第6話 クリソンやマエジャス

「ペガサス!」


ターナーの愛箒ペガサスが意思を持ったように動き出し、主人の元へとやってくる。


「よし!行くか!」


衝撃の入学式を終え、いつもよりも長い特訓を経て、初授業のクリ高へ向かうターナー。目の前に凛と立つ塔のような校舎が見えた時、なんだかターブヒヒと開けた扉をかなり前のことのように懐かしく感じていた。そんなことをターナーが思いながら扉へ辿り着いた時、目の前で昨日の自分を見てるかのように重い扉を手でこじ開けようとしている生徒に遭遇する。


「あのー君!その扉は魔力を当てないと開かないよ!」


「あ!そうなの!?昨日は人の流れについていったから知らなかったよー。」


ターナーは昨日同じ教室内にいた生徒だと気付いた。


「君は2組だよね?俺も2組だよー。」


「そうそう2組!やっぱりか!よろしくね!俺はクリソン!名前なんていうの?」


「えーと、ターナーって名前!」


【クリソン・ソーサワー 15歳・男】


クリソンは優しそうなやつだった。細いタレ目の小柄で、ターナーは同い年とは思えないくらい落ち着いた雰囲気に〈やっと普通の友達ができた〉と安堵していた。


クリソンと共に雑談しながら教室へ向かっている最中、大きな笑い声が聞こえてくる。


「ブッハッハッハ!お前おもしれェな!」


「ヒ、ヒィー、そ、そんなことないです!」


女番長のような風格が漂う負けん気の強そうな生徒の指差した先にはターブヒヒがいた。


「あ!ターナーくん!助けてぇー」


「助けてって私は別に何もしてねェだろ?」


ターナーは関わりたくなかった。だが名前も出された手前そうも行かず、軽めに干渉することにした。


「あのーどうかしたんですか?」


「別にコイツの動きが面白くて笑ってただけだわこら。」


【マエジャス・ギャルーキン 15歳・女】


マエジャスは口が悪いやつだった。ただキレてるわけでもなく、むしろ面白がってのことだということは状況だけで充分判断出来ていた。


「じゃあな!お前らも2組だろ!私もだからあとで覚えてろよ?」


そう言いながらも口角は少し緩んでいた。多分良いやつなんだろうとターナーは思っていた。しかしターブヒヒが酷く怖がっている。


「ボ、ボク怖くて教室いけないよ、、マエジャスさんにこ、殺されるっ!」


「別に何もしてないなら平気でしょー」


ターナーがそう言うと横でクリソンも同調して頷いてみせた。


ガラガラガラ


ターナーたちが教室に入るとシーンとした空気の中に前の方の席に座る女子3人だけが小声でトークをしている。やはり他のクラスに比べて2組だけが異様に静かであった。


自然とクリソンとしていた雑談の声もパッと止み、静けさに飲まれたまま着席する。


ガラガラガラ


担任のモローカがやってくる。


「おはようございます。えー、今日ですが予定していた魔法学の試験は中止となります。代わりに実践防衛魔法の授業をその分の時間に当てることになりました。」


生徒たちに困惑の雰囲気が漂う。人によっては魔法学力測定試験へ準備もしていただろうし、拍子抜けといったところであろう。さしづめターナーにとっては願ってもみない朗報であった。


「これは学校長の意向で、昨今の社会情勢を鑑みて一刻も早く実践魔法の基礎を築いてもらうのが先決だという判断によるものです。」


おそらく新魔法団体の活動が活発化しているからだろうとターナーは思った。どこかで小さく新魔法団体万歳と思った。だがすぐに今の万歳無し!と思った。

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