第18話

「もし、よかったらでいいんだけど…。嫌じゃなければだけど…。俺でよければ…相談に乗るよ。」


俺のそんな言葉を自然と口にしていた。踏み込まないそう決めたはずだったのに。


「…中学2年の時でした。」


自分の口から出た想定外の言葉に後悔する間もなく、タジマはポツリとつぶやく。


「お母さんが亡くなったのは、」

「亡くなった…?」

「はい。…事故でした。車に引かれて。」


母親が亡くなった?事故?思考がついていけない。俺はどう返したらいいんだよ。


「それからです。お父さんが働けなくなったのは。」

「お父さんも事故に?」


思わず出た俺の間抜けな問いかけにタジマは静かに首を振った。


「お父さんはダメな人でした。お母さんにいつも怒られてばかりで、いつも笑いながら謝っていました。そんな人だったから…そんな人だったからこそ。お母さんが死んで一番悲しんでいるのもお父さんでした。」

「…。」


何も言えない。俺は何を言えばいいんだ。混乱する頭では、物事を冷静に考えられない。なんだよ。思っていたよりも重い話なんだな。


「お父さんは、初めはお母さんがいなくても、いつも通り振る舞おうとしていました。けれど。」

「…。」


タジマの独白は止らない。俺の焦りも止まらない。


「ダメだったんです。お父さんは。無理していて。それを誤魔化していたんですけど、ダメだったんです。それで、立てなくなって…働けなくなって。」


待ってくれ。少し考える時間をくれ。少しだけでいいから。


「私も励まそうとしました。でもそれが逆効果でした。私はずっとお父さんを追い詰めていました。」

「そんなことない。…そんなこと。キミは追い詰めてなんて…。」

「違います。私は追い詰めていたんです。お母さんがなくなって縋るものがお父さんしかいなかったから、だから私のことを支えてほしいと…守ってほしいと。」


反論しないと、タジマの悩みを解決するんだろ。でも、何を言えばいいんだ?

俺には何もからない。


「幸い高校進学前のことでした。お父さんが働けなくなったのは。それから私はバイトをしました。働けなくなったお父さんの代わりに。」

「代わりに?お父さんは…その。」


俺が聞きたいことが分かるのだろう。タジマを言いにくそうに顔背けた後、静かにつぶやく。


「お酒を飲んでいます。ずっと…。」

「暴力とかは…。」

「そんなことはしないんです。お酒を飲むとお父さんはいつも泣いています。お母さんが死んだことをずっと悲しんでいて、そんな自分を恥じていて、私に謝るんです。何回も何回も…それがたまらなくつらいんです。」


タジマは力なくうつむく。


「お父さんのこと…嫌いなの?」


俺はそんなくだらない質問しか思い浮かばない。これしか、俺にできなかった。


「いっそのことそうなら良かったんです。それなら、何も思わずに切り捨てられたのに…何の未練もなく。」


何も言えないよ。もう勘弁してくれ。


「スドウさん。いえ、メドウさん。こんなことは言えないことは分かっています。分かっているのですけど。」


助けてくれ、俺にはそんな覚悟はなかったんだよ。お前の悩みがこんなに思いだなんて。


「こんな私と付き合ってくれますか?…救ってくれますか?」


俺はこの問いに…。

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