第22話 ばあちゃんの怖いもの

 史織のばあちゃんはすごく強い。

 暗い夜も平気だし、お化けも怖くないんだって。

 五歳のしおりは怖いものでいっぱいだ。

 家族みんなで川遊びに行った時、にいちゃんが蛇を捕まえた。ばあちゃんにポイって投げたら、さっとつかんでにいちゃんに投げ返した。いきなり蛇が飛んできたのでにいちゃんは大慌て。

「ばあちゃん、投げ返すなよ」

 プリプリ怒ってた。自分が投げたのにね。

 父さんも、母さんも、そして史織もやっぱり蛇は苦手だ。触ることなんて絶対できない。

  ばあちゃんは怖いものがないのかなと思い、史織はある時ばあちゃんに聞いてみた。

「ばあちゃん、怖いもの無いの?」

「そりゃあ、ばあちゃんにだって怖いものはあるよ」

「え、ホント? 何が怖いの? ねえ、教えて」

「それは教えられないよ。怖いからね。言えないんだよ」

「そんなあ。史織は言えるよ。お化けでしょ。蛇でしょ。真っ暗なところでしょ。それからまあくんでしょ」

 まあくんというのは、近所のガキ大将で、いつも史織にちょっかい出して泣かせるのだ。

「そうだねえ。史織はまだ小さいからね。本当に怖いものが、どれくらい怖いか分かってないんだよ」

 そう言って、教えてくれない。

 父さんにも聞いてみた。だって、ばあちゃんは父さんのお母さんなんだから知っているかもしれないから。

「父さん、ばあちゃんの怖いもの知ってる?」

「うん、昔、聞いたことがあったな」

「教えて、教えて」

「ばあちゃんに聞きなさい。ばあちゃんのことなんだから。父さんは、忘れてしまったよ」

「だって、教えてくれないんだもん」

「じゃあ、ばあちゃんが言いたくないんだよ。ばあちゃんが言いたくないことは教えられないな」

「つまんないの」

 結局、父さんも母さんも、誰も教えてくれない。

 史織はどうにかして知りたいと思うのですが、やはりばあちゃんはいわない。

 ところがある日、思いがけない事件が起きて、ばあちゃんの怖いものがわかった。

 その日、ばあちゃんは庭の草むしりをしていた。

 いつもは草むしりは母さんの仕事。でも、この春、母さんは両手が腱鞘炎になって使えなくなってしまった。春になって青い草がたくさん芽を出し、雨に打たれてグングン伸びたのだ。

「仕方がない。今年は私がやるよ」

 ばあちゃんはしっかり支度をして草取りを始めた。日よけ帽子に軍手、長靴を履き、ねじり鎌を持つ。そうそう、草を入れる袋も。

 母さんよりしっかりとした出で立ちだ。史織は、これから草取りするぞ~っという意気込みの塊みたいだと思った。

 しばらくすると、花壇や植え込みの間の雑草を抜いていたばあちゃんが叫び声がした。

「ぎゃ~~~」

 家には史織と母さんがいた。まず、母さんが飛んで行った。史織もびっくりして走った。

 ばあちゃんが青い顔をして尻餅をついている。

「大丈夫ですよ。お母さん。大丈夫ですよ。ほら、遠くに放りましたから」

「ばあちゃん。大丈夫?」

「家に入りましょう」

 母さんはそう言ってばあちゃんを抱え起こし、居間のソファに掛けさせた。そしてお水の入ったコップをを持ってきた。

「ばあちゃん、大丈夫?」

 史織が聞くとばあちゃんは言った。

「史織、心配かけたね。もう大丈夫。母さんが助けてくれたからね。

 史織には話したほうがいいね。ず~っと気にしてくれてたからね。

 ばあちゃんの怖いものはね、ミミズだよ。ばあちゃん、ミミズだけは我慢できないんだよ。何故って? 聞かないでおくれ。ばあちゃんにも何故だかわからないんだから」

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