第72話運命を呪う



 私は呪いに命を蝕まれながらもフェルトとルトバーの戦いを見ていた。


 フェルトはルトバーに炎を放ち続ける。だが、ルトバーは顔色一つ変えずに炎を打ち消す。

 フェルトの攻撃が一瞬止まったかと思ったら、フェルトの姿が豹変していた。白かった髪は真っ黒になり、目の色は光を通さない黒になり、一番印象的なのは悪魔のような黒い右腕に漆黒のマントだ。

 フェルトは一瞬でルトバーの左腕をなんらかの方法で消した。だが、フェルトもルトバーの異能力で悪魔のような右腕を吹き飛ばされてしまう。でも私には、ルトバーの攻撃が当たる直前に悪魔のような黒い右腕からフェルトの体の違う部分に黒色の塊が移動するのを見た。

 フェルトは腕が吹き飛ばされたのにもかかわらず左手でルトバーを殴ろうとする。ルトバーはそれを避け、私を見る。

 ルトバーは私に向かって光の矢を数本放つが、フェルトはそれを異能力も使わずに私をかばい光の矢を受ける。


『なんで、なんでフェルトは私のためにそこまでしてくれるの? 私はフェルトにまだ何もできてないのに。フェルトが死ぬのは嫌だよ』


 私は呪いに耐えながらも足に力を入れる。全身に痛みが走る。だけど、そんなのは関係ない。


『ドゴォォン』


 大きな音が近くでして私は音がした方を見る。フェルトが壁に激突していた。ルトバーはそれに追い打ちをかけるかのようにフェルトのお腹めがけて拳を放つ。


『ドスッ』


 フェルトのお腹に穴が開く。だが、フェルトは左手でルトバーの右腕を掴む。ルトバーの腕からミシミシと音が出る。どうやらフェルトはルトバーの腕を折るつもりのようだ。


「フェ・・・・・も・・・い・・・から」


 私はフェルトに『もういいから』と伝えようとするが、呪いによってどうやら喉まで炒められていたようだ。そのせいでうまく喋ることができない。呪いによって私の喉に激痛が走る。どうやら、体に力を入れたりすると、呪いの激痛にさらに痛みが走るようだ。


「お前に痛覚はねえのかよ」


 ルトバーはフェルトの脇腹を蹴る。フェルトの口から血ヘドが出る。でも、フェルトはルトバーの腕を離さなかった。


「わかったよ、お前の覚悟はわかった。お前が死ねばその娘だけは助けてやる」


 ルトバーはがそう言うと、フェルトはルトバーの腕を離す。


「じゃあ、これで終わりにしてやる。殺生異記憶キルメモリー絶対呪殺槍デスランス


 フェルトの胸の前に刃を立てた紫色の槍が生成される。フェルトはなんの抵抗もしない。


『なんで抵抗しないの? なんで? なんで私なんかのためにフェルトが死ぬの?』


 私の頭は疑問でいっぱいだった。だけど私の頭にフェルトが私に言ってくれたことが流れた。


「アクアは何があっても僕が守る」


 私は呪いの痛みで出た涙とは別の涙が出る。


『今度は私が、フェルトを守る!』


 私は全身に力を入れる。呪いで体全身に激痛が走る。だが、それでも私はフェルトを守るたまに動く。


「じゃあな」


 槍の刃が光を反射し、不気味な光を放つ。直後、槍はフェルトの胸に向かってまっすぐ動く。

 私はフェルトの体を押し出す、

 槍が私の心臓を貫く。





「一体何が起こった!?」


 僕はフェルトとルトバーとの戦いをフェルトの視聴を共有して戦いを見ていたはずが、僕以外の何かがフェルトに喋りかけた。そしてフェルトは何かの問いに答えた。直後、フェルトの右腕が悪魔のような黒い腕になり、髪の色も真っ黒になる。そして今までなかったはずの黒いマントがフェルトを覆った。ところで視聴共有が強制的に遮断された。


「くそ、こんな運命は初めてだぞ。このままだと、アクアちゃんのこの先の運命を変えられはしないじゃないか。また、僕は失敗するのか。これじゃあ、なんのためにここの管理人を代わってもらったのか・・・」


