第6話 休日

今日は土曜日である。

 この1週間、ゆきが新しく生徒会に入ったり、うたを歌ったり、ラジオに出たり色々と濃い日々を過ごしてきた俺にとっての、久しぶりの休日だ。


 「何をしようかな……」


 俺は、ボソッと呟いた。

 一人で朝ごはん、と言ってもベーコンエッグをつくり、それをパンの上に乗せるだけだが……

 を作りそれを食べ終えると、ココ最近うるさい毎日が続いていたせいで、静かだなと思ってしまった。

 今まではこの生活が当たり前だったのに……

 この1週間でこんなに変わるとはな。


 ***


 朝ごはんを食べ終えた俺は本屋にでも行こうと思い、着替えて外に出た。

 生徒会長モードではなく外に出るのは久しぶりだな。

 このスタンダードな姿で町中をあるいても、うちの学生に気づかれることはほとんど無い。

 ありえないと言ってもいいだろう。

 なぜなら、乃木ノ沢高校生徒会長はあの真面目なイメージが完璧に定着してしまっているからだ。

 私服も、常にピシッとしているのだろうという偏見が飛び交っている。

 まぁ実際はパーカーがものすごく大好きな高校生2年生なんだけどな。


 ***


 今日は、推理小説とラノベ合わせて5冊もまとめ買いしちまったぜ。

 まぁ、空き時間を使ってゆっくり読んでいこう。

 と思いながら、帰り道を歩いていた。

 マンションの目の前まで行くと、見覚えのあるシルエットの女の子が座り込んでいた。


 あれは明らかにゆきだ!

 どうしたんだ?


 俺はすぐさま駆け寄った。



 「おいゆき、どうしたんだ??」


 ゆきは座って足を抑えていた。


 「あっ、先輩。 買い物に行こうとしたら足くじいちゃったみたいで…… あはは、恥ずかしい限りです」


 と、辛そうな顔で言った。

 なんだこの、守って上げたくなるような表情は……

 くそっ、こんな状況で可愛いと思っている俺は、なんて最低な野郎なんだ。

とりあえず助けなければ。


 「たてるか?」


俺は手を差し出した。


 「よいっ、しょっ! あっ痛いっ!」


 ゆきは立ち上がる動作をしたが、足に激痛が走ったらしく、よろめいてしまった。


 「おっと、危ない」


 俺はとっさに受け止めた。


 「あ、ありがとうございます」


 ゆきは顔を赤らめながら言った。


 「歩けそうもないし、とりあえず部屋行こうぜ。ほらおぶされ」


 俺はそう言いながらおんぶをする体制になった。

 ゆきは少し、迷ったような表情を見せたあと、恥ずかしそうに


 「お、お願いします」


 と言った。


 「よいしょっ」


 うわぁ〜軽いっ!

 なんでこんなに軽いんだよ……

 本当に人かよ?


 「ありがとうございます…… 私がドジっちゃったばっかりに、こんなことさせてしまってごめんなさい」


 「へーきへーき、 それよりもあの時俺が通りかかってよかったよ。 あのまま誰も来なきゃ自分の部屋に戻るのも、辛かったもんな」


 「ほんとナイスタイミングでした! 」

 と、そんな話をしているとマンションについた。


 「この鍵で開けて下さい」


 「わかった」


 俺は鍵をとってあけ、中に入った。

 俺にとっては初めての女の子の部屋だ。


 とりあえず、ベッドの上にゆきをおろした。

 その後、一回部屋中を見渡してみた。


 とっても綺麗に整った部屋だなぁ。

 流石女の子といったところか……


 「なんか、手当する道具とかないか?」


 「あぁ、 ありません。 引っ越してきたばっかりで、買うの忘れてました」


 「わかった。 ちょっと待っててくれ、俺の部屋から持ってくるから」


 「何から何まで本当にありがとうございます」


 ***


 湿布やら包帯やら一式をもってきた俺は、一瞬で手当を終わらせた。

 俺は中学生の時バドミントン部で、怪我しまくりだったからな!

 手当は得意なのである。

 まぁ、なんの自慢にもならないが……


 「これで、とりあえず大丈夫だろ」


 「あ、ありがとうございます! 本当に、あの時先輩が通りかかってなかったら、まだきっとあそこで座り込んでましたよ」


 「それはないだろ。 きっと誰かが助けてくれたさ」


 「でも、助けてくれたのは先輩ですから」


 ゆきは、笑顔で言った。いくらなんでもその笑顔は反則だろ……


 「そ、そういえば昼ごはん食べてないだろ? 作ってやるから待ってろ」


 俺は、その可愛い笑顔に耐えられず逃げるようにキッチンに行こうとした。


 「えっ、 そこまでお世話になるわけにはいきませんよ。私が作りますから」


 「立ってるのがしんどいくせに何アホな事言ってるんだ。 いいか? こういう時はな、俺をもっと頼ってくれていいんだからな?」


 なんだこの恥ずかしセリフはああああああああ……

 よく言えたもんだな……

 もう二度と言わねぇ。


 「な、なな、なんて恥ずかしいこと言うですかぁ」


 「や、やめてくれ。 俺だって恥ずかしかったんだよ!!!! まぁでも今のは本心だからな。 わかったら座ってテレビでも観てやがれ」


 「本当に、本当に、ありがとうございます!」


***


昼ごはんは、俺特製、オムライスを作ってみた。


「おいしいです!先輩って料理、上手なんですね」


「まぁ一人暮らしだから、大抵の事はできるようにしとかないと思って、入学してから料理はずっと勉強中なんだよ」


「へぇ〜凄い。 かっこいいです先輩!」


!?そんな笑顔でかっこいいって言われたら照れざるを得ないじゃないか…


「ま、まぁこれくらいみんなやってる事だろ。 あ、足の具合はどうだ?」


「痛いですけど、明後日の学校までには治して見せます!」


「まぁそんな無理せんで、ゆっくり直してくれよ」


「じゃあ困ったら助けてくださいね」


「そんなん、当たり前だろ。頼まれなくても助けてやる」


俺は、今カッコつけた。 助けてくださいねが可愛すぎてカッコつけたのである。

えぇい、ゆきが可愛いのは今に始まった事じゃないじゃないか…… そろそろ可愛さに慣れろ内山涼介。

このままでは、卒業までもたないぞ!

果たして俺は、ゆきの可愛さになれる日は来るのであろうか。

そんなことを思いながら、自分の部屋に戻っていくのであった。

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