第23話 青い人<ファンタジー>
ある日、待ち合わせに現れた颯太が思い切り怪しかった。キャップを目深にかぶり、サングラスとマスクをして手袋もしていた。ほんの少し見えている顔が青かった。
「何塗ってるの。青いね~。今度はなんの役なの?」
颯太は駆け出しの演劇人。弱小劇団に所属しているので、時々役柄かおかしな格好をして来ることがある。
「ちょっと来てくれ。こんなところじゃ話せないから」
そう言って歩き出したのでついていく。繁華街の裏に回るとラブホがあった。
「ここ、入るぞ」
「え。ここ? やだ、なんで?」
「何にもしねえから。人のいるところじゃ見せられないんだよ」
何が見せられないんだか、と思ったが、どんどん入っていく颯太について行った。
私と颯太は友達以上恋人未満という関係。ラブホなど入ったことはない。
部屋に入ると颯太はいきなり泣き出した。
「どうしたのよ、いきなりこんなとこ入って。何泣いてるの」
「俺、俺。どうすればいいか」
「何をどうしたいの。それにその格好、思い切り怪しいよ」
「見てくれよ」
そういうと、手袋をとった。
「なに? その手。真っ青」
帽子を取りサングラスとマスクを取った。
「・・・・・・・・・」
真っ青な顔を見て絶句した。紺碧というか真っ青な空の色。何かを塗ったようには見えない。
「どうして? なぜ? なんで?」
ぐるぐると言葉が回っている、頭の中で。
颯太が言った。
「朝起きたら手が青かった。夕べ酔っ払って何か塗ったのかと思った。お前は来なかったけど、仲間内で今度の芝居の打ち合わせだったからな。その後、何時ものとおり飲み会に移行した。最後の方の記憶がないんだよ。でも、ま、何時ものことだから。
慌てて洗面所に行った。もちろん手を洗うためさ。そこで、俺はさらに打ちのめされた。顔が青い。いや、顔だけじゃない。身体中が青い。洗っても、洗っても、落ちないんだよ。
俺、どうすればいい??? う~~~、ぐすん」
これを見て、何か言える人がいたら聞いてみたい。なんて言えばいいの?
慰める言葉もなく、力付ける言葉もなく、口が勝手に開いたり閉じたりしていた。
結局、何も言えないまま颯太のアパートに行くことになった。だって、このままどこかに遊びに行くなんて気にはなれない。でしょ?
颯太の部屋で、身体を覆っていた長袖シャツとズボンを脱いで、帽子もマスクもとると、どこもかしこも青い皮膚が現れた。
「う~ん、結構綺麗な青だね」
何を言っているんだかと思ったが、言うべき言葉が思いつかない。
「人ごとだと思って呑気なこと言わないでくれよ」
テレビをつけるとニュース速報をやっていた。
「本日早朝、身体中が青くなった人が現れました。体の一部ではありません。全ての皮膚が青いのです。
最初に気がついた方が病院に駆け込み、医師が診察をしたのですが原因は不明です。
その後、続々と青い人が現れ、病院はパニック状態です。
たくさんの人が皮膚科に駆け込んで来ました。今では皮膚科だけでなく。救急外来も、内科も小児科も長い列ができています。
しかし、原因も治療方法も未だわからないと言うことです。
政府からは官房長官の見解発表があり、慌てないで落ち着いて行動をするようにと・・・」
「颯太だけじゃないじゃん。ほら、あの並んでいる人、半分は青い人だよ」
「後の半分はなんで並んでいるんだ?」
「付き添いじゃない? 家族とか」
「そうか。俺も病院に行った方がいいかな?」
「だって、原因不明で治療法もわからないって言ってるよ。行っても何もできないんじゃない?」
「そうだな。いや、でも青くなってるのが俺だけじゃなくてよかったよ」
「そうだね。どのくらいいるんだろう?」
一週間くらいすると騒動も治まって来た。自分以外にも青い人がいるとわかると、落ち着くらしい。それに、病院でも手の施しようがなく、行っても治療できないとわかったことも大きかった。
そして、10日後の朝、私は洗面所で悲鳴をあげた。そこにはオレンジ色の私の顔があった。
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