が出てしまう。
『あぁ悪い悪い。で、トワ! 何を作るんだ!?』
『お前……絶対悪いと思ってないだろ……』
軽く謝るフレドを恨みがましく睨みつつ、俺は続ける。
『えっと、まず作ろうと思ってるのは、俺の故郷の料理だな』
『おぉ! あの "シャシン" で見せてくれたやつか!』
案の定、フレドは料理に食い付いてくる。肉屋の息子なだけあって、美味しい物には目がないようだ。
『そう。ただ材料があるか分かんないんだよ。だから色々集めてた』
『材料があればすぐ作れるのか? 肉や香辛料なら、俺が家から貰ってきてやるよ!』
フレドは目を輝かせながら言う。この貰ってくるってまさか盗むんじゃないよな……?
まぁ入手経路は気になるものの、肉や香辛料を融通して貰えるのは助かる。それに余所者の俺が突然料理を売り出すより、肉屋として信頼のあるフレドの家を通して売り出したほうが受け入れられそうだ。
『じゃあその時は頼む。あとは "オセロ" っていう……遊ぶ物も作るつもりだ』
『へぇ! どんな遊びなんだ?』
遊ぶ物も気になるようで、こちらも興味津々に聞いてくる。
こちらの世界で遊びといえば、鬼ごっこやかけっこ、木の棒を使ったチャンバラごっこくらいなので、あまりピンと来てないようだ。
『えーっと……頭を使って二人で戦う遊び、かな?』
いざオセロを知らない人に、オセロが何か説明しろと言われると難しい。
『頭を使って……戦う……?』
フレドの頭上にクエスチョンマークが飛んでいるのが分かる。絶対頭突きで相手を倒す遊びとか考えてそうだ。
『……ま、作ったら一緒にやろうぜ!』
実際やった方が早いだろと思い、俺は早々に説明を諦めた。
『あとは "サシェ" っていう、いい香りのする袋も作るつもりだ』
取り敢えず簡単に作れそうな三つを上げてみる。
『はぁ? いい香りするだけなのか? そんなもん作って何に使うんだ?』
サシェに関しては、他二つに比べると明らかに反応が冷めている。
『えっと、持ち歩いたり、部屋に飾ったり……する』
『へー……』
とても興味のなさそうな相槌だった。
売れるかかなり不安になったが、元の世界でもサシェが好きなのは女性が多かった。
何個か試作品を作り、メールやティミドに上げてみて反応を見ればいいだろう。
『フレドも興味津々だし、まずはやっぱ料理かな? フレドの家の調理場とか借りていいか?』
『勿論! 早く帰ろうぜ!』
フレドは勢いよく街の方へ走り出し、俺は苦笑しながらフレドの後を追う。フレドの家なら調理器具も揃っている上、肉の解体もお願い出来るためありがたい。
……
フレドの家に着き、まず何から作るか考える。
俺としては毎日食べる物……売上が安定しそうな、主食の座を狙って行きたい。
元の世界の世界三代主食といえば、小麦、米、トウモロコシだ。
帰り道、絵で特徴を伝え、似たような植物が群生している場所に案内して貰った。
残念ながら米とトウモロコシはなかったが、小麦のような植物は何種類か手に入った。
フレド曰く、茹でれば食べられるので雑草として刈られることはないが、実が小さい上にじゃがいもを茹でた物の方が美味しいので、人気がなく放置されているそうだ。
こっちの世界では、小麦をひいて粉にするという手法が確立されなかったのだろう。
考えてみれば最初に小麦粉を作った人は凄い。こんな小さな実をひいて粉にしようなんて、何故そんな発想に至ったのだろうか?
料理の歴史を見ていると「何故こんな食べ方しようと思ったんだ?」と思う物や「よく食べようと思ったな!?」みたいな物が多い。
製粉して小麦粉のように使えるかは試してみなければ分からないが、茹でて食べられる植物なら、粉にしても食べられるだろう。
小麦粉は汎用性が高い食材なので、是非手に入れたい。
小麦粉から作る主食といったら、やはりパンだろう。
もしパンが作れたらかなり売れるはずだ。何故なら、あの焼き立てパンの香りに抗える者はいないからだ。
そしてパンといえばバターだ。
焼いたパンにバターを塗って作るバタートースト。あれはシンプルだからこそ飽きのこない美味しさだ。
更にじゃがいもは主食として既に人気なので、バターがあればじゃがバターも作れる。
じゃがバターもあんなにシンプルな料理なのに、悪魔のような美味しさを持っている。気が付くと、無意識のうちにじゃがいもが二、三個腹の中に消えていることがある。
「バター……ほしいなー……」
バターがあれば料理の幅がぐっと広がる。似た物がないか聞いてみたが、フレドは首を傾げていた。
「こりゃなさそうだな……」
貧乏かつ物作りが好きだった俺は、とにかく安く手作り出来る物がないか調べまくっていた時期があった。バターもその中の一つだ。
残念ながらバターを作るには生乳を使う必要があり、店で売られているような加工済の牛乳ではバターが作れなかったのでその時は製作を諦めたが、調べた知識は残っている。そして今は牛もどきの生乳もある。
「よし、バターも作ってみるか……!」
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