第73話本当の力
《撤退》
僕は炎を操作し、地面に落ちているヒビの入った刀をとる。
「
僕は刀に込められているアクアの異能力を使って右腕があった場所に氷でできた義腕を生成する。そして炎を操作し刀を僕の義腕の前の位置まで持ってくる。そして氷で生成した義腕で刀を掴む。氷の義腕は少し動かしにくいがあまり問題になるほどではなかった。
「へぇ、知恵を使ったな。だけど、片手だけで俺を相手しようっていうのか?」
「・・・・・・・」
僕はルトバーの問いに口では答えない。代わりに刀を持った右腕で構える。
「俺も舐められたものだな。さっきの力をその状態でも使えるかは知らないけど、さっきの状態でも俺には勝てなかった。それどころか、俺の本気の一歩手前に負けてるんだからな」
ルトバーはそういうが、僕にはあまりその時の記憶がない。
「じゃあなぁ、俺の子供よ」
ルトバーはそう言って手に集めた雷を僕に向かって大量放出する。
「
僕は放出された雷の進行を止める。だが、一瞬しか止められなかった。多分、ルトバーが僕の異能力を消したんだろう。
「イフリート」
僕の髪の一部が赤くなる。そして、僕を守るかのように炎が僕の周りから吹き出て雷を防御する。
「まだまだ、あるぞ」
ルトバーはさっきとは違う紫色の雷を僕に発つ。僕は黒い炎を雷に向けて放つ。雷と黒い炎は衝突し、爆発を起こす。
『フェルト、10秒後にお前を仲間のところに強制転送する。それまであいつの攻撃を全ていなしてくれ』
僕の頭の中に僕の前世であるフェイテの声が聞こえる。
「わかった」
僕は刀を強く握り天井に突き立てそのまま一気に振り下ろす。
「
氷がルトバーを包み込み、氷のが包み込んだルトバーがいる方に黒い炎が放出される。
『ドゴォォン』
ルトバーは氷を破壊し、僕に風のヤイバを放ってくる。
『転送準備完了。転送するぞ!』
風のヤイバが当たる前に僕はフェイテが何らかの方法でやった転送でエル達の元に転送される。
《転送された直後》
「あいつはどこ行った? どこかに隠れているのか? いや、周りにあいつの気配はないし異能力で探しても見つからないとなると転送系の異能力を持つものが手を貸したか」
俺が放った風のヤイバがフェルトに当たる直前にフェルトが消えたことに対して自分なりに探りを入れたり、考えたりしていた。
「ヤミ、お前が手を貸したのか?」
俺がそういうと、空間の歪みが出現しそこから礼儀正しそうな男が出てくる。
「いえ、私がルトバー様の命令以外でフェルトに関わると思いますか? それにあの状況でフェルトを逃せばあなた様に対する反逆行為になりかねないので」
ヤミは淡々と告げる。
「まぁ、この件は後で調べるとして。ヤミ、
「氷流山付近の人間の集落、街はフェルト一行がいないところ以外は全滅しました。この速さで行くと一週間後にはこのルーン大陸の全人類は全滅するでしょう、ただ問題なのは一面塩水の広大な海を越えた先にあるイナ大陸ですかね。あちらの大陸には私ぐらいの実力の持ち主が確認されているだけで十人はいます。それにいな大陸の住民は刀という武器を使った戦闘が得意らしいですから失敗作に通用してしまいます」
「じゃあバウとリウをイナ大陸に送る。それでいいな?」
「わかりました。一応バウだけはすぐにこちらに来れるようにしておきます」
「ああ頼んだ」
俺はヤミと少し話をしてから。
「ところでヤミ? あの異道具は完成しそうか?」
「もう少し資材があればできると思います」
「いくらでも使っていいからあれだけは完成させろ」
「わかりました」
ヤミは空間の歪みに戻って行く。この部屋には俺一人だけになった。
「もう少しだ。もう少しでお前の目的を成功させれるぞ。フェナ。それにしてもフェルトは本当に俺とお前の血を引いているのかな? あいつの異能力は特殊だ、仲間にならないなら殺さなければ目的に支障が出る。いいよな、フェナ?」
俺はもうこの世界にはいない、俺の大事な人の名前を呼びながら天井を仰ぐ。
《僕がいない間に》
「みんな、ただいま」
エル達は集まって瓦礫の上などに座ったりして休んでいた。みんな戦闘で疲労が溜まっているように見えた。
「え、フェルト。お前今までど・・・・」
エルの言葉が、僕が左手と氷で作られた義腕でお姫様抱っこをしているアクアを見て詰まる。
「フェルトお兄ちゃん、帰ってきたんですか?」
ムイが僕に気づいたのか、僕の方によってきて表情を恐怖と悲しさ、驚きを混ぜたような表情に変わる。
「あれ、フェルト君」
「「フェルト、無事任務は果たせたのであろうな?」」
「フェルト、おかえり」
「フェルトさんお帰りなさい」
「フェルト、お疲れ様」
みんなも僕の方によってくるがムイと同じく表情を変える。
「フェルト、アクアちゃんは寝てるだけだよな?」
エルは僕に確認を取る。本当はわかっているだろう、ただ、今の僕と同じくそのことを考えたくないだけだ。
僕は首を横に振る。
「う、嘘だよな? あんなに強かったアクアちゃんが死ぬわけないよな?」
エルはどんどん現実逃避をしようとする。
「死んだよ。僕の目の前で・・・」
僕はそれ以上喋れなかった。何があったか伝えないとと思い喋ろうとする。だが、口が動かない、言葉が喉を通らない。
エル達はみんな泣く。付き合いが短いエトやライ、スイも泣いている。
「みんな、僕はルトバーの目的を止めたい。そして来世の僕とアクアの運命を変えたい」
僕は真剣にエル達に伝える。
「その、お前の意気込みはわかった。だけど、ルトバーの目的ってなんだ?」
