第9話 1回戦の見所

1回戦第2試合。


ターナー vs イズミルコ


イズミルコは見るからに虚弱そうな風貌でターナーとしてはできるだけ傷つけないように倒すことが課題となっていた。


もちろん見かけによらずということも想定しておかなければならない。油断大敵。ターナーは再度自分の身構えに緩みがないよう引き締め直した。そしてモローカの試合開始の合図が聞こえる。


「はじめっ!」


まずは小手調べ。イズミルコにも届くようにターナーはオーラを放ち魔力を解放する。


「うわぁぁ!」


イズミルコが声を上げる。するとそのまま場外へ飛ばされた。いや、〈飛ばされた〉というより〈逃げ出た〉。


「勝者、ターナー!」


拍子抜けもいいところであった。油断大敵を肝に銘じていた自分がバカらしく思えてしまうほどの惨事である。


ギャラリーも先ほどの試合と嫌でも比べた見方になってしまうため、拍手に戸惑いが混じっている。


まぁ落ち着いて考えれば高等学校に入学したてでまだろくに実践魔法も学べていない段階であるため、普通といえば普通であるのかもしれない。


それでもターナーは力を発揮することもなく微妙な勝利をあげてしまったことへの消化不良感で胃が痛くなりそうだった。


「タ、ターナーくん、お、おめでとう。」


ターブヒヒの言葉に〈やかましい〉としか感じなかったが、考えてみれば次の対戦相手はターブヒヒ。借りを返してやろうと心に決める。果たして〈何の借りであるのか?〉また〈その借りを返す相手がターブヒヒであって間違いないのか?〉などターナーにとってはもはやどうでも良かった。


ともあれ模擬バトルはどんどん進んで行く。するとわかったことがある。それは第1試合が見どころがありすぎていたということだった。


やはりバトルの経験などからっきし無い生徒がほとんどであるためイズミルコのような生徒が後をたたなかったのである。


続く試合でも凡戦や泥試合が続いていく。見ている方も飽きてくる中、ようやく唯一特筆して目を見張ることがあった。


第7試合でのことである。


マエジャス vs クワバル


マエジャスといえば朝の登校時にターブヒヒに突っかかって下品に大笑いしていたやつである。実践魔法など扱えるのかとターナーは疑問に思っていた。


試合開始直後、対戦相手のクワバルが仕掛ける。見飽きた芸のない魔力の塊がマエジャスの元へ飛んで行った。


「マジだりぃー。」


マエジャスはそう呟くと軽いデコピンで魔力体を跳ね返す。すると跳ね返った魔力体は強風となってクワバルを丸枠の外へと押し出した。


一瞬の出来事である。


「・・・。」


「し、勝者、マエジャス!」


判定をするモローカも驚きの表情を浮かべていた。この時点ではさきほどのそれが魔術なのか妖術なのかはたまたオリジナル能力なのかターナーには検討もつかなかった。がマエジャスの有している魔法が同世代の中で頭一つ抜け出ていたことだけは鮮明に検討がついた。


目が覚めたように身体中の神経が研ぎ澄まされたのはターナーだけではない。続く第8試合も凡戦とはいえ凡戦なりに必死さが伝わってくる試合となった。


マエジャスによって空気が締まり真剣さの増した模擬バトルも1回戦の全8試合も終了し、2回戦へと進んで行く。


ベスト8の面々は当然1回戦を勝ち抜いた生徒である。ターナーや生徒たちはここから先のレベルアップしたバトルに胸が膨らむのであった。

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