第4話
朝日と共に目が覚める。今日の行動はもう決まっている。
俺は早速、川と湖、そして街があった方向へ向かって歩き始めた。道に迷わないよう蔦を木に結び、途中食べられそうな実を集め、適度に休憩を挟みつつ歩く。
休憩中は集めた実を種類分けし、スマートフォンで写真を撮る。後で食べられるかどうかと、味をメモするためだ。
太陽が出ている間はソーラーパネル付き充電池を使い、電子機器をこまめに充電する。
……
キョロキョロと辺りを見渡しながら歩き、昨日見つけた薄紫色の林檎のような実に加え、ピンク色のマンゴーのような実、赤色のぶどうのような実の3種類を集めた。
「やっぱ食べられるかちゃんと調べるべきだよな……?」
集めた実を眺めながら、自身に問いかける。異世界に転移してから独り言が異様に増えた気がする。
食べられるか調べる方法は、サバイバル本に記載されているのを読んだ覚えがある。
興味本位で読んだだけのサバイバル本に、ここ最近急激にお世話になりっぱなしだ。
あまり細かくは覚えてないが、「なるほど」と思った記憶を必死に呼び起こす。
再び唸れ、俺の海馬よ!
「えーっと、確かまず見た目と匂いでヤバそうな奴は除外するんだよな……」
これは食べられそうと思った物しか集めていないので問題ない。
次に、実を集めた手がかぶれたり、炎症を起こしてないかを確認する。これも採取してからかなり時間が経過して、特に身体に変化が起きていないので問題ないだろう。
続けて果物の皮を向き、食べようと思ってる部分を触ったり唇につけて、かぶれたりしないかを確認する。少し時間を置き、特に変化がないためこれも問題ないだろう。
「よし……」
覚悟を決め、一口分を舌に乗せる。この時、すぐに飲み込んではいけないと、注意が書いてあった気がする。
取り敢えずそのままの状態で少し待機し、舌が痺れたり、身体に変化がないことを確認する。
「い……いくぞ……!」
口に含んでいた果物をゆっくりと咀嚼(そしゃく)する。噛む度に果物から甘い果汁が溢れ、口内に広がってゆく。
噛んだあともすぐに飲み込んではいけなかったはずだ。口に含んだ果物をすぐ吐き出せるよう、少し下を向きながらじっと待つ。
数分そのまま待機し、身体に変化がないことを確認してから、やっと飲み込む。
「はーーー……怖ぇー…………」
飲み込んだ果物は瑞々しく、普通に食べたならそれはそれは美味しかっただろう。
しかし、美味しいと感じるよりも「死ぬかもしれない」という恐怖心が勝ち、とてもじゃないが味わって食べようなどという気持ちは欠片もわかなかった。
食料を獲るためとはいえ、毒で死んでもおかしくない。あと何回かこれを繰り返すのかと思うと心が折れそうだ。見た目や味が元の世界の果物に似ているのが唯一の救いだろう。
……
そんなことをしつつ、ひたすら……ひたすらひたすらひたすら歩き、5時間ほど歩いて川に辿り着いた。
「いや、本当しんどすぎるだろ……精神的にも、肉体的にも」
空腹状態で山道を歩き続けた上、靴が歩きにくい革靴だ。途中で水の流れる音が聞こえなければ、心が折れていただろう。無事川に辿り着けて本当によかった。
喉が渇きすぎてすぐにでも川の水を飲みたいところだが、生水をそのまま飲むのは危険だという知識くらいはある。
途中で飲み終わったエナジードリンクのペットボトルを川で洗い、カッターを使ってペットボトルの底を切り取る。
ライターを使って火を起こし、その辺の枝を拾って木炭を作り、ペットボトルに小石、木炭、砂利、ハンカチを入れていく。最後に切り取ったペットボトルの底に小さな穴を開け、水の出口を作る。
これで昔理科の実験で作った、綺麗な水を得る簡易濾過装置の完成だ。
「喉…………乾いた…………」
心なしか涙も枯れている気がする。
濾過装置を水筒の蓋に設置し、川の水を入れる。最初の方に出てきた水は捨て、綺麗に濾過されたと思われる水を少し飲んでみる。
暫く様子を見て、お腹が痛くならないようなら、飲み水確保と言っていいだろう。
「頼む! 頼むぞ……!」
何に頼むのかよく分からないが、腹を撫でながら呟く。
神様だろうか、自分の腹だろうか……?
