第2話 その名はターブヒヒ
クリ高の入学式には特殊な習わしが2つある。まず1つ目は式の始まる前に生徒証にも使われる写真を魔力属性の判定できる特殊なカメラで撮影することである。魔力属性とは水・金・地・火・木・土・天・海の8種類からなる魔力の質のことで、親からの遺伝などとは関係なく生まれつき決まっている。2つ目は魔力属性が出来るだけ均等になるよう式典の最中にクラス分けがなされる。
魔力属性は国の法律によるところで魔法義務教育を修了するまで調べてはならない。そのため生徒たちも入学式のその日に自分の属性を知り得ることとなるのだった。
ターナーにとってもクリ高のこの習わしは楽しみでしかない。さっそく浮き足立つターナーは新入生玄関の〈人が一気に10人くらい横並びで入れるんじゃないかと思うくらい大きく大層な扉〉に手をかける。ところがどれだけ力一杯に扉を押しても、引っ張っても、スライドさせてもピクリとも動かなかった。どうしようものかと考えていたところに話しかけてくるやつがいた。
「ま、魔力を当ててみたら、い、良いんじゃない、?」
ターナーは言われた通りに魔力を当ててみる。するとギィィィと扉が音を立てて開く。
「ありがとう!名前はなんていうの?」
「ボ、ボクの名前はターブヒヒ。ヒヒ、ヒヒヒヒ。」
この時〈強烈〉という2文字が頭の中で踊ったターナーはあまり深く関わりすぎないようにしようと心に決めた。
【ターブヒヒ・アチューイネン 15歳・男】
ターブヒヒは挙動不審なやつだった。特に会話もなく歩き去るターナーをちょうど1m後ろからついていく。ターナーが振り返るとターブヒヒがそっぽを向いて横に揺れる。そんなことを2.3度繰り返しているとターナーも我慢出来なかった。
「なんでついてくるの?」
「と、友達になりたいなぁって、」
ターブヒヒは控えめに言って汗がエグかった。〈ここ砂漠かな?〉ってくらいの発汗量はターナーの冷や汗を促す。ターナーも社交辞令は得意であった。
「こ、こちらこそよろしくね。」
ターナーは思い返した。今年のクリ高の入試倍率は他の魔法学校に比べて著しく低かったなぁと。こんなやつも入れちゃうんだなぁと。ただ面白いものを見るとたまらなく楽しくなってしまうターナーは、むしろポジティブに捉えることが容易であった。
ターナーは後ろをついてくるターブヒヒと共に新入生に指定されていた教室〈講義室〉へと向かった。異様に高い天井と外の光がこれでもかと入ってくる吹き抜けの廊下は、これから始まる青春の学校生活を予感させる雰囲気に満ちていた。〈後ろを振り返らなければ〉の話である。
講義室に入るとそこには既に100名以上の新入生と見られる人たちがシャンとした背筋で着席していた。どうやらターナーたちで最後だったらしい。
すると真ん中の教卓の前にちょこんと座る女の子が喋り出す。
「はーい。全員揃ったのでガイダンス始めまーす。」
100人以上を目の前に随分と緩んだ声で話し始めた女の子は簡単に自己紹介をする。
「まず私はあなたたち新入生を担当する学年主任のピーチでーす。慣れてきたらお姫って呼んでくださいねー」
教室が一斉にざわついた。基本的に身の回りには知り合いがいない中でざわつくというのがどれだけの衝撃の大きさを物語っているだろうか。見た目だけで言えば12歳とかそこらであろう。さすがは魔法学校であった。
【ピーチ・フルーティア 年齢不詳・女・1学年主任】
「はーい。静かにぃー。じゃあ2人1組で撮影室に移動してもらいまーす。」
驚きの冷めやらぬ中、生徒たちは順番に写真撮影に向かう。因みに2人1組は五十音順で予め決まっていて、ターナーのペアは奇遇にもターブヒヒとなるのであった。
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