第68話呪い



 僕とアクアは今、宿屋の同じ部屋にいる。


「えーと、アクア? ここ部屋にお風呂ついてるみたいだから先にどうぞ」


 僕は気まずそうにアクアに言う。


「えっと、じゃあお先に入らせてもらうね」


 アクアはそう言って風呂場に行く。


「はぁ、いくら付き合うからと言って最初から同室はきついなぁ。一回アクアと同室で寝たことはあるけど、その時はあまり意識していなかったからなぁ」


 僕は一人呟く。


『ザァァァァ』


 シャワーの音が聞こえてくる。僕はその音が聞こえただけで自分の顔が赤くなるのを感じた。


「はぁ、どうしよう」


 僕はベットに横になる。そしてそのまま意識が途絶えて・・・・





「あれ、ここは」


 僕は目を開けると、さっきまでいた宿屋の部屋ではない風景が目に移る。


「やぁ、半年ぶりくらいかな」


 目の前には白髪で黒い目をした男が椅子に座っている。


「ここは、記憶の図書館?」


 僕にはこの場所に見覚えがあった。以前、アクアを助けに言った時に僕が死にかけた時に来たことがある場所だった。


「そうだよ。今日は君をお祝いしたくて、君が眠った時にこちらに意識を強制的に転送したんだ。やっぱり、前世と同じ人に恋をするんだね」


 男は最後に意味がわからないことを言う。僕は首をかしげる。


「ああ、正確には君の前世で婚約者だった人の生まれ変わりが彼女、アクアさ。前世でも君たちと同じような約束をしていたんだよ」


 男はそう言って、懐かしそうに微笑む。


「婚約者ってことは、あんたは結婚しなかったってことか?」


 僕は男に聞く。


「そうだね。正確には、結婚したかったと言うより、結婚できなかったんだ。呪いのせいで彼女は死んでしまったからね」


 男は寂しそうに言う。


「嫌なことを思い出させたな、ごめん」


 僕は男に素直に謝る。男はそれを見て口を開く。


「別に謝ることじゃない。彼女はそう言う運命だったんだ。それに、彼女の魂は何度生まれ変わっても呪いで死ぬようになっているからね」


 僕は男の言っていることが信じられなかった。


「それは、どう言う意味なんだ?」


 僕は薄々感づいていたが、現実から目をそらすように男に聞く。


「言葉通りだよ。彼女の運命はこれから先、何回生まれ変わっても、違う人から呪いを受けて、大事な人ができた後、すぐに死ぬ」


 僕は途中で何かを言いかけるがうまく言葉が発せられない。


「アクアちゃんも、じきに誰かの呪いによって死ぬ。回避するための異能力はこの図書館にはない。異能力同士を組み合わせても無理だった」


 僕の胸が締め付けられる。


「じゃあ、僕がアクアと別れたら、アクアは死なずにすむのか?」


 僕は男に恐る恐る聞くが、男は何も言わずただ首を横に振った。


「そもそも、アクアちゃんが君のことを好きになってからだいぶ時間が経っているからね。しかも、君が理由を説明して別れても、彼女は君のことがずっと忘れられないままになると思うし、言わずに告白したばかりなのに別れても結果は同じだと思うよ」


 僕は完全に黙り込んでしまう。


「だけど、一つだけ方法がある」


 男はそう言うが、顔はけわしくなっている。


「呪いをかけた張本人を殺し、彼女の運命を強引に変える。これが唯一の方法」

「要は、かけた張本人を殺せばいいと言うことだよね?」

「それだけではダメだ、君がある異能力で彼女の運命を変えなければいけないんだ」


 男はそう言って一冊の本を手に取る。


「この本に僕が世界を探し回って見つけ出した、運命を強制的に変える異能力が乗っている。ただし、チャンスは一度しかない。だから、考えて使うんだよ。使い方は目が覚めたら頭に入っているはずだから」


 男はそう言って一冊の本を僕に手渡す。


「異能力には使うための条件があるんじゃなかったのか?」

「それはもうすでにクリアしてるよ。君がアクアちゃんのことが好きだと自覚することが条件だったからね、後もう一個」


 男は分厚い銀色の本を手渡してくる。


「それは、仲のいい人に最大1つまで異能力を与えることができる異能力だ。条件は仲間がたくさん増えて、なおかつ信頼関係がある。だ。もうクリアしてるからこれも一緒に現実に持って変えるといいよ」


 男はそう言ってにっこりと笑う。


「どんな異能力が与えられるかは、その異能力を使った時間、場所、その人の人生で変わってくるから、選べないけどね」


 男は苦笑しながら言う。


「ありがとう。あんたの名前はなんて言うんだ?」


 僕は男に名前を聞く。


「ああ、そういえば言ってなかったね。僕の名前はフェイテだ。まぁ、君の前世の名前なんだけどね」


 男はそう言って右手を差し出し。『よろしく』と言う。


「こちらこそ、よろしく」


 僕は男の手を握る。


「あ、そろそろ、時間みたいだね。君の婚約者がお風呂から出てきたみたいだよ」


 男は意地悪そうに笑いながら言う。


「最後に、彼女は君にはまだ呪いのことを伝えてないはずだから、戻っても呪いのことには触れないこと。わかった?」


 男は真剣な顔で言う。


「ああ、わかった」

「ならばいい。後、アクアちゃんに呪いをかけた張本人は、じきに出会う。僕たち魂の運命はそうだって決まってるからね」


 男がそう言うと、だんだんアクアの声が聞こえてきて、だんだん、男の姿が見えなくなる。


「ありがとう!」


 僕は男にそう言い残して、完全に現実に戻る。



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