第74話龍に乗っての移動



「「さぁ、始めるぞ」」

「始めます」


 ライ、スイ、エトの三人は僕たちから少し離れたところで。


「「「龍化」」」


 ライとスイが真っ赤な光に包まれ、エトは真っ白な光に包まれる。

 ライとスイは前と同じ黄色い目をした赤いワイバーンと同じような姿をした龍だが、大きさは前見た時とは比べ物にならないほど大きくなっていた。それこそ大の大人を三人ぐらいは余裕で運べそうなほどに。

 エトは黄色い目をした白色の龍だ。ライやスイとは違った姿の龍だった。前にエルの家で読んだ龍図鑑に乗っていた白龍に似ていた。


「「さぁ、遠慮などしなずに早く乗るがいいぞ」」


 ライとスイは二人揃って自信満々に胸を張る。


「龍化したの久しぶりですけど、頑張ります」


 エトがそう言って中で円を描くように一回転する。


「それで、向かう場所はどこなんだ?」

「ルーン大陸から海を挟んだ先にあるイナ大陸の神秘の森」


 僕はエルの問いに返す、するとエルは神秘の森?という顔をした。


「大丈夫、イナ大陸に着いたらどこに行けばいいのかわかるから」


 僕がそういうとエルは『任した』と言ってくる。


「早く乗らないと我らの体力が持たないのだが」


 ライがまだかまだかと待ち構えている。


「もう少しで荷物運びが終わるから待ってて」


 僕たちはライ達にできる限り負担をかけないように最低限の荷物だけ持っていくことにした。そのぶん運び終わるのにあまり時間はかからなかった。


「「じゃあいくぞ!」」

「出発します。エルさん、どちらに進めばいいのかだけ指示してください」


 ライとスイは翼をバタバタと羽ばたかせ宙に浮いてから一気に空を飛んだ。エトは翼がないから中に浮くのに予備動作が入らず、すぐに空を飛べた。





 僕たちがイナ大陸を目指してから1日が経過した。

 ライ達も寝なければ龍化が強制的に解けてしまうらしく、夜は海を凍らせてそこで寝ることになった。空を飛ぶ獣とも何度かは会ったけれど、そこまで手強くなかったためあまり戦闘面での体力は減っていなかった。ただ、前に進んでいるときに当たる心地よい風は馬車とかではいつも僕の横にいたアクアのことを鮮明に思い出させてくる。


「フェルトお兄ちゃん、アクアお姉ちゃんは最後は幸せそうだった?」


 ムイがいきなり僕にきいてくる。今はエトの背中に乗っているが、風とムイの声が小さいこともあって聞こえていないようだった。


「最後は、僕ともっと一緒に過ごしたかったしみんなともっと思い出を作りたかったって言ってたけど、最後は笑顔だったよ」


 今でも目を閉じるだけで頭に流れてくるアクアが死ぬ前の出来事。それは、悲しみや恐怖、寂しさなどを心に与えてくるがアクアの最後の笑顔だけは僕に安心とやすらぎを与えてくれていた。


「よかった。少しは満足できたんだね」


 ムイの目から涙が流れる。僕もそれにつられ、自然と涙が出る。


「フェルトお兄ちゃん、お願いがあるの。私を強くして、私の親を殺したキラーズをアクアお姉ちゃんが死んだことによってさらに恨みがましたの。だから、キラーズを倒すために、私に戦い方を教えてください」


 ムイの目は真剣だった。いつも引っ込み思案なムイがここまで自分の気持ちを自ら話すことは珍しかった。それだけに、真剣さが伝わった。


「戦い方はとにかく、手合わせぐらいならするよ。それに、僕もアクアからもらった異道具を使いこなせるようになりたいからね。こちらからもよろしく頼むよ」


 僕はムイに笑いかける。


「え、でも、刀にはヒビが入ってるんじゃないの? それヒビだよね」


 刀に鞘などがないため刀についたヒビもすぐにわかってしまう。


「だからなんだ、刀の異能力が使えるからその異能力をアクアほどとはいかなくても使いこなせるようにしておきたいんだ」


 僕がそういうと、ムイは刀をじっと見る。


「そういえば、フェルトお兄ちゃんの腰に刺さってる空色の短剣は何?」


 ムイはそう言って僕の腰に巻いてある帯のようなところと体の隙間に刺さっている短剣を指差す。


「アクアとの婚約指輪が何らかの変化でこの形になったんだ。だから肌身離さず持ってるんだ」


 僕がムイに教えてあげると、ムイは『そんなことがあったんだ』と言った。どうやら自分の知りたいことがわかって満足したようだ。


「フェルトさん、手合わせなら私からもお願いします」


 どうやらエトにも聞こえていたようだ。


 僕たちはイナ大陸を目指して今日も空を進む。


 あたりが真っ暗になり、星の光とたき火の炎しかあかりになっていない夜。僕たちは海の上の凍っている場所で持ってきた枝に火をつけて、その炎で夜ご飯の準備をしてみんなでその炎の周りに座って夜ご飯を食べていた。どうやらこの氷はたき火程度の炎では溶けないようだ。


「どうですか? アクアお姉ちゃんほど美味しく作れなかったですけど美味しいですか?」


 ムイが僕に聞いてくる。


「ああ、美味しいよ。それに味がアクアの作った料理に似ていて・・・」


 食事の感想の途中で僕の目から涙が溢れ出てくる。


「大丈夫?」


 ムイが心配そうな顔をして聞いてくる。


「ごめん、何でもない」


 僕は涙を拭って笑って見せた。


「美味しかったよ、じゃあ向こうで手合せの準備してくるから。食べ終わったらきて」


 僕は今いる場所から少し離れたところの海面を凍らせてちょっとした格闘場を作った。


 少ししてムイとエトがきて手合わせをして、明日に備えて僕は寝た。













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