第19話 里神楽<ホラー系>
元日の朝、絵里は近所の氏神様に初詣に行った。地元の初詣なんて子供の頃以来だ。都心の高校に入ってからは、友人たちと都内の有名神社に行くようになった。
今年は幼馴染の琴ちゃんにに誘われた。年末に中学の同級会があって、久し振りに琴ちゃんに会った。昔話に花が咲き、成り行きで初詣に行くことになった。大学の時から付き合っていた匠と喧嘩別れしたばかりで、予定もなかったし。
早めに行こうということになって、8時に角のコンビニの前で待ち合わせて八幡様へ行くとすでに行列ができていた。
「もう並んでるよ。」
「いや、最近はこんなもんだよ」
「そうなんだ。私、最近来ていないからね」
「どこに行ってたの」
「うん、明治神宮とかさ、神田明神とか、色々」
「そっちの方が混むでしょ?」
「こんなもんじゃないよ。半端ないよ」
「ねえねえ、あれ陸じゃない?」
「あれ? 帰ってきてるのかな? ほら、陸、北海道でしょ?」
「北海道の大学行ってそのまま向こうで就職したんだよね」
「あとで声かけよう」
列はゆるゆると進み一時間かかってやっと本殿の前に来た。お賽銭を入れてお願いをいっぱいしてやっと列から解放された。おみくじを引いたら絵里は「吉」、琴ちゃんは「中吉」。
「今年も可もなく不可も無くかぁ。波乱万丈の人生はなかなか来ないね」
琴ちゃんががっかりしたように言う。ふと見ると陸らしい後ろ姿を神楽を舞っている舞台の方に見つけた。
「琴ちゃん、ほら、陸じゃない?」
「どこどこ? あ、舞台に上がってる」
おめでたそうなお囃子に乗って踊っている、ひょっとこの面をつけた人に手を引かれて舞台に上がっていくところだった。
「行ってみよう」
二人で走っていくと、陸らしい人は面をつけられて一緒に踊っていた。陽気に滑稽に手を振り足を上げて踊っている。他にも5~6人の踊り手がいて、どんどん入り乱れて踊るので、だんだんどれが陸だかわからなくなっていく。
「お嬢ちゃんたち、踊らないかい? めでたい踊りだよ。踊れば今年は良い年になる。さあ、上がっておいで」
ひょっとこの面の人が二人に声をかけた。手にはおかめの面を持っている。
「ねえ、行こうよ。陸が見つかるかもしれないし、面白そう」
琴ちゃんは、すっかりその気になって面をつけ舞台に上がろうとしている。
「待って待って。私も行く」
絵里は慌てて面を受け取ると、ことちゃんに続いて舞台に上がった。初めてなのに、にぎやかなふえ、太鼓のリズムに乗って手足が動く。周りを見回して陸を探したが、みんな面をつけているのでわからない。琴ちゃんがどこにいるかもわからなくなった。
それでも、面白おかしいリズムに乗って、フラフラと踊っていると急に音が止んだ。ハッと気がついて周りを見るとだれもいない。時は夕方になっていて、舞台の上も薄暗い。怖くなって舞台から降り、琴ちゃんを探したが見つからない。神社の境内も、お参りの人もまばらになってきた。
絵里は仕方なく一人で帰ったが、その夜、琴ちゃんのお母さんから電話がかかってきた。
「あの、絵里ちゃん、琴と一緒じゃなかった? まだ帰ってこないのよ。出かける時、絵里ちゃんと初詣に行くって言ってたから」
「はい。一緒だったんですけど、里神楽を見てて離れちゃって。しばらく探したんですが、見つからなかったので、先に帰ったのかなと思っていたんですけど」
「じゃあ、神社で別れたのね。どこに言ったのかしら。さっき、陸くんのうちからも電話があったのよ。やっぱり初詣に行って帰ってこないって」
「あ、里神楽のところで、陸くんを見かけました。すぐに見失ってしまって。琴ちゃんと探したんですけど。もしかしたら琴ちゃんは陸くんと会えたのかしら?」
「そう? だったら安心だけど。どうしようかしら。警察に届けるのは早いかしら。子供じゃないしね。明日の朝まで待って見るわ。絵里ちゃん、ありがとうね」
翌日の朝になっても琴ちゃんと陸は帰ってこなかった。琴ちゃんの家も、陸の家も警察に届けたが、同時に二人、しかも知り合いの男女がいなくなったというので、二人で家出でもしたんじゃないかとあまり真剣にはとらえてもらえなかっらた。絵里も初めて事情聴取というものをされたが、琴ちゃんの母親に言ったことが全てだったので、あまり役には立たなかった。
一つだけ誰にも言えなかったことがある。舞台に上がって踊ったことである。恥ずかしかったのでどうしても言えなかった。しかし、絵里にはこのことが失踪と関係があるとは思えなかった。
その後十年経ったが、二人は見つかっていない。
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