自分の腹による水質調査結果を待ってる間に、蔦を編み、川魚を捕まえるための網を作る。作り終わって試してみたところ、拍子抜けするほど簡単に魚が取れた。
「おー…! 大漁、大漁!」
釣れた魚は色鮮やかな魚が2種類、見た目的には食べられそうな魚が1種類だった。こちらも種類分けし、それぞれスマートフォンで写真に残す。
「見た目が食えそうなやつはいいとして……このピンクと水色の奴らは……食えるか試すの、かなり迷うな……」
……
数日かけて試した結果をスマートフォンにメモしていく。呼び名は適当だ。
まず濾過した水。これは問題なく飲めた。澄んだ水が身体に染み渡り、本当に美味しかった。
次に採取した3種類の果物。全て食べた後に身体に異常が出なかったことから、食べられると判断して問題ないだろう。
紫色の林檎のような実は、見た目通り林檎の味がして美味しかった。林檎もどきと命名する。
ピンク色のマンゴーのような実は、桃の味がした。マンゴーもどきと迷ったが、味を優先して桃もどきと命名した。
赤色の葡萄のような実は、甘酸っぱい葡萄の味がした。これは迷わず葡萄もどきと命名する。
次に釣った魚達も食べられるか調査した。こちらも一種類を除き、食べた後に身体に異常が出なかったことから、食べられると判断して問題ないだろう。
迷いに迷って食べた水色の魚は酷い目にあった。一口食べてから数十分後、腹痛との激しい戦いだった……。
それまで試した物は全てお腹を壊したり、身体に不調が出なかったため、少し調子に乗っていた。
「異世界での死因が食中毒とか絶対嫌だな……次から気を付けよう……」
俺は深く反省し、食べられる物かの調査は手を抜かないことを心に決めた。
……
ここ数日は川の近くを移動していたためか、何種類かの魔物にも遭遇した。
森を散策し始めてまず最初に遭遇したのは、透明な角を持つ猪のような魔物だ。大きさは仔犬くらいだろうか。
こいつは遭遇するとすぐに突進してくるが、非常に弱く、驚いて革靴で蹴ったら呆気なく倒せてしまった。命名、ウリボー。
次に遭遇したのは、濃い紫色の角を持つ大きな兎のような魔物だ。遭遇してもこちらを無視する。命名、ビッグラビット。
ブラックベアーにも何度か遭遇した。こいつはこの世界に来た時に初めて会った、濃い紫色の角を持つ、熊みたいな見た目のイカしたヤローだ。
有り難いことにいつ遭遇しても、こちちを無視してくれる。やはり見た目で誤解されてしまうタイプの、温厚な魔物なのかもしれない。
最初は魔物に遭遇する度心臓がバクバクしていたが、ウリボー以外攻撃してくる魔物はいなかったので少し安心だ。
ウリボーは数が多いようでよく見かける。そしてよく他の魔物に食べられている。
「他の魔物って、ウリボーでお腹いっぱいだから俺を襲わないのかな……?」
もしそうなら、俺はウリボー様に足を向けて寝られない。
初めて魔物がウリボーを食べているところを目撃した時は、恐怖のあまり眠れなかったが、何度か見かけるうちに慣れてしまった。
「……ウリボーって俺にも食えるのかな?」
ここ数日、果物と魚しか食べていない。いい加減肉が食べたい。
ウリボーは会うたび会うたびに熱烈な突進をしかけてきて、その度俺の革靴キックの餌食になっている。俺は自身の栄養バランスと食欲を満たすため、革靴キックで倒したウリボーを捌いてみることにした。
「……う、うわぁ…………」
思わず声が漏れてしまう。料理で肉を扱うとはいえ、こんな風に動物を捌くのは初めてだ。
「ごめん、ごめんな……」
ウリボーに手を合わせた後、涙目になりながらカッターで捌いていく。かなり時間はかかったが、なんとか捌き終え、捌いた肉をよく洗い、火を通していく。
「いただきます……!」
そして食べられるかかなり慎重に検証した結果。
「ウリボー様……ウマいっす!」
異世界生活7日目、異世界肉、GETだぜ!
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