閻魔様「今時の刑罰システム考えた」

@Takaue_K

 

司命「はぁ…」


司録「さいでっか」


閻魔様「なんだよ、反応薄いじゃん」


司命「いえ、またぞろ頭のおかしなこと言い出したなーと思いまして」


閻魔様「辛辣ゥ! え、ワシ今までそんな扱いされるようなことした覚えないんだけど」


司命「お忘れですか。『今時恐怖で支配するとか時代遅れだ、時代は萌えだ』とか言い出して地上の人間に夢を見せて、自分の萌え絵を描かせたじゃないですか。三途の川の渡し守までばいんばいんの女の子として描かせて」


閻魔様「あー、そんなこともやったっけのう」


司命「それがまかり間違って人気になっちゃって、閻魔様や渡し守に会いに行こうと自殺した人が増えたんですよ。しかもその人ら、現実を知って『欝だ死のう』って。もう地獄だから死んでるっていうのに」


閻魔様「原典をちゃんと学んでおけばそんな目にあわずに済んだのにのぅ。そういえば似た様なこと無かったっけ?」


司録「ああ、十王の手間を省くためぱそこんを導入したときっすね。閻魔様が手を加えたせいで何故か午前零時だけに現世へも繋がるようになってしまって。しかも何故か憎む相手を地獄送りにできるってことになってて、ガンガン依頼が殺到したんっすよ。そのせいでもう、現場大混乱でしたよ…」


閻魔様「いやぁ、ワシ最初の死者なもんだから、機械にとんと目が無くてのー。ついつい触りたくなっちゃうんじゃよ、こんぴうたとか」


司命「それは良いんですけど、触るならせめて私か司録のいるときにしてくださいよ。後でフォローするのも大変なんですから…あの時も、必死で私と司録とでプログラムを修復して…」


司録「修復……納期……残業……締め切り……終わらないデバッグ……うっ、頭がっ!」


司命「司録、落ち着いて! 深呼吸、深呼吸! ゆっくり、息を吸って~、吐いて~…」


司録「…ありがとう司命、どうにか落ち着いたよ」


閻魔様「まったく、大袈裟じゃのぅ」


司命「閻魔様、明日から私たち有給とりますね200年ほど」


閻魔様「さーせんっしたァ!」


司録「流れるような土下座、俺じゃなきゃ見逃しちゃうね」


司命「他にも『時代はメディアミックス、地獄と現世の夢のコラボじゃい!』とか言い出して自分の漫画を現世の漫画家に無理やり代筆させたことありましたね」


閻魔様「なんでじゃ! あれ大成功じゃろ! 映画やOVAにもなったんじゃぞ!」


司録「コピーの使いまわしとか本編に全く関係ない読みきりとかきったねぇ絵とかさんざっぱら言われてるけどな」


司命「ぶっちゃけ代筆者がそういう漫画家だったから受け入れられたのであって、閻魔様の話は支離滅裂で面白い面白くない以前の話です。無名の漫画家が描いていたら、まず間違いなく袖なしの拘束着を着せられて窓の無い病院へ収監されていただろうと断言できます」


閻魔様「え…マジ? あの話、ワシまる一ヶ月寝る間も惜しんで考えたんじゃけど」


司録「ならセンス無いっすねー、マジで。閻魔様創作向いて無いっすよ」


司命「閻魔様、木にも命はあるんですよ? 閻魔様の無為無駄無様無能な創作活動で、どれだけ大量のコウゾの木が命を散らしたことか。閻魔様は徹底的に反省してくださいね」


閻魔「いや、漫画って普通和紙じゃなく再生紙使うから関係ない…って、ついにシステムからも様付けがなくなったのぅ。ふふ、ワシはダメな閻魔じゃのぅ…威厳も糸瓜もなく、このまま世間から忘れ去られたまま孤独に老いさらばえていくのがお似合いなんじゃ…」


