第2章【ノイ編】
第11話
さて、異世界転移と聞いて、やはり妄想してしまうのは美少女との絡みではないだろうか?
俺はそうだ。異世界に転移し、まだ妄想する元気があった頃、俺は美少女との出会いを何パターンも何パターンも妄想した。
俺の妄想シチュエーションの中にはない出会い方だったが、とうとう俺にも美少女との接点が出来てしまった。
―― 紹介しよう!
俺が異世界で接点を持った美少女。
ノイ・ジェンティーレ・レイちゃん、外見年齢およそ2歳のピチピチレディだ。
レイはペール夫妻の娘夫婦のお子さんらしい。娘夫婦は外の仕事に就いており、なかなかノイに戻って来れないため、ペール夫妻が代わりにレイの面倒を見ているそうだ。
平民街では皆が協力しあって子供を育てるのが一般的らしく、ペール夫妻が商売へ出掛けていた間は、隣の家の人が面倒を見ていてくれていたようだ。
ペールは朝になると仕事に出かけて行き、メールはレイの面倒を見ながら家事をしたり、布を織ったりする。
俺はというと、言葉を勉強しながら、メールの家事やレイの育児をお手伝いすることになった。
『おはよーレイー』
覚えたての現地語で話しかけてみる。レイはきゃっきゃっと嬉しそうに俺の指を握ってくれる。
「あー…かわいい……」
レイが人見知りしない子で本当によかった。俺はもうレイにメロメロだ。
俺は言葉の勉強も兼ね、メールが貸してくれた本をレイに読み聞かせる。
本と言っても紙ではなく、薄い木の板を纏めた物だ。内容は挿絵も含め全て、人が手書きで書き写しているというので驚きだ。
分からない言葉はメールに聞き、スマートフォンに録音やメモした内容を復習しつつ、かなりの時間をかけて本を読めるようになった。
『レイ、今日のお話は "レアーレの冒険" だよ。
えー……昔々、深い深い森の向こう。
心優しい少年、レアーレが住んでいました。
レアーレはある日、怪我をした兎を見つけました。
心配したレアーレが兎に近付くと、
驚いた兎は一目散に逃げてしまいました。
レアーレは慌てて兎を追いかけます。
兎は逃げて、逃げて、逃げて、
深い深い森の中へ入っていきます。
レアーレは それでも兎を追いかけます。
やっと逃げる兎を捕まえて、
レアーレは優しく話しかけました。
「驚かせてごめんね、
怪我を治療してあげようと思ったんだ」
言葉が通じたのか、大人しくなった兎を治療して、
ふと辺りを見渡すと、周りは真っ暗!
もと来た道も分かりません。
レアーレは途端に怖くなり、
兎を抱きしめながらわんわん泣きました。
するとどこからともなく
綺麗な女神様が現れました。
女神様が光る杖をひと振りすると、
たちまち兎の怪我が治りました。
女神様が光る杖をもうひと振りすると、
今度は美味しい木の実が現れました。
女神様は兎を助けた優しいレアーレに
美味しい木の実を上げました。
最後にもう一度、女神様が光る杖を振ると、
レアーレは自分の家の前に立っていました。
「ありがとう!女神様!」
レアーレは女神様のおかげで、
自分の家に帰ることが出来ました。
レアーレは美味しい木の実を食べた後、
木の実の種を庭に植えました。
種から芽が出て、成長して大きな木になると、
美味しい木の実が沢山出来ました。
こうして レアーレは美味しい木の実を食べて、
ずっと幸せに暮らしましたとさ。
おしまい』
読み終わってみれば、心優しい少年が動物を助けて、自分も幸せになるというよくある話だった。出てきた動物は恐らく兎ではないが、挿絵が兎に似ていたので、俺は兎として覚えた。
俺としてはこの話の『女神様のおかげで、自分の家に帰ることが出来ました』という一節が気になる。
もしこの話の元となったのが実話ならば、"女神様" とやらに会えれば、俺も家に帰れないだろうか?
他の話にも何かヒントになるものはないかと、何日かかけて読み進めてみたが、殆どが似たような勧善懲悪の話だった。大体が良い行いをすれば幸せになり、悪い行いをすれば罰が当たるといった内容だ。
勇者や竜が出てくる話はあったが、"女神様" が出てくる話は「レアーレの冒険」以外にはなく、内容的にもあまり、帰還の参考になりそうな情報はなかった。
何冊かこちらの世界の本を読んでみたが、どこの世界でも似たような話が多いんだなという印象だ。
女神や勇者、竜が実際にいるのかと思い、メールに聞いてみれば『お伽話(とぎばなし)でしょう?』と笑われてしまった。何だか夢見る子供を見るような、微笑ましい顔で言われてしまい、凄く恥ずかしかった。
レイは物語を聞くのが好きなのか、本を読んで上げていると機嫌がいい。俺は何度も色んな本を読んで上げた。
流石に同じ話ばかりじゃ飽きるかと思い、日本語でシンデレラや白雪姫、桃太郎や浦島太郎など、とにかく覚えている限り色んな物語を読み聞かせた。
……
レイに読み聞かせをしながら、俺は元の世界に帰るため、やらなくてはいけないことについて考えを巡らせる。取り敢えず思いついたまま、忘れないようにメモしていく。
1.情報収集
2.資金集め
3.協力者集め
4.自身の強化
元の世界に帰るために、まずは情報収集が必要だろう。
そのためには言葉と文字を覚えなくてはいけない。言葉と文字を覚えたら、俺のように他の世界から来たという人がいないかどうかと、物語に出てきた "女神様" について聞き込みを行う予定だ。
ノイで有力な情報が集まらなければ、隣街へ移動してまた聞き込みをし、隣街でも情報が手に肺ならければ、また次の街へ移動する。これを繰り返していくしかないだろう。
街を行き来するとなるとお金が必要だ。旅に必要な足、食料、そして護衛。
「ノイで聞き込みをしつつ、何か金策を考えないとな……」
ペール達にも宿代やご飯代を渡したい。今は受け取ってくれないが、俺が働きだして稼げるようになれば、少しは受け取ってくれるようになるだろう。
そして協力者、旅の仲間だ。
一人と一匹で旅するには限界があるだろう。ゲームだって最初は主人公一人だが、後から仲間が増えていくものだ。
魔法がある世界なので、魔法使いや僧侶、剣士や格闘家みたいな仲間が欲しい。
「まぁ、これは最悪金で雇うしかないかな……」
この世界にも、ゲームのように "ギルド" や "冒険者組合" みたいなものがあるのだろうか?
スティードが護衛の仕事をしているということは、少なくとも護衛を雇うことは出来るはずだ。出来れば気心の知れたスティードを雇いたいが、何にせよお金を稼いでからだ。
最後は自身の強化だ。
やはり今のままでは、旅をするのに不安がありすぎる。森を彷徨っていた時、筋トレや体力作りをもっとやっておけば良かったと、どれだけ後悔したか……。
出来ればスティードに、実践的な戦い方を教えて貰いたいと考えている。
「はー……先が長いな、もち……」
「きゅー?」
帰還までの道のりは長く険しいが、出来る事から一つ一つやっていくしかない。そう思いながら、家の鍵を握りしめる。
「ま、やるしかないよな……!」
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