第6話 踊り場< ホラー系>

 我が家の氏神様は町外れの丘の中腹にある。小さな町だから全世帯が氏子だと言っても良いくらいだ。階段の登り口に鳥居があり21段登ると踊り場がありまた21段登って本殿に着く。境内は狭く本殿の賽銭箱まで10mもあるかないかだ。横には多少広くなっていて、左隅に手水舎がある。右は絵馬掛けがある。普段は無人だ。

 社務所は鳥居のすぐ脇に神主さんの家がありそこが兼務している。階段の登り口の前はちょっとした広場になっていて、お祭りの時は縁日の屋台が並ぶ。

 神社なんて普通は、お正月かお祭り、受験のときくらいしかいかない。お祭りは縁日とかが出て賑やかで町中の人が集まる。広場の一番奥、登り口の右手にはテントが張られ、酒だるが並び氏子代表や世話役が詰めている。

 このなんの変哲も無い神社には絶対に詣でてはいけない忌日がある。8月の新月の夜だ。これは子供の頃、ばあちゃんに口を酸っぱくして言われた。どうしてなのかはまだ聞いていない。大きくなったら教えてあげると言われていたが、聞く前にばあちゃんが亡くなってしまったから、聞けなかった。母に聞こうと思っているが、普段は神社のことなんか忘れているから、なかなかチャンスがない。

 そういえば、子供達はみんなそう言われていたようで、学校で一時噂になったことがある。

「何か怖いことが起こるんだって」

「お化けが出るってじいちゃんが言ってたよ」

「階段から転げるんだって」

 様々な噂があったが、子供を神社に行かせまいとする大人の脅しのようでもあって、信憑性が薄い。


 その日、私は野球部の主将数馬から神社にお守りをお返ししてくるように言われた。昨日は県大会の決勝で、我が校は優勝したのだ。毎年恒例で、大会の前は神社のお札を受けてくる、終わったらお返しするのがマネージャーの仕事だ。私は野球部のマネージャーをしている。頂くときは神主さんに初穂料を収めてお札をもらってくる。お返しは賽銭箱の奥に納め箱があって、いつでもそこにお返しすることができるようになっている。頂くのは前日。お返しするのは翌日が決まりだ。

 学校が終わってすぐに塾へ行ったので、神社には9時頃についた。遅くなってしまったが、通い慣れた道。階段の登り口と、途中の踊り場、そして賽銭箱のところに常夜灯がついているので明るい。

 ダッシュで階段を登り始めた。踊り場まで来るとあと半分。本殿の常夜灯がぼんやり見える。ハアハア言いながらまたダッシュする。踊り場まで来た。あと半分。本殿の常夜灯が見える。早く帰って夕ご飯食べないと、お腹がペコペコだ。ダッシュで階段を駆け上がる。踊り場についた。もう少しだ。お腹すいた~。頑張ってダッシュする。踊り場だ。ここだけやけに明るい。なんだかお腹が空いて力が入らない。早くお返しして夕飯食べたい。ダッシュする。また踊り場についた。

 あれ、さっき踊り場につかなかった? そんなはずないよね。この神社の踊り場は一箇所しかない。そう思ってまたダッシュする。踊り場についた。あと半分だ。

 いや、おかしい。足がもつれる。気がつくと何度も踊り場までダッシュしている。そこから上には登れない。え~、どうして? 踊り場に座り込んで考えた。そういえば今日は月が出ていない。いや、新月かもしれない。空は雲がたくさんあって、月は見えない。私、新月の夜に神社に来ちゃったのかも知れない。いやだ。帰ろう。お札は明日でいいや。そう思って、今度は階段を下る方向にダッシュした。何かが追いかけて来るような気がして怖い。踊り場についた。鳥居が見えている。帰らなくちゃ。ダッシュする。背後が気になって怖い。踊り場についた。

 神社の階段に囚われた私は、登ることも下ることもできない。永遠に踊り場目指してダッシュし続けている。

 誰か助けて。

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