 僕は図書館の本を大急ぎで漁る。本に謝りながらも、本の題名を読んでは地面に放り投げ、それを繰り返す。


「くそ、この状況を打破できるような異能力がない。せめて、彼女の運命だけは変えたいのに」


 僕が本を漁っていると、後ろから僕にとって大きな存在の声が聞こえる。


「こっちの方は任せて。だから、そっちは任せたよ」


 声はそれから聞こえなくなった。


「そっか、やっぱり僕は一人では何もできないんだ。・・・頼んだよ、エミ」


 僕は声の主の名前を呼ぶ。僕にとって大切な人の名前であり、アクアちゃんの前世の名前でもある名前を。


「こっちは任せろ!」


 僕はこの世界でも使える本を手にとって準備を始める。





 僕の脳は今目の前で起きていることを理解できなかった。

 何かが『力が欲しいか?』と聞いてきたから、それに答えた。そして僕は何かに取り憑かれ、ルトバーと戦って、ルトバーが『お前が死ねばあの娘だけは助けてやる』と言ったから、僕は戦うことをやめたはずなのに。僕の目の前では紫色の槍がアクアの胸を貫いていた。


「アクア!」


 僕はアクアの元へ行こうとする。だが、僕が体を動かそうとすると体全体に激痛が走る。僕はこの時、自分のお腹に風穴が空いていることに気づく。


回復キュア


 僕はすぐにお腹にキュアを使う。だが、完全には治らなかった。動かすたびに激痛が走る。だけど、僕はそんな痛みよりアクアの方が心配だった。


「アクア!」


 僕はアクアの元へ行き、アクアの名前を呼ぶ。


「フェル・と・・かった・・・無事で」


 アクアは明らかに人の心配ができない致命傷を負ってるのにもかかわらず僕の状態を見て笑顔で安心したようにする。


「待ってろ、今治療してやるから」


 僕がアクアの傷の上に手をかざそうとすると、アクアは僕の手を小刻みに震える手で握る。


「フェルト、私は呪いのせいでもう残りの時間も少ないから。最後に私の気持ちを聞いてくれる?」


 アクアは呪いで全身に激痛が走っているはずなのに、落ち着いた、それでいて悲しそうな声で。


「本当は死にたくないよぉ。これからも生きてフェルトと一緒にいたい、結婚できる歳になったら結婚して、いつか子供もできて、子供の成長を見守ったり、それを見て自分たちはもう歳なんだなぁって笑いあったり。フェルトと普通の暮らしがしたかったなぁ」


 僕の目から大量の大粒の涙が出る。


「フェルト、もう一回だけ誓って。生まれ変わっても私を見つけてくれるって」


 アクアはそう言って僕に僕があげた婚約指輪をはめた左手を自分のお腹の上に置く。


「うん、絶対に見つける。アクアがたとえ何に生まれ変わっていても」


 僕はアクアの左手の上に左手を重ねる。


「約束だからね」


 僕の左手に右手につけていたはずの指輪が現れる。


「ああ、約束だ」


 僕の左手の薬指に通されている指輪とアクアの左手の薬指に通されている指輪が淡い色を出して光、二つの指輪は二つの空色の短剣になった。


「こんな不思議なことも起きるんだね」


 アクアは踊り手はいるが僕と同じような気持ちなのかアクアはその短剣の一本を手に取る。僕ももう片方の短剣をとる。不思議と、不気味な感じはなく、ただ、安心した。


「じゃあ、私はもう行くね」


 アクアがそう言って笑顔で笑う。僕はアクアの唇に。


「・・・え・・・・こんなとこでするものじゃないと思うんだけどな」


 僕はアクアにキスをした。


「へへ、最後にいい思いできたなぁ」


 アクアは静かに息を引き取った。


「うぐ・・・うわぁ・・・うぅぅう」


 僕はアクアを抱えたまま泣いた。とにかく泣いた。


 僕は少しして泣くのをやめた。


「もいいのか?」

「待っててくれたの?」

「俺もお前の母親が死んだ時は悲しくて泣いたからな」

「お前でも泣くんだね」

「まぁ、お前の母親はほぼ全ての人間に殺されたようなものだからな。・・・フェルト、お前やっぱり俺の仲間にならないか?」


 ルトバーの言葉に少し興味がわくが。


「大切なのは今だから無理」


 僕はアクアを左腕だけで抱えてその場に立つ。短剣は腰に差したままだ。


「そうか、じゃあこの場でその娘と同じところに行かせてやるよ」


 ルトバーはそう言って手に雷を集める。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る