第100話昔話



「さて、俺としては戦う前に少し話がしたいんだが・・・」


 ルトバーはそう言ってこちらを見てくる。


「いいよ。僕もここまでくるのに走ってきたから疲れてるし」


 僕はルトバーの提案に同意する。直後、僕の目の前に椅子が現れ、その椅子と対面するように違う椅子が姿を表す。

 僕は黙って目の前に現れた椅子に座る。ルトバーももう一つの椅子に腰を下ろす。


「で、話って何を話すの?」

「なに、ちょっっとした昔話だよ。俺とフィニ、お前の母親とどこで出会って、なんで結婚したのかとかを話すだけだよ」


 ルトバーは懐かしそうに微笑む。もうこの場の空気は戦う前の張り詰めた空気はなく、なぜか穏やかに感じられた。


「俺とフィニは俺が15歳の時にとある街のパンやで出会ったんだ。その町には裏路地と言うものがあって、そこには親に捨てられた子供や親がいない子供達の生活するところがあったんだ。俺は物心ついた時にはその裏路地で生きていた。

 俺はな、当時生きるためだったら盗み、恐喝、殺しもなんでもしたんだよ。そうしていくうちに裏路地の悪魔とか呼ばれてな、誰も俺に近寄らなくなって暇になってたまたまパン屋の近くを通りかかってどうせならこの店でド派手に暴れてやろうと思った。だが、俺はそのパン屋に入った途端、その店に入るまで考えていたことが嘘のように消え去った。

 なんでだと思う?」


 ルトバーはここで僕に問題を出してくる。


「僕の母さんが可愛かったから?」


 僕はそう答える。だが、ルトバーは首を横に振る。


「正解はお前のおばあちゃんが裸にされ、全身に打撲痕があって死んでいて、奥では街で何回か見たことのある男たち七人ぐらいが当時の俺と同じ年齢ぐらいの二人の少女の服を脱がそうとしていたんだ。少女二人は涙を流しながら必死に抵抗していたんだ。その少女二人にも同じように暴行された痕があったんだ。

 俺はそれを見た瞬間、なぜか知らないけれど殺意が膨れ上がったんだ。そして、気づいたら男たちを皆殺しにしていた。

 俺はその時正直意味がわからなかった。なぜ自分はこの二人の少女たちを助けるなんて真似したのだろう? とか、なんで俺は二人の少女を暴行し、服を無理やり脱がそうとしている奴らを許せなかったんだろう? とか考えたんだよ。

 でも答えはその時は出なかった。

 まぁ、これが俺とフィニが出会った経緯だ」


 ルトバーは少し悔しそうに語る。


「まぁ、そのあとはフィニとフィニの妹に適当に布を羽織らせてひとまず俺の家に連れて行ったんだ。連れて行ってから数日は俺が使っていいと言った少し分厚い布に二人で包まって部屋の隅の方で固まってたんだけどな。

 で、ようやく二人が会話ができるぐらいまで精神が回復してもう一度あのパン屋に行くことになったんだ。ついでに二人は双子で姉の方がフィニな。

 俺たちがパン屋に着くと、そこには目を疑う光景があった。なんだと思う?」


 僕はまた問題かと思いながら答える。


「家が消えていたとか?」

「正解、そのパン屋は消えていて。近所の住民に聞いてもそんなパン屋は知らないとか言い始めて、まるでそこにパン屋があったのが俺らの勘違いだったと思わせるほどに近所の人たちはその存在を忘れ去っていた。当然、襲っていた男たちに関わりのある人を探したけれど、誰一人として男たちのことを覚えている人はいなかった。これでショックを受けたフィニと妹がまた部屋の隅で固まるから俺は街を出ると言う決断をしたんだ。まぁ、当時はなんでそんなに二人のことがきになるのか全くわからないんだけどな」


 ルトバーは笑いながら続ける。


「まぁ、旅は楽しかったんだよ。見たことない植物があったり、幻想的な光景が見れたりしてな。

 でも、異変が起こったのはそれから十年後だった。当時俺は25歳だった。フィニたちも同じ25歳でいつものように一緒に馬車に乗って旅をしていると、前から人の大群が走ってきたんだ。俺は驚きすぐに馬車を止めてその人たちを見た所、ちょうど十年前に俺たちがいた街の住人だった。が、誰一人として顔から生気を感じられなかったんだ。まるで、何かにしたいが操られているかのようにな。ただ少し不自然な点があったんだ。その住民たちがいた街は当時俺たちがいた場所とはものすごい離れていて、馬車を使っても最速で三年はかかるところに居たんだ。だけど、街の住人たちは誰一人として馬に乗って居なかったんだ」


 ルトバーが話す内容に僕は怖気が走る。


「だから俺たちはその原因について調べることにしたんだ。だけど、その時は何もわからなかった。どんな裏組織、実験施設を当たってもそんなことを起こしている組織はなかった。当然一人でやっているかもしれないと思い調べたが、何も出てこなかった。

 調べても何もわからなかったから、もう諦めようと思った数日後、俺たちは知りたかった情報を手にする。だが、同時に悲劇も起こった。

 フィニの双子の妹が死んだんだ。原因のわからない突然死だった。フィニはひどいショックを受け妹のしたいの前で泣き崩れた。そして、俺はフィニを慰めようと何か言葉をかけようとしていると、フィニの妹の体が勝手に宙に浮きいきなり言葉を発したんだ。そして、俺たちは自分たちは神の遊び駒にされていることを知らされたんだ」


