第4話 雨の日デート<青春系>

「雨って、土日に降るのよね。梅雨なら毎日振ればいいのに。なぜか土日を選んで降るのよね」


 シオンはブツブツ言いながら外出の支度をする。今日はトウリとデート。まあ、初めてじゃないけど、そこそこ気合を入れなきゃ。

 トウリはかなりのイケメン。どうしてシオンと付き合ってくれているのか、正直、シオンにもわからない。シオンはごく普通の女子。みんなからかわいいと言ってもらえるほどいい女でもない。自分では『地味なんだよね。どんなにお化粧しても、着飾っても、地味なんだよね』と内心諦めている。しかし、トウリと付き合うようになってからは『トウリに恥をかかせるわけにはいかない』とそれなりに気合を入れて支度する。

 流行りのスカンツも買ってみた。可愛い中折れ帽も買ったし、ギャザーフリル袖のカットソーも買った。でも、今日は雨。

「レインブーツはあるけど、百均の傘しかないのよね。傘買わなきゃ」

 シオンは通勤時は百均の傘と決めている。すぐに無くすから。折り畳み傘も持っていたけど、つい先日の雨の日に壊れてしまった。

 待ち合わせの午後1時に間に合うように早めに家を出て、駅前のデパートに入った。傘売り場に行くとそこは梅雨時、花が咲いたようにたくさんの傘が待っていた。

「わ~。綺麗。しかし、迷うわね、こんなにあると」

 できるだけ地味目の紺に白の花柄を見ていると、店員が近づいてきた。

「お嬢様なら、こちらの方がお似合いですよ。それともお母様にプレゼントですか?」

「ううん、自分用です」

「じゃあ、こちらはどうですか?」

「派手じゃない? あまりこういうの持ったことないから」

「いいえ、全然派手じゃないですよ。雨の日は明るい柄がいいんですよ。ほら、お顔の色が元気に見えますでしょう?」

 なるほど。ピンク系の明るい花柄の傘はシオンの顔色を生き生きと見せる効果がある。今まで沈んでいた気持ちが、少し元気になったようだ。

「これにします。ありがとう」

「ありがとうございます。この傘はきっとお嬢様にいいことを運んできますよ」


 ピンクの傘を手に待ち合わせ場所に行くと、トウリが待っていた。

「あれ~、いい傘持ってるね。似合っているよ」

「うん。今買ってきたの。この前壊しちゃったから」

「そう。今日は雨だから映画でも見る?」


 映画を見てレストランで食事をして、シオンのマンションの前まで送ってくれた。

 マンションの前でシオンの傘に入ってきたトウリは、素早くキスをしてくるっと回ると駅の方に駆けて行った。ピンクの傘は初めてのキスを見届けたのだった。

 雨の日も悪くないなとシオンは思った。

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