第52話リン1
《リンの能力》
『キンッ、キンッ』
金属と金属がぶつかり合う音が聞こえる。
「リン!」
僕は今、死んだはずの僕の妹リンと戦っていた。
「・・・・・・」
リンは何も言わない。リンの目には感情がこもっていなかった。
「リン! 僕がわからないの?!」
僕はリンの巨大な鎌の攻撃を受け流しながらリンに喋りかける。
「フェルト、かわって」
僕は肩を掴まれ後ろに引っ張られる。そして、アクアがリンの目の前に立つ。
「フェルト、今はピンチなの、フェルトだってバカじゃないからわかるでしょ! もっとよく周りを見て!」
僕は言われた通りに周りを見る。
ムイは白虎の力を身にまとい死体たちを真っ白な爪で切り裂いている。だが、死体たちは斬られているのにもかかわらずムイを殺すべく地面を這いずりながらもムイの近くに行こうとする死体もいる。
エルはスズに作ってもらった武器で死体たちを斬っているが、こちらも同じく斬ってもしたいは動いていた。
ジル、ハイド、スズも死体を斬ったり、能力で応戦しているが死体たちは一向に止まる気配すらも見せない。
そして僕はあることに気づいた。
少し時間が経つと死体の動いてない方の部位が元の死体に戻っていき完全に死体と一体化して元に戻っていることに。
「わかった?! フェルトが妹と戦えないなら私が代わりにやるからフェルトは違うしたいと戦って」
アクアは僕に強く言い放ち、氷で作ったであろう剣をスズに向けて構える。
「ありがとう」
僕はアクアにそう言って群がる死体たちに剣先を向ける。
「ハァァァァ!」
僕は死体を刀で斬る。そして斬ったところから死体は氷、弾けてバラバラになる。
「・・・・・ん、再生しない?」
僕はバラバラになった死体を見る。その死体には小さい紫色の結晶が埋め込まれていた、そしてその結晶は僕が斬った時に壊れたらしい。
「もしかして」
僕はエルが斬ってもなお動いている死体についている結晶を壊して見る。
『ピクッ』
死体は動かなくなった。
「やっぱり」
僕は確信を持て言えることが一つできた。
「エルたち! 死体に小さな紫色の結晶が埋め込まれてる、それ壊せば動きは止まる」
僕はエルたちに向けてそう叫ぶ。
「「了解!」」
みんなから返事が返ってくる。
『パキッ』
僕は死体たちについている結晶を壊していく。
気づいたら、さっきまで大量にいた死体たちはリンを合わせた10体程度になっていた。
「
リンはそう言う。瞬間、リンとアクアの体が一瞬でその場から消えた。
「・・・・え」
この場にいる誰もが唖然とした。
《リンの魂》
私の視界は真っ白になり、目を瞑ってしまう。
そして、目を開けた時は辺りは見たことがない街の中にいた。
「ここは、私とフェルトお兄ちゃんの大事な記憶」
私は声がした方を振り返る。
「安心して、今の私は魂だけだから操れない。それに、この世界では私の命令はぜったい」
そこにはさっきの少女と同じ顔立ち、同じ体格、フェルトと同じ白い髪の少女が立っていた。
「あなたとお話がしたい。そのために能力を使った、殺すつもりも攻撃するつもりも私にはない。ただあなたと話がしたい」
少女、リンはそう言って街の道の端に置いてある椅子に腰掛ける。リンの言った通り、リンからはさっき私と戦っていた時のような空気も殺気も感じられない。
「どうしたの? 座らないの?」
リンは私がまだ座ってないことに気づいたのか、そう聞いてくる。
「お言葉に甘えて」
私は素直に椅子に座ることにした。
「じゃあ、まずは私の自己紹介からするね」
リンはそう言って続ける。
「私の名前はリン、フェルトお兄ちゃんとは本当の兄妹で5歳の時に病気で死んでからずっとある人の能力で魂をこの体に閉じ込められた幽霊のなりそこない」
リンは悲しそうな笑みを作って言う。
「アクアさんだっけ? 今から私が言うことをできれば信じてほしい。あまり時間がないから一回しか言えないけど」
リンはそう言って私の両手を包むように両手で握ってくる。
「フェルトお兄ちゃんの能力はいつか必ず暴走する。だからその時はアクアさん、あなたが止めて。私はこの世界以外ではただの操り人形だから」
リンはそう強く言うが、その手は震えていた。リンの震え花に対しての震えか少しは理解できた。
「止めるって、具体的に何すればいいの?」
私はフェルトがもし暴走した時の対処方法を聞く。
「それは、わからない。だから、アクアさんが考えて行動してほしい」
『丸投げか』と私は思いながらも。
「わかった、ありがとう」
「なんでお礼を言うの?」
「私もフェルトを助けたいからね。だから、フェルトが危険になった時の対策は立てるだけ立てて置いた方がいいから」
私は笑ってリンに話す。私がフェルトに抱いてる気持ちと一緒に。
「やっぱり、あなたに頼んで正解でした」
私の話を聞き終えてからリンはそう言う。
『ピシッ』
どこからかそんな音が聞こえる。
「どうやらそろそろ時間のようですね。元の世界に戻ったら私の体を壊してください」
「でも、そんなことをしたらリンは死んじゃうんじゃ」
「何を言ってるんですか? 私はもう死んでいますよ」
リンは笑う。だが、その笑いは必死に悲しさを隠しているようにも見えた。
「出来るものなら私も、お兄ちゃんが仲間と認めた人たちと一緒に居たかったのですが、まぁ死んだ人間は早く戻るのがいいと思いますからね」
リンはそう言う。だが、本人は気づいているのか、気づいていないのかはわからないが目からは涙が出ていた。
「せめて、これだけは伝えてください。私はフェルトお兄ちゃんのことが大好きだったと言うことを」
リンはそう言って大粒の涙を流しながら笑った。それが私のリンちゃんが作った世界での最後の記憶になった。
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