司命「…はぁ」


司録「で、今度はどんなしょうもない…じゃなく、面白いことを思いついたんっすか?」


閻魔「良くぞ聞いてくれました! それがこれ、『地獄巡りガチャ』!!」


司命「こういう切り替えの速さは実に見習いたい」


司録「あはは…、ガチャって、もしかして現世における課金ゲームなどで有名な?」


閻魔「そうそれ! 地獄ももうちょいナウなヤングに向けてイメチェンが必要ってゆーか? 本中華?」


司録「うーん、残念ですがもうこの時点で壊滅的な古さっすね。でもガチャって言っても何をするんで?」


閻魔「うむ。すでに実験的に開始してあるのだが、まず亡者は三途の川で六問銭を罪の重さに応じて分配する」


司命「だから何で私らに相談しないんですか!」


閻魔「だって、したら絶対反対するじゃろ?」


司録「するねぇ」


司命「…まあ、やってしまったことは仕方ありません。とりあえずは話だけでも聞きましょう。お仕置きは後でも出来るし」


閻魔「え? お仕置き? …え? わし、君らの上司だよね?」


司録「小さなことはさておき、そもそも最近は六問銭を棺おけに入れる風習が廃れてますけど、それはどうするんで?」


閻魔「その辺は大丈夫。エジプトのアアルさんとこと技術協力して、脱衣婆が死者の服で代替できるよう研修を済ませてきてある。また、風呂場で溺死したり腹上死して素っ裸の人用に、前借り制度も用意しておいた」


司命「ちなみにガチャしないって選択は選べるんですか?」


閻魔「もちろん可能じゃよ。脱衣婆の隣にワシのポップぶっ立ててそこに張り紙しておいてある。ただ、よほど自分の運に自信があるのか、みーんなガチャを選ぶのぅ」


司命「なるほど…一応従来のシステムも残してあるんですね」


閻魔「ただ、その分受付の負担が大きいから、いずれ人員を増やさんとならんね。近々黄泉軍と黄泉醜女から希望者を募って研修を受けさせるつもりじゃ」


司録「そういうことにゃ無駄にこまめですねあんた」


閻魔「うむ。もっと褒めてくれてもいいんじゃよ」


司命「褒めてませんよ? で、刑罰からガチャが適用されている、とは?」


閻魔「おう。刑の執行期間とセットで三界から六道、十界などもある。なかでもワシのおススメはSSRの摩訶鉢特摩(まかはどま)地獄と無間地獄じゃな。なんとお得なことに、この二つは他のありとあらゆる刑罰フルセット付きなんじゃ!」


司録「普通のとは逆で一番キツイのがSSRなんだ…ちなみに排出量はどれくらいっすか?」


閻魔「ワシは優しいからな、SSRはお得で200倍、十六小地獄を代表するSRは100倍、Rは50倍。Nの人界・仏界・天界は0.0003%の排出量にしておいた」


司録「DC版剣・銃・杖三種の神器かな?」


司命「極悪通り越して畜生運営じゃないですか」


閻魔「小数点以下を切り捨てているため、実際は小数点以下の確率で排出される」


司録「嘘やん、それ絶対出ない奴やんけ」


閻魔「いやいやいやいや、ワシエンマウソツカナイ。だが、納得できない罪人もおるだろうことを見越して、ちゃんと刑についてもフォローしておいたぞ」


司命「…まさかそれもガチャで? それともログボでの配布で?」


閻魔「現実にログインボーナスなどというもんは存在せんのだよ。まあ…そうじゃな、季節のイベントくらいには何かプレゼントしてもいいが。10個集めると何か強化できるアイテムとか」


