第13話 影<童話系>

 気持ちの良い秋の夕方。僕は学校帰りの道を急いでいた。

 今日はウサギの餌やり当番で、少し遅くなった。塾のある日だから、早く帰ってご飯を食べないと遅刻しちゃう。

 ちょうど夕日が後ろにあるから、長い影が伸びているのが見える。影を追いかけるように早足で歩く。


 突然、影が立ち上がってきた。まるで目の前に塀があって、影が塀に映るように、スルスルと立ち上がった。驚いた僕は尻餅をついてしまった。

「そんなに驚かないでよ。いつも一緒にいるじゃないか」

 驚くなっていう方が無茶だ。影に話しかけられて驚かない方がおかしい。

 しかも、高いところから話しかけられて、その位置関係も嫌だった。尻をパンパンと払って立ち上がると言ってやった。

「なんだって影が話しかけるんだ。急いで帰らなきゃ遅刻しちゃう」

「そう怒るなよ。ず~っと言いたいことがあったんだ」

「なんだよ、言いたいことって」

「いつも足を踏まれて痛いんだよ。踏まないでくれる」

「無理だね。僕は踏みたくて踏んでいるんじゃない。歩けば自然に君が踏まれに来るんだ」

「僕は好きで君にくっついているんじゃない」

「じゃあ、離れて歩けば」

「わかった。そうするよ」

 影はちょっと離れた。足のほんの少し先から伸びている。そのまま歩いていくと、少しづつ離れていく。とうとう、1mくらい離れてしまった。止まると1m先で待っている。


 なんだか変だ。全然、僕の影っていう気がしない。

「おい、そんなに離れたらおかしいじゃないか。もう少し近くにいろよ」

「だって、お前遅いんだもん。もっと早く歩けよ」

「僕は僕の歩きたい速さで歩くんだよ。君が決めることじゃない」

「でも、僕は今自由の身なんだから、僕の好きなように歩くんだ。自由っていいな」

「僕の影なんだから言うことをきけよ」

「嫌だね。二度と君に踏まれないよ。踏まれたら離れられなくなるからね」

 僕はいきなりダッシュして影の足を踏んだ。影は足を踏まれていると僕から離れられないらしい。

「おい、もう一度離れていいか?」

「ダメだ。お前は僕にくっついていなくちゃいけないんだ」

 それからは影の言うことは聞かないことにした。

 今の所、おとなしくしている。

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