第5話 師匠マローノ

ターナーが向かった先は小さな小川の流れる緑道の行き止まりのその先にある森であった。そこはターナーにとって秘密の場所。また地図を見せても中々見つけられないような場所。森の奥のそのスペースには心地よく光が差し込み、丁度いいテーブルくらいの高さに切られたヒマラヤスギの切り株が象徴的に構えている。


「師匠ー!いますかー?」


ターナーが呼びかけると颯爽と1匹のウサギが現れる。


「来たかい?ターナー。」


ブラウンと白のグラデーションが美しい喋るウサギこそターナーのいう〈師匠〉であった。


【マローノ 年齢不詳・男・ウサギの魔獣】


「どうだった?入学式は?」


「そりゃあすごかったよ!特に校長の魔法なんかヤバくてさ!」


「モロヘイレオか。やつはかなり腕が立つからなー。」


「あと属性もわかったよ!」


「水属性かい?」


「なんでわかるの?」


「そうだなー、年季が違うのさ」


マローノはターナーが10歳の頃に出会った魔獣であり、ターナーの実践魔法を特訓している師匠。元来、魔獣は魔法使いと敵対する間柄ではあるがマローノもターナーと同じくそういった相関図や概念に左右されずに打ち解け合ったのである。


「水属性魔法ってどういう感じかな?教えてよ!」


「いや、ターナーにはちっと早いかもなぁ。今日も魔法剣の特訓をしよう!」


「えー、なんで?」


ターナーは気になったことがあると相手が師匠であれ自分が納得する理由が聞けないと身を入れて行動できない性分であった。


「早いと言うよりは、向いてない!」


「ええーー。」


マローノも教えるとなればかなりハッキリとモノを言う性分であった。だからこそ2人は打ち解けあえたのかもしれない。


「妖術の類はね。かなり上級になってこないと術の緻密なコントロールが難しいのさ。だから魔法剣で扱いやすい魔術の緻密なコントロールを先に楽しんだ方がイイんじゃないかい?仮に水属性魔法を今始めたら緻密なコントロールを楽しめないからつまらないと思うぞ?」


「なるほどー。遊び好きの性格上向いてないってことか!確かに大雑把な力だけの技とかは嫌いだからそうしよっかなー。」


マローノの教えはいつでも〈提案〉である。教えを強要することは絶対にしない。対してターナーの教わるスタンスも〈実験〉である。つまり提案を受けて実験する。それを取り入れるか取り入れないかは実験後に考えるというものだった。実践魔法という名の通り実践あるのみな特訓である。


「ターナー、実践魔法はいいけど魔法学は大丈夫なのかい?」


「大丈夫大丈夫!そんなの適当にやっとけば平均よりは上になるから!」


他愛もない会話をしながらペガサスの毛束に隠されている魔法剣を取り出し特訓を始める。因みに、魔法剣とは滅多に扱う者のいないスキルにあたる。というのも魔法使いにとって近接での魔法バトルは不利であるし、なによりそもそもこの国ではバトル自体があまり起きない。


わざわざ魔法剣を特訓するのは極々一握りのバトルマニアか、精鋭隊志望の高等学校卒業生くらいであろう。


「だけど師匠!明日もさっそくあるけど学校での模擬バトルは杖以外の魔法具の使用が禁止なんだよなー。」


「好都合じゃない?能ある鷹は爪を隠すって言うし」


「よくウサギがそんな言葉知ってるなぁ。」


「言ったなこら!はい、魔力維持30秒追加ー。」


「うおぉー!死ぬぅぅぅー。」


この翌日、クリ高新入生恒例の魔法学力測定試験と模擬バトル試験が開幕するのであった。

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