第99話最弱であり最強



 ユメミとヤミはすでに二人とも消耗している。

 ユメミはヤミの生成するワープホールに攻撃が吸い込まれ、自分にあたり肉体的ダメージを負っていた。

 ヤミは異能力を使いすぎて精神的ダメージを負っていた。


「そろそろ諦めてくれませんかね。この異能力じゃああなたは殺せそうにありませんので」


 ヤミはユメミに提案する。


「やめるわけにはいかない。それが、私だけが生き残ってしまったせめてもの罪滅ぼし」


 ユメミはボロボロになりながらも刀を構える。


「私はねい能力以外は凡人より全ステータスが低いんですよ。ですからあなたの攻撃が一発でも当たれば私は死にます」

「なんでそれを私に?」

「希望が見えた方があなたもそれに縋りやすいでしょう? それに、私の異能力がある限り、あなたが私に勝つことはありえないんですよ」


 ヤミは初めて自信満々に喋る。それだけ勝利を確信しているとも言える。


「よく言うよ、もうヘトヘトなくせに」


 ユメミは闇を挑発しているような喋り方で喋る。


「やっぱりはあなたの発言はなぜか癇に障る」


 ヤミはこの時、この勝負で初めて自分から攻撃を仕掛ける。黒い剣の形状をした闇を手に取りユメミに斬りかかる。

 ユメミは刀でそれを防ごうとする。だが、闇はユメミの刀をすり抜け、もとい刃が当たる部分を消し、ユメミに当たる。だが、ユメミは刀の刃が消えた直後すぐに後ろに一歩下がりギリギリで避ける。


「今のを避けましたか。なら、次はもっと早くするまでです」


 ヤミは手首を回し、もう一度剣で切り裂く。だが、ユメミはそれをすんでのところで避け、真ん中から先がない刀をヤミの目に向かって投げる。


「グサッ」


 ヤミの右目に刀が刺さる。同時に、ユメミの左足にユメミの投げた刀の先が刺さる。


「少し油断しましたね」


 ヤミは右目からあまり深く刺さっていない刀を抜き、投げ捨てる。

 ユメミは左足に刺さった刀を抜き、刃で手のひらが切れているのにもかかわらず少し強く握り構える。


「どうやって、私の刀を音も立てずに切断できた?」


 ユメミはどうやって闇の剣が自分の刀の当たった部分から先が消えたのか不思議に思い問う。


「僕の異能力を見たあなたならわかるでしょう? この剣にワープホールと同じ役目を果たすんですよ。要するに、なんでも切れる剣と同じです」


 ユメミは予想していたことが当たり喜ぶ・・・わけでもなく、絶望を感じる。


『こんなのにどうやって勝てって言うんだ。もう既に奥義は使った、それでも全部跳ね返されて意味がなかった。・・・やっぱり異能力を私じゃあこいつには勝てない』


 ユメミは諦め、手から刀が落ちそうになる。


『諦めたらそこで終わりだよ』


 どこからか声が聞こえる。その声はとても優しくて、勇気付けられる声だった。


「あなたは?」


 ユメミは自然と声に聞いていた。


「まさかショックで記憶でも失いましたか?」


 ヤミは驚いたような顔をしてユメミを笑う。どうやらヤミには聞こえていないようだ。


『私? 私はこの世界にとても心配な人がいるからあの世から戻ってきちゃった死霊だよ』


 声は自分は死霊だと言う。死霊は人を恨んで死んだり、呪いによって生み出されるのがほとんどのはずだった。だから、死霊はこんな優しさが伝わってくる声を出せるわけがなかった。


「あなたは、あなたは本当に死霊なのですか?」


 ユメミはヤミのことなど忘れて自称死霊の声に尋ねる。


「全く、とうとう幻覚まで見はじめましたか。もう見てられませんね、一思いに殺してあげましょう」


 ヤミはそんなユメミにしびれを切らしたのか、剣を持って斬りかかる。


『ほらほら、今は私が死霊かどうかより目の前の敵を倒さないと』


 死霊の指摘され、ユメミは我に返る。そして、反射的にしゃがみ込みヤミの攻撃を避ける。


『君はこの男に勝ちたいの?』


 死霊はユメミに尋ねる。


「・・・・・できることなら、勝ちたいです」

『わかった。じゃあ、あなたは異能力を使ってね』


 死霊は意味のわからないことをユメミに言う。


「私はまだ自分の異能力がなんなのかわかってないんですよ?!」


 ユメミは死霊に言う。そうしている間にもヤミの攻撃は止まらない。


「さっきから何を訳のわからないことを!」


 ヤミはさっきからずっと何かと話しているユメミを怒鳴る。だが、そんなのはユメミにとってはどうでもよかった。


『いいからいいから、早く使って。異能力発動っていうだけでも使える異能力だから』


 死霊はなぜかノリノリで言う。スズはもうどうにでもなれと思いながら


「異能力発動!」


 と叫ぶ。直後、ユメミは体の中に何か入ってくるのを感じる。だが、入ってくるものに対して嫌な感じはしなかった。逆に、心地よかった。


「久々に戦うなぁ、まぁ、フェルトの手助けするためにはこれぐらいの敵が準備運動にちょうどいいか」


 ユメミの口からそんな言葉が発せられる。


「あなた、本当に先ほどまで私と戦っていた人ですか?」


 ヤミが警戒した様子で剣を構える。


「あれ、もしかして私のこと忘れたの? まぁ、すぐにわかるよ」


 ユメミは氷で杖を生成する。


「な、その杖は・・・なんで、あなたが生きて」


 直後、ヤミの体は氷に包まれた。





 気がついたら目の前には氷に包まれたヤミとなぜか手に持っている氷でできた綺麗な杖があった。


「これを私が?」


 ユメミはまだ状況が飲み込めてないようだった。


『そうだよ、正確には君の異能力で体の中に入った私がしたんだけどね。って、あれ? もしかして覚えてないの? おかしいなぁ、あの神様は記憶が残るって言ってたのになぁ』

「そ、そんなことより、ヤミは死んだんですか?」


 独り言を話す死霊にユメミは尋ねる。


『いいや、殺してないよ。まぁ、時間の問題だけどね。あとは君がどうしたいか決めてね。その杖を向けて解除って言えば解除されるから。じゃあ、私は時間がないからもう行くね。

 死霊が言うのもなんだけど、あんまり人を恨み続けると辛くなってしんどくなるよ』


 それ以降死霊の声は聞こえなかった。


「本当に、死霊だっったのかな?」


 ユメミは呟く。そして、数秒もしないうちにユメミは解除といい、氷を解除し、ヤミの胸に、村の人たちの無念を込めて刀を突き刺した。







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