プロローグ 2

プロローグ 2

 ドンドンドン、突如私の妄想はその音によって一気に崩壊した。

 セブンファイブから帰って来た妻が、助手席のドアを肘で何度も叩いていたのである。


「ごめんごめん、今開ける」


 急いで私は助手席のドアを開けた。

 途端に外の冷気が、ここぞとばかりに車内になだれ込む。そうだ、妻がセブンファイブにお茶を買いに行っていたのだった。

「あんた、またぼーっとしてたでしょう」

 そう言いながら、妻は左手に暖かいペットボトルのお茶、右手に入れたてのコンビニコーヒーを持ちながら、助手席に乗り込んだ。ペットボトルのお茶には「お〜い、おっ茶ん」と書かれている。

 はい、そういって私にコーヒーを渡す。言わなくても私の好きなものを買って来てくれる、しかもアメリカン。なんて気の利く妻なんだろう。本当にいい妻を持った、まあ毎日尻には敷かれっぱなしではあるが。


 ただ、ぼーっとしていたのは事実だ。あの少年を眺めながら、勝手に小説を書く練習の一環として、たわいもない妄想していたのだから。

 妻は助手席で震えながらも、買って来たそのお茶で暖を取る。そして腰をエビのように丸め縮こまっていた。


「ねえ、明日は雪だって。さっきコンビニの店内ラジオで言ってた」


 雪。


 今年いちばんの寒さだ、たしかに雪が降ってもおかしくないだろう。

 そんなことを考えながらも、私はまだ外にいるその少年をぼーっと眺めていた。

「どうしたの、何かあった?」

 え、いや、なんでもない。そう言いながら、私はどこか不思議な気持ちになった。

 妻には気にならないのだろうか、あの少年が。

 こんな凍りついてしまいそうな夜にただ立ち尽くすあの人物を不思議に思わないのだろうか。


 いや、そうじゃない。ひょっとして……


 私の想像力はさらに駆り立てられていき、すでに次のエピソードを考えていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る