第92話奥義・斬龍剣



 精霊たちと別れたあと、僕は仮宿に戻り体を休めることにした。外には一応炎のゴーレムを生成しておいたから、よっぽどのことがない限りは大丈夫だろう。


 そして、次の日の朝。


 僕が仮宿の中に作った食堂にエルたちが全員座っていた。その中には少女もいた。


「あ、起きてきた」


 やはり一番最初に気づくのはムイだった。


「朝食も食べずにここでなにしてるの?」


 僕はこの空間の空気が重くなっているのを感じムイに尋ねる。


「実は、あそこにいる少女がフェルトお兄ちゃんにお願いがあるんだって。それで、あまりにも真剣な顔してるからフェルトお兄ちゃんが起きてくるまで待っていたら、いつの間にかこんな空気になっていて」


 つまりこれは僕のせいのようだ。


「わかった、朝食はみんなもうとったの?」

「まだ」

「じゃあ、ムイはみんなの朝食の準備をしてくれるかな?」

「わかった」


 ムイはそう返事をすると台所に走っていく。

 僕は少女の目の前の空いている席に腰を下ろす。


「さて、話ってなにかな?」


 僕は少女に尋ねる。


「私を仲間に入れてください」


 少女はそう言って頭をさげる。

 僕は突然の出来事にあっけにとられる。それはエルたちも同じのようだ。


「それは、どう言う心境の変化かな?」

「みんなのお墓の前で昨晩一日中考えたんです。そこで村をこんな風にした奴に罪を償わせたいんです。でも、一人ではそんなことができない、だからあの黒い何かの大群を息切れひとつせずに倒したあなた方についていければ、私はこの目的を果たせるとかもしれないので。どうかお願いします」


 僕の目の前に座る少女から彼女がどれだけ真剣なのかが伝わってくる。が、僕は彼女の実力もわからない。それに、彼女にルトバーの軍勢と戦うための実力がなかったらわざわざ死ににいくようなものだ。


「じゃあ、一つテストしよう。簡単なテストだよ。君の実力が知りたいんだ、半端な実力だったらわざわざ死ににいくようなものだからね、それとその程度の実力でついてこられても足手まといだから」


 僕の言葉に少女は黙る。それもそうだろう、なにせ彼女が最初に攻撃してきたとき、彼女は僕を守るために動かないエルたちを見ていたはずだからである。

 一見仲間のことを心配しないひどい奴らだと思われるかもしれない。だが、言い換えれば彼女程度の実力では僕は殺せないと判断されるほど信頼があるとも言える。


「・・・・・・」


 沈黙が続く。

 そして数分後。彼女はようやく口を開く。


「わかりました」


 少女はから何の迷いも感じられない返答が返ってくる。


「いい返事だ。じゃあ、ムイが用意してる朝食を食べてから始めるから、今はちゃんと食べな」


 僕たちはムイの用意した朝食を食べ、仮宿の外に出た。


「それじゃあテスト内容を言うね。今からムイと戦ってもらうから、どちらかが戦闘不能もしくは致命傷と断言できる攻撃を与えた方の勝ちとする。どちらも相手を殺す気で戦うこと」


 僕がそう言うとムイと少女がひらけた場所に出る。


「初め!」


 僕の一言と同時にムイは白虎を召喚する。対して少女は刀を腰に刺しているさやから抜き構えをとっている。


「じゃあ、先に攻撃させてもらうよ。白虎行って」


 ムイの命令通りに白虎は鋭い爪を立てて少女に襲いかかる。

 対する少女は刀の刀身を横に傾け白虎の攻撃を真横に受け流す。


「白虎、まだいける」


 ムイがそう言った直後、白虎の体の周りに黒と白のオーラが現れる。


「グルルゥゥ」


 白虎は少女に鋭い牙を用いて嚙み殺そうとする。


「打ち上げて」


 少女がそう言った直後、白虎の体は空へと打ち上げられる。


「撃ち落として」


 次に少女はそう言った、直後、またしてもその少女の言葉通りに白虎は地面に撃ち落とされる。


「これでその獣は使えない。だから、勝ちはもらう」


 少女はムイに考える暇を与えず、刀を振りかざす。

 だが、振りかざしたはずの刀は簡単に弾かれる。


「どう言うこと?」


 少女は刀を構え直しながらムイに尋ねる。


「誰も白虎だけなんて言ってませんよ」


 そこにはムイの体を守るように纏わり付いている玄武の蛇がいた。


「な、もう一体いたのか」


 少女は玄武を睨みつける。そして、息を整えムイに追撃を喰らわせようとする。


「朱雀、吹き飛ばして」


 ムイがそう言った直後、ムイと少女との間合いの間に陣が出現しそこから赤い炎を纏う鳥、朱雀が召喚されムイに襲いかかろうとする少女を後方へと吹き飛ばす。


「くっ」


 少女は空中で体制を立て直し地面に着地するが、少女のお腹にはすでにムイの手が当てられていた。


「青龍、水で飲み込め」


 直後、ムイの手から少女を包み込むように水が出現し一瞬で少女の体を飲み込む。


「ガバァぁ」


 少女は苦しそうに水の中でもがく。

 数分経っても少女が水の中から出てこられう気配がしなかったため、僕はそろそろかと思い戦闘終了の合図を出そうとする。


 異変は僕が口を開いた直後、すぐに起こった。


『ザバァーン』


 水がはじける音と共にムイが後方へと吹き飛ばされ、主人を守らんと動いていた白虎の体に当たる。


「なにが、起こったの?」


 僕たちは全員少女の方を見ていた。

 大量の水蒸気のせいで少女の姿を捉えることができないが、少女がいるであろう場所からは異質な空気が放たれていた。


「また何かくる。玄武は守り重視、青龍は攻撃、朱雀は青龍のサポート、白虎は私が纏うから」


 ムイの神獣たちがムイの命令通りそれぞれの役割を果たそうと動く。


「玄武、ちゃんと守ってね」


 ムイは一直線に少女に向かって向かっていく清流の後ろに続く。

 それと同時に少女の周りにあった水蒸気が完全に晴れ、少女の姿があらわになった。そして、僕たち全員は少女の手に持っている刀が赤く輝いているのを確認する。


「奥義・斬龍剣!」


 少女は刀を青龍に向けて振り下ろす。直後、あたりに爆風が起こり、戦場には首の切り落とされた玄武と光の粒子となって消えていく青龍、そして、すんでの所で避けたと思われる白虎を纏ったムイ、地面に倒れる少女の姿があった。


 僕はこの状況を見てとっさに、


「勝者、ムイ!」


 と叫ぶ。その直後ムイは地面に倒れた。

 そして、僕とエルは地面に倒れている二人を仮宿の寝室まで運ぶことにした。

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