第11話 爺ちゃんとムック<動物系>
僕のじいちゃんはいつも犬を飼っていた。
いつもいたから、根っからの犬好きだったんだと思う。一匹の時も三匹のときもあったし、中型犬の時も大型犬の時もあった。小型犬は飼わない。
じいちゃんは血統書にはまったく無関心だった。だから、大抵は日本犬の雑種だったと思う。
名前の付け方も凄~くいい加減だった。
ある時なんかは、一二三さん(ひふみさんと読む)という知り合いから三匹の仔犬をもらってきた。
じいちゃんが付けた名前は、イチ、ニノ、サンタ。
じいちゃんが最後に飼ったのはムックというむく犬。
雑種だが、大型犬に近い身体にむくむくとした毛が生えていて、家族は「チャウチャウが入ってるかもしれないね」と話していた。今から思うと秋田犬だったかもしれない。とにかくむくむくのムックだった。
ムックはじいちゃんがどこへ行く時も一緒だった。山にも、川にも、畑にも、酒屋にも。
じ いちゃんが50ccバイクにまたがるとムックは後ろの荷台に飛び乗る。そうしてどこへでもついて行くのである。ばあちゃんがどんなにご飯をやっても、ムッ クはじいちゃんが好きだった。
そんな風に続いたムックとじいちゃんの暮らしに変化がきた。じいちゃんが病気になったのである。じいちゃんの病気は直腸ガ ン、気付いた時は手遅れだった。手術をして家に帰ってきた時は余命半年と言われていた。
家に帰るとじいちゃんはさっそく裏庭の端から端まで針金をひいた。 裏庭には杉が植えてあったのでそこに太い針金を縛りつけたのである。そしてその線にムックのリードを引っ掛けた。散歩につれて行けなくなったので自分で運動出来るようにしたのだった。
じいちゃんは裏庭に面した座敷にベッドを入れて寝ていたから、いつでもムックが見られるようにもなった。
ムックは毎日端から 端にダッシュしていた。じいちゃんが呼ぶと座敷に向かってダッシュ、そして嬉しそうにしっぽを振る。じいちゃんもニコニコとムックを見ていた。
やがて半年が過ぎる 頃、じいちゃんは病から解放されて天国に行ってしまった。哀しい中にもばたばたとお葬式が済んだ次の日にムックもじいちゃんの後を追うように逝ってしまっ た。
僕はその晩、ムックがじいちゃんを追って一直線にダッシュしている夢を見た。
「ムック、頑張ってじいちゃんに追い付くんだぞ」
叫んで目が覚めた。
子供心に、じいちゃんは天国に行ってもムックと一緒だから寂しくないなとちょっと安心した。
僕はじいちゃんとムックが一度にいなくなって、しばらく家の中に変な隙間がある様な気がしていたが、時間と共に次第に慣れて行った。
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