 ルトバーはひどく悲しそうに語る。


「遊びってなんだ?」

「すべての神たちが人を操り、俺たちにどれだけ絶望を与えられるかって言うクソみたいな遊びだ。だが、運命の神だけは唯一それに反対して居たらしく、フィニの妹の体を通して教えてくれた。いくら運命を操れる神でも違う神たちの力が働いている場合は全く効力がないとも教えてくれた。

 俺はそれを聞いた時絶望したよ。自分たちは神の玩具にされ、何をしても死んでしまうんだと。だけどフィニだけは違った。フィニはそれを聞いてもなお抗おうとして居た。その図太い精神に俺は惚れたんだよな。それからフィニはフェルト、お前を出産した。お前を出産した。お前が生まれてからは、お前を守らんと俺とフィニは神に操られた人間と本気で戦った。だが、お前が2歳の誕生日を迎えた時に運悪く俺が街にお前の誕生日ケーキを買いに行っている時に隠れ家が襲撃された。俺が戻った時にはもう戦闘は終わっていた。そしてフィニはおまを抱かえたまま死んでいた。

 俺は叫んだ。神に向かって、この世界に向けて叫んだ。その時俺はこの世界を壊すことを誓った。まずはお前を貴族の家の目の前に捨てた。

 その後に神に操られた人間をかたっぱしから殺した。殺しても死なない奴らはチリも残さぬよう消した。そして、キラーズとい組織を作った。キラーズを使ってこの世の人間を殺し、神が操れる人間の数を減らして行った。

 この世界の人間を減らせば神が自ら俺を殺しにくると踏んだんだ。そしてその推測はあっていた。キラーズを作った数ヶ月後に自分を神という男が俺を殺しに来たんだ。その時は苦戦したよ。ここで死ぬかもとも思った。だが、俺は勝利した。だけど、その後数日後にお前が見つかったという情報が入ってきたんだ。話を聞くと、お前は俺を憎んで、日々修行しているとな。はっきり言って当時俺はお前と戦いたくはなかった。だが、そんなことを言ってられない事態が起きたんだ。

 運命の神が他の神たちが俺とお前に関わった奴らをすべて殺そうと動いているということを教えてくれた。だから・・・」


 フェルトが座っていた椅子が変形し、一体の獣になりフェルトを拘束する。


「な、何をする!」


 僕は抵抗しようと体を動かす。だが、直後僕は動くのをやめる。なぜなら、ルトバーが最初に座っていた王座のすぐ目の前の空間がグニャリと曲がり、大きな穴ができ、その中から白い鎧を纏う大きな人間の形をした生き物や、白い鳥、白い龍、白い狼、白い巨人が出てきたのだ。


「フェルト、来世ではお前は幸せになれよ」


 僕の胸に何かが突き刺さる。直後、空間の穴から出てきた鎧を纏う生き物が剣を振り下ろす。そして、足場が崩壊し塔が崩れていく。

 時間の流れが遅く感じる。僕は塔の崩壊と一緒に落ちていく、横では同じように気絶しているムイ、胸に穴が空いているのに微笑んでいるエル、そしてバウ、いきなりの落下に呆然としているユメミ、そして、上を見上げているエト、スイ、ライ、人狼、エルフ、龍人の種族たち。


『ああ、僕は死ぬんだ。ずるいよな、最後にあんな顔をされるなんて』


 僕は最後にルトバーが見せた表情を思い出す。その顔は優しい表情をしていた。そして、同時に悲しそうな表情もしていた。


「フェルト、迎えにきたよ」


 どこからかアクアの声が聞こえる。

『ああ、僕の迎えはアクアがしてくれるのか』



 崩壊した塔の残骸の中でフェルトたちは静かに眠りについた。





「フェルト!」


 アクアはルトバーがフェルトの胸に黒い槍を突き刺した時にルトバーがいる部屋についた。


「もしかして、アクアか?」


 ルトバーに名前を呼ばれ、アクアは反射的にルトバーの方を見る。だが、気になったのはルトバーの奥にいる白い生き物たち。


「な、何あれ」

「あれは神たちだよ。・・・頼めた義理じゃないんだけど、来世でフェルトたちのことを頼むな」


 ルトバーはそういうと、白い生き物たちに向かっていく。ルトバーの体には黒いオーラが纏われていた。

 直後、白い鎧を纏う生き物が剣を振るい塔を破壊する。アクアはすぐに落ちていくフェルトを追いかける。だが、フェルトはもう助からないと思った。胸に槍が深く刺さっていたからだ。周りを見るとムイちゃんたちも落ちていた。だが、ムイちゃんも気絶していて、アクアは今から動いても間に合わないと思った。


『騙してごめんね』


 アクアの目の前に運命を操る神が姿を表す。


『君に与えた役目は本当はフェルトくんを助けることじゃなくて、無事にフェルトくんたちの魂を天界に連れていくことなんだ。僕は今から大悪魔とともにルトバーの加勢をするから一緒にはいけないんだごめんね』


 運命の神はそう言い残すと、ルトバーが戦っているところまで飛んでいく。


「つっ、わかった」


 アクアはすでに地面に落ちる寸前のフェルトに向かっていく。


「フェルト、迎えにきたよ」


 アクアはフェルトに向けて言う。できる限り笑顔を作って。そして、フェルトの体は落下し、降ってきた壁によって潰れた。

 アクアはみんなの体から出る魂を集め、空へと登っていく。


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