司録「鼻くそかよ」


司命「ユーザー舐めきってますね」


閻魔「刑についてフォローが欲しいなら、これもまたガチャで引き当ててもらう。折角鳴り物入りで色々改造したんじゃ、使わなかったらもったいないからのぅ」


司命「だから何で改造する前に俺らにも相談しないかなこいつは…で、例えば?」


閻魔「そうじゃな…判りやすい例で説明するなら、『三途の川の石積み』があるじゃろ?」


司録「子供向けの刑っすね?」


閻魔「そう、それそれ。その石はガチャで手に入れることが出来る!」


司命「え…でも、石ってそこらにありますよね?」


閻魔「ああ、それは所謂ノーマルって奴じゃ。どんな奴でも手に入れられるし、手間と時間さえ掛ければノルマクリアできる」


司録「できないように鬼が邪魔する刑っすけどね本来」


閻魔「だが課金すると、なんと! ちょっと平たい石や、持ち心地の良い石が手に入っちまうんだぜ! しかもSSRになると金箔貼られてゴージャスに!」


司命「そんな糞の役にも立たないことをさも凄そうに言われても」


司録「ええと、その…そういうんじゃなく、もっと石自体に効果がある奴はないんすか?」


閻魔「ああ、もちろんあるぞ! SSRになるが、腎臓結石や尿道結石が体内に…」


司録「ホントろくでもねーな?! もう少し生産性のあるもん無いのかよ!」


閻魔「そうは言うがな、現世でだって絵柄とちょっとしたステータスが換わる程度のモノに大金払って何年もおなじことやり続けておる大人が山ほどおるやんけ。それ考えるとあんま違いないと思うんよねワシ」


司録「うーむ、それを言われると返す言葉が無い」


閻魔「他にも衆合地獄だと、ちょっとえっちな美男美女がガチャ対象になっておる。四枚同じのをあわせて合成すると、なんと! ポロリもあるちょっとえっちなイベントも発生しちゃうぞ」


司命「衆合地獄って、美女の幻影に引きずりまわされて剣の葉を持つ林を上り下りさせる奴じゃないっけ?」


司録「ポロリするの自分の首や手足じゃん!」


閻魔「そりゃ地獄じゃもん、そんな世界がお望みならN当てて抜けるしかないね」


司録「ここまで聞いた限り、ガチャするメリットはまったくといっていいくらい無いみたいっすね」


閻魔「優越感が得られるよ。『こんだけぶっこみました、俺凄くね?』みたいな」


司録「なけなしの財産ぶっこんでより苦しみを引き寄せる…死んでも死に切れなさそう」


司命「ちょっとくらいは引けてよかったって思える要素とかはないんですか? 他の人より刑が楽になる、みたいな」


閻魔「あ、それがあったか。対人要素もちゃんとあるよー。閻魔ちゃんうっかりうっかり」


司命「キモイのでちゃんづけはキモイので金輪際キモイので止めて下さいキモイので」


閻魔「どんだけキモイのよワシ」


司録「対人要素はガチャやる人にとって外せないイベントですからねぇ。具体的にはどんなのやるんです?」


閻魔「半年後の7月1日に開催予定の草案なんだけど、お釈迦様との共催で蜘蛛の糸のぼりとか考えとるんよ。広い会場で上から蜘蛛の糸をたらしてもらい、傍にガチャの自販機を設置しとくの。ガチャでは剣や刀、ベレッタM92やレミントンM870、ひいてはチェーンソーやグレネードランチャー、レオパルト2A6が当たるんじゃよ」


司録「え、それで何と戦えと? 巨大な蟻や蜘蛛、最終防衛システムでも出るんすか?」


閻魔「うーん、蜘蛛は出すけどエキストラというか外れ用の舞台装置として頑張ってもらうから、使うなら亡者同士ってとこかな」


司命「案外まっとうですね」


司録「司命も大分毒されてきてるな」


閻魔「ただ、隠しステータスとして獄卒や亡者相手に使えば使うだけその武器と被害者の重量が加算されるけどな」


司録「チェーンソーでばらばらにされないといいっすね」


閻魔「ワシかみじゃないからへーきへーき」


司命「苦情や不満出まくるんじゃないですか?」


閻魔「そりゃあもちろん、今の時点でも出とるわい。出てようがなんじゃろうが関係ないけどな。ワシらが一々地獄に来る亡者に配慮してやらにゃならん義理も無い。それに言うじゃろ」


司録「それに?」


閻魔「馬鹿は死んでも直らない、とな。地獄に来てまでガチャを忘れられないような奴らなら、これも本望じゃろうて。なんせ生きていたときから限度も満足も知らぬ、餓鬼道に堕ちておるくらいじゃしな」


司録・司命「「ごもっとも」」


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