第75話イナ大陸



 イナ大陸を目指して五日が経過した。

 ここまでそれと言って変わったことはなかった。強いていうならば、ムイとエトが自分たちから手合わせを頼んできたことぐらいだった。

 僕はここ最近のことをお乱していると、エトがいきなり声をかけてきて。


「フェルトさん、こちらに向かって飛んでくる生き物みたいなのがあるんですけど、あれはなんでしょう?」


 僕はエトが言った通り前を見る。そこには確かにこちらに向かって飛んできている翼の生えた黒い何かがいた。その姿は氷流山に行く途中とついこの間まで僕たちがいて、崩壊状態となった町で戦った黒い何かに似ていた。


炎弾フレアバレット


 僕は左手の人差し指を翼の生えた何かに向けて、人差し指の先から炎の弾丸を1発放つ。


「キケェェケケ」


 僕は驚いた。

 なぜなら、翼の生えた何かの形からして顔と思わしき場所がバックリと開いて、炎の弾丸を飲み込み気味の悪い叫び声をあげたからだ。


白虎鉤爪びゃっこのかぎづめ


 エトの斜め前を飛行しているライの背中から白い斬撃が翼の生えた何かに向けて放たれる。多分ネイだろう。


「ケァァキキ」


 翼の生えた黒い何かは炎で白い斬撃を打ち消す。そして、黒い何かはいきなり炎を纏い出した。


「いきなり炎を纏った?!」


 僕は驚きのあまり声を上げる。


「エトちゃん、何かあいつに攻撃できる?」


 僕はいきなり炎を纏った翼の生えた黒い何かをみて、少し考えた時にでた推測を確かめるためにエトに聞く。


「この姿なら風のブレスなら放てますが」

「じゃあ、あいつに向かって放ってくれ」


 エトは口を開け、口から風のドラゴンブレスを放射する。


「グラァァウ」


 翼の生えた黒い何かはエトが放った風のブレスを真正面から受ける。


「これで倒せましたかね」

「僕の予想だと全く効いてない。それどころかさらに強くなってると思う」

「え、じゃあ、何でやらせたんですか?!」

「予想の確認」


 僕がそういうと、エトは大きなため息をついた。


「やっぱりな」


 僕の予想は当たっていた。

 なぜなら、翼の生えた黒い何かは風のブレスを真正面から受けたのにもかかわらず、その風を操り自分を包み込むように風の防壁を作る。


「え、どういうことですか?! 私も実験施設とこの間までいた街であれと似たような生物を見たことがありますけど、あいつらはここまで性能良くなかったですよ!」


 確かにエトの言う通りだった。僕たちが前戦ったやつらは空を飛びもしなかったし異能力を吸収するだけで、人の異能力を使うなんてことはできなかった。


「まぁ、物理攻撃は効くだろうけど」


 僕はエトの背中から飛び降りると、大気中の水分を刀の異能力で凍らせ空中に氷の足場を生成する。


氷纏アイスコーティング


 刀のヒビが氷で塞がれていく。


「氷は吸収されるかもしれないけど、これなら斬れる」


 僕は大気中の水分を氷に変え、足場を作りまだこちらに向かってくる翼の生えた黒い何かに向かって走る。


時停止タイムストップ


 僕は翼の生えた黒い何かの目の前についたときに黒い何かが吸収し、使っている異能力を止めた。そして、僕は縦にまっすぐ刀を振り下ろす。


「ガキィィィン」


 刀はあっけなく弾かれた。


「・・・え」


 僕が驚きのあまり体がすぐに動かない。黒い何かは僕に拳を1発入れる。


「フェルトさん!」


 エトが黒い何かに殴られて海に向かって落ちていく僕を海面に当たる寸前で拾い上げる。


「フェルトさん、大丈夫ですか?!」


 僕は黒い何かに殴られたところを見る。殴られたところは青く腫れていて、触ると激痛が走った。


回復キュア


 青い腫れは引いたがルトバーとの戦闘で負ったダメージが完全に回復しきれてない状態だったからか、痛みまでは完全に引かなかった。


「フェルト、俺に任してくれないか?」


 いつの間にかエトの背中にエルが乗っていた。


「いいけど、勝算はあるの?」

「ついこの間、スズに作ってもらったこの剣ならいける気がする」


 エルはそう言っていな大陸を目指す途中にスズの異能力で作った金色の剣を僕に見せてくる。


「わかった。頼む」

「任せろ」


 エルはそう言ってエトの背中から飛び降りる。


「え、エル飛んだりできないでしょ!?」


 僕は慌ててエルが飛び降りたところを見下ろす。


「この剣は異道具何だよ、だからエトちゃんの龍の時の異能力が使えるようにしてあるから、少し難しいけど飛べないことはないよ」


 エルはそう言って、剣は動かし空を飛んでいる。剣を動かしている理由は多分、剣の異能力をあやつるためだろう。


「じゃあ、ここで待ってな。新しい俺の剣術で倒してくるから」


 エルはそう言って剣を操作し黒い何かの元へ飛んで行った。





「生き物に対しては初めて使う技だけど何とかなるかなぁ」


 俺は空を飛びながらそんなことを考えていた。


「そろそろかな」


 俺は空中で止まり、剣を構える。


飛龍風突ひりゅうかぜつき


 俺は剣の先端を黒い何かに向けて、常人には見えない速度で一突きする。その速さはたやすく風の防壁を貫き、黒い何かの胸に刺さる。


「グゲェゲァァ」


 黒い何かから青色の液体が出る。多分人間で言うところの血だろう。

 黒い何かは炎を俺に向かって放つ。


「フェルトの炎に比べたらあまり熱くないな」


 俺は剣で炎をなぎ払い今度は剣を横に振り黒い何かを真っ二つにしようとする。


「ガキィィン」


 剣は黒い何かに触れた瞬間に弾かれた。


「・・・え、突きは効いて斬るのは効かないのか?」


 俺はそう思いながら黒い何かを見る。券が当たったところが少しだけ切れていた。

 ここで一つの推測が浮かんだ。多分、一定の攻撃力なら弾き返されるが突きのように一点に威力を集中させた攻撃ならばダメージを負わせられるんじゃないか。


「じゃあもう一回。飛龍風突ひりゅうかぜつきれん


 俺はさっきの突きを7発連続で黒い何かに食らわす。


「グゲェェ」


 思った通りだった。剣による突きが当たったところだけ青い液体が出て黒い何かは痛みに悶えていた。


「痛いか、なら次で終わらせる。飛龍風突ひりゅうかぜつきかい


 俺は剣に風を纏わせ黒い何かを一突きする。


「アグァァゥ」


 黒い何かの胸に回るい風穴を開けた。その風穴は剣の先端の大きさよりふた回りぐらい大きかった。


「練習はしてたけど、まさかここまで威力があるなんて」


 俺は剣を操作してエトの背中に戻る。

 俺がエトの背中に戻るとフェルトが


「なんかもう剣術で勝てる気がしないんだけど」

「剣術が全てじゃないでしょ? 異能力の強さとかの合計で言ったらフェルトの方が強いんじゃないか?」

「確かにそうかもしれないけど、剣術だけは一生敵う気がしないってこと」


 俺とフェルトは二人で笑った。


 それから少しして俺たちはイナ大陸に向けて出発した。





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