そうだった。エル達はルトバーの目的について知らないんだった。
「まずはそこからだったね。ルトバーの目的は、ルトバーが信用する人間以外の全人類を殺すこと」
僕がそういうとエル達は全員息を飲む。そして僕はあの場所で何があったのか、どうしてアクアが死んだのかを話した。
「あともう一つ伝えないといけないことがある」
みんなは首をかしげる。
「ルトバーが僕の父親だった」
数秒してから。
「「「えぇぇ!」」」
みんな一斉に驚く。
「でも親だからって関係ない。それにあいつは僕から大切な時間を二度も奪ったんだ。だから僕はあいつに死をもって償わせる」
僕は拳を固めて今ここで決意すると同時にエル達に気持ちを伝える。
「わかった、俺もついて行く。それと俺もお前に伝えないといけないことがあったんだ。俺の目的はお前の成長を見届けることだったんだ。もうこの世界にいない俺の恩人に頼まれたんだ」
僕はエルの恩人に心当たりがなかった。
「エルの恩人?」
「お前の母親」
「え、だって僕の母親はルトバーと同じ目的だって」
「そうかもしれないけど、善人には優しかったよ。多分ルトバーは自分のいいように解釈してる」
僕はこの時初めて母親に対する怒り、とは違った感情が消えて行くのがわかった。
「そうだったんだ。・・・よかった」
僕が安心すると、スズが僕とエルに。
「私とライ達もついて言ってもいいですか? この前話し合ったんですけど、やっぱり仲間は救いたいなって話にまとまったんです」
「わかった。僕も出来る限り手伝わせてもらうよ」
僕はスズの申し出を受けることにした。ていうか最初からそういう約束だったから。
「ジルとハイドちゃんとムイちゃんはどうするの?」
僕が二人に聞くと、ジルが最初に答えた。
「フェルト君達が失敗して、死んだりとかしたら僕とハイドだけで勝つことなんてできないし。逆にフェルト君達について行ってルトバー達を倒したら僕たちは英雄ってことだよね。僕はついて行くよ」
ジルはそう言う。
「私はジルが行くところについて行く。それにアクアちゃんを殺した恨みを晴らしたい」
ハイドはいつもと少ししか変わらない喋り方だったが確かに怒りはこもっていた。ムイは首を縦に振るだけだった。
「そういえば、町の住人は生き残ったりしているのか?」
僕がエル達に聞くと、エル達は残念そうな顔をした。
「俺たち以外全員死んだよ。フェルトが帰ってくるまでお墓を作ってたんだ」
エルはそう言って瓦礫などが全くないところを指差す。その場所の真ん中に大きな石版があった。
「あの石版はハイドの異能力で作ったやつで、もう異能力として機能してないからそのままなんだって」
僕が興味を示したことに気づいたのか、エルが説明してくれる。
「それより、アクアちゃんのお墓は作らなくていいの?」
「アクアのお墓は僕が手をかけて作りたいんだ。それに、アクアのお墓はもっと穏やかなところに作りたいからね」
僕がそういうとエルは『そうだな』と同意してくれた。
「それまでアクアの体をどうするつもりなんだ?」
「
アクアを包み込むように四角形の氷が生成される。
「これなら大丈夫でしょ」
僕がそういうとエルは少し驚いていた。
『フェルト、ちょっといい?』
頭の中にフェイテノ声が聞こえる。
『何?』
『記憶の図書館にある異能力を全て使えるようにすることができる場所とアクアちゃんの運命を変える場所が一緒にあることが判明した。今からみんなでそこに向かってくれ、そこでなら他の人たちも試練を受けれる。場所はお前の頭に送っておいた』
それ以上声は聞こえなかった。でも、頭の中にその場所の地図が新しく入っていた。
「みんな、すぐに出発する準備をしてくれ。エルも馬車は完成した?」
「いや、馬車の馬を殺され、馬車もとっくの前に破壊されてるよ」
僕は辺りを見回す、高い建物なんてなく、ほとんど形が残っていない家ばかりなのに馬車が見えなかったのはそのせいか。僕としたことがそこにまで考えが及ばなかった。普通の平常心なら先に聞いていただろう。アクアが死んだことでまだ平常心が戻っていない証拠だと僕は実感した。
「「我らの存在を忘れてないか?」」
「私も忘れないでください」
ライ、スイ、エトの三人がそういう。僕には意味がわからなかった。
「我らなら龍になって空を飛ぶことができるんだぞ。我らの体力の消費量が半端ないからあまり使いたくないのだが非常時なら仕方あるまい。多分馬車の移動よりかは早いぞ」
ライが自慢げにそう言ってくれる。こういう時はこの自身は頼もしい。
「でも、前見た大きさだったら一人運ぶのがやっとじゃないのか?」
僕はライとスイが龍化した時の大きさを思い出して聞く。
「サイズは自分の普通のサイズから5倍ぐらいまでなら決めれるんですよ。私なら最大10倍の大きさになれます。まぁ、そのぶん体力の消費量も普通の龍化とは比べ物にならないほど激しいんですけどね」
エトが説明してくれる。
「そういうことだ、早く準備をするがいいぞ」
スイが僕の背中を叩きながらいう。完全には消えないけれど、張り詰めた空気が少し和らいだ気がした。
僕たちはすぐに準備に取り掛かる。破壊された馬車の積荷で使えそうなものだったりとか、街にあった食べ物などを手分けして集めた。龍化した後には肉を食べた方が回復するらしいので肉を主に集めて氷で